第9話 魔法とは

「自分の体を、雷に変化? いやいやいや……」


 違うの。俺が見たかったのはこう、手から火の玉とか、そう、いういわゆるテンプレートな魔法であって、こんなラスボスが使ってきそうなものでは断じてない。


「とうさま、すごかったね~」

「うぇ! 姉さま!? いつの間に背後に」


 急に抱きしめられたと思ったら姉さまの声、動揺していたとか関係なくこの人の気配ってわからないんだよな。にしても何故ここに?


「姉さま、どうしてここに?」

「ん? カエデが父様魔法使うっていうから私も見よーって」

「いつのまに……」

「これも女ちゅ……メイドの嗜みですわ」


 どんな嗜みだ。どちらかと言えばそれは忍びの嗜みでは? くノ一だったりします?


「あなた~~~!!」


 あ、母様が父様に突進していった、足早っ! 飛んだっ!? おお、グルングルンと回転して勢いを殺してお姫様抱っこしてるよ。ダイナミック過ぎない?

 

 父様がちょっと赤面しながらこっちにようやく到着。母様つやつやしてるな~


「久々に見たけどやっぱりかっこよかったわ~ 惚れ直しちゃう!」

「ああ、うん。レイリア、子供たちも見ているから、ちょっと」

「いいじゃない、夫婦仲がいいことは良いことだわ!」

「あはは……」


 ん~……まあいいや、このまま質問しよ。


「父様すごかったです!」


 まず口を軽くするためにおだてるのは必須だよね? いや嘘言ってるわけじゃないからね。本当にすごいとは思ってるからね?


「うん! うん! 父様すごいわよね~」


 母様は黙ってて!


「アツキわかったか?」


 なにが? こういう雰囲気会話苦手なんだよな……とりあえず答えとくか。


「えっと、自分の体を雷に変える魔法でしょうか?」

「そうだ」


 あってんだ……これで。でも父様……母様に頬ずりされながら、かっこいい雰囲気出されてもこっちもけっこう困るんですけど……


「すごかったです! 雷がバリバリって光って、ドーンって音が鳴って!」


 大げさに手振り身振りを使い、父様を褒めたたえる。なんか口滑らせてくれんかな……


「父さま、なんで刀を鞘に納めてたの?」

「おう?」


 唐突に口を開く姉さま。でも確かに、最初は抜刀術かと思ったがあそこまでの、文字通り光の速さの攻撃だ。刀を抜くことですら遅延行為では?


「あはは、昔同じことを言われたな。」

「私が言ったのよねー」

「ああ、そうだね。レイリアがすごい剣幕で僕に言ったんだ」

「だって、あんまりにもすごくって悔しかったんですもの」


 イチャイチャしないで答えてもらってよろしいですか?


「ねーねー父さま―!」

「ああ、ごめん、ごめん。ん-父様が習った型がそうだったからだよ。」

「刀抜いたほうがよくないのー?」

「それだと魔法が発動しないんだ。もう型が体に染みついているからね」


 ん? 型の話は分かったけど、魔法とは関係ないのでは? 魔法は魔力を消費すれば使えるんじゃないの?


「魔法は魔力を消費すれば使えるんじゃないですか?」

「ん? それは……いや、喋りすぎだな、これは」


 ちっ! ここで黙るのか。


「それは無理よ。魔法を発動させるのって大変なのよ。自分を信じれなくなっちゃうような不安要素は極力排除しなくちゃ」

「レイリア!?」

「いいじゃない、アツキは頭いい子なんだから中途半端に教えちゃう方が危ないわよ」


 ナイス母様! 今日は父様と存分にイチャイチャしていいぞっ!


「そうかもしれないが……」

「それに薬もなく魔法は発動しないわよ~」

「ふーっ、まあ、そうか……アツキ、魔法は自分の内面世界を、魔力を触媒にして外の世界に顕現させることなんだ」

「ん? ん? 内面世界、とはどういうことですか」

「詳しくは……10歳を超えたら教えてやる」

「ま、意地悪な父様ね」

「さ、屋敷に入ろう。僕はおなかが減ってしまったよ」


 先に歩く父様の背中をなんでもない風に追いかけながら、僕は脳をフル回転させる。なんだ、内面世界とか中二病みたいな言葉……いや、それは僕の固定概念か? 前世の記憶が邪魔をしているな。そんな荒唐無稽なものがある世界だということか! それに薬? どういう薬だ? なんで飲む。飲んだら魔法が使える? でも父様は何も飲まずに魔法が発動していた。であるならば薬は必須ではないはずだ……


 そんな風に僕は一日中悶々としながらすごした。

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