第8話 紫電変雷

 絶賛父様の前で頭を下げ中。可愛い息子のおねだりを聞き遂げてくれ~~


「アツキ頭を上げなさい」


 すぐに上げるようなことはせず、ゆっくりと顔を上げる。神妙な顔をすることも忘れない。ま、演出だよね。自分のこざかしさが嫌になるが、使えるものは使わなくちゃね。

 父様の目が少し潤んでいる、効果は抜群だっ! 僕と目線を合わせゆっくり言い聞かせるように話し始める。


「お前の気持ち、父としてうれしく思う。だが、今はまだその時ではない。歯がゆいだろうが、その気持ちを忘れず修練を続ければ、いずれ私をも超えるものとなるだろう」


 うん、違う。欲しい言葉はそれじゃないんだよね~ あと……無理だよ。父様超えるとか何の冗談? 無理だよ? 期待の重さでつぶれるよ? あと僕には時間ないから後三年で死なない程度には強くならなくちゃだからね。だがあまりにもまともな言葉だから反論し辛いな……どうしよ。


「御屋形様、差し出がましいとは思いますがよろしいでしょうか?」

「カエデ? 申してみよ」

「はい。いずれと言われても、坊ちゃまも困ってしまうでしょう。どうでしょう頂の景色を見せるというのは」

「それは……紫電変雷を?」

「はい、この国では、伝来魔法? でしたか…… いずれたどり着く景色を見ておくことは、道に迷いそうなとき、若様を明るく照らす星となることでしょう」


 なんか僕をハブって話が進んでるな…… にしても伝来魔法だって!


 ここでまた英再伝の歴史のお勉強。

 前回は魔法が廃れ、魔術が普及したと話をしたと思うが、それからしばらくしてある問題が生まれてしまう。それは何かというと……手柄横取り問題である。

 どういうことかというと、『誰が使っても』安定した威力を発揮する魔術。国を脅かすような危険なモンスター討伐作戦時に、誰がとどめを刺したのかわからなくなったのだ。それどころか、私が倒した、いいや私が! と疑いを晴らすため決闘騒ぎにまでなったりと問題を様々起こしたらしい。そこで見直されたのが『魔法』である。


 どこのどなたが始めたのか存じ上げないが、討伐のさなか、炎で生み出された鳳とどめを刺した。そして今のは私の魔法であると宣言した。これにはほかの方々も認めざるを得ず、それからどこの家の物かわかる派手な魔法を使う文化が残った。それが伝来魔法。補足だがどこの家の魔法であるか鑑定する伝来魔法鑑定士なる職業すら存在する。


「うむ、そうだな、私も父上に見せていただいたな……よし、いいだろう。アツキ今からわが家の伝来魔法を見せる、いずれお前も覚えなければいけないものだ、よく見ているんだぞ」

「はい! 父様! カエデもありがとう!」

「いえいえ」


 何かわからんがやったね!


「アツキ、わが家の伝来魔法、名を『紫電変雷』という。見せる前に一つ約束だ」

「はい」


 きりっと父様に向き直り返事する。

 父様は僕の目を見て重々しい口調で話す。


「絶対にマネをしようとするな」

「それは……危ないからでしょうか?」

「ああ。未熟なものが使えば魔力を枯渇させ倒れたり、場合によっては死に至る。それほどに危険なものだ」

「そうなのですか……どこの家も命がけで伝来魔法を覚えている、大変ですね貴族とは」


 ゲーム中のモブ貴族も命がけで伝来魔法を覚えていたのだろうか……ちょっと舐めてたな。


「いや、それは……どうだろう?」

「え? 違うのですか?」

「ああ、うん。正しくは、知らない、だな」

「知らない、ですか?」

「ああ、父様が、別の国から来たのは話したことがあったよな?」

「はい、外国から来た父様と運命的な出会いを果たしたと、母様が何度も……」


 惚気たいんだろうけど、5歳児に何度も話すのはダメだと思うの……


「あ、ははは……まあ、そうだな。おほん、伝来魔法と認められたが、この魔法は私の実家の流派の奥義とされた技だ。この国の伝来魔法とは出自が違う。私の技は敵を倒すためだけにある。そこいらの見掛け倒しとは違う」


 わっ、今一瞬父様の顔が怖くなった。これは相当この技にプライド持ってそう。


「だが、恐れすぎる必要もない。今はこの技を素直に見ておきなさい。」

「はい父様!」


 父様が少し離れたところに移動し、構えをとる。


「あの構え……」


 腰を落とし、刀は鞘に納めたまま、僕でも知ってる抜刀術だ。


「我は雷……何人たりとも追いつくことかなわず……」


 おお、父様を中心として、いたるところからバチバチと音を伴う紫色の放電現象が起こる。


「ただ、撃ち貫くのみ、紫電変雷、1の太刀、遠雷!」


 放電が激しくなり世界を白色に染め上げる目を開けていられず、目をつむると、何かの衝撃を感じたと思ったら、遅れて雷の轟音が鳴り響く。


「うわっ!」


 目がちかちかして、くらくらする。目を抑えていると、背中に温かみを感じる。どうもカエデが近づいて来て僕の背中を支えてくれたようだ。


「大丈夫ですか、若様?」

「うん、大丈夫。ちょっと驚いただけ。」


 目を開け、父様を探すと、さっきまでいた場所にその姿はなく、きょろきょろとあたりを見回す。


「若様、あちらですよ」


 カエデが指さした方角、かなり遠い場所に、こちらに歩いてくる父様の姿を見つけた。


「あんな遠い場所に……」

「あれこそが、紫電人雷流の奥義。自らを雷と変じて敵を打つ。紫電変雷ですよ、若様。」

「自身を雷に変化させる魔法……」


 なんか、思った以上にすごい魔法出てきたな。

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