セクハラするギャル子さんとされないマジメ子さん

黒烟

何故でしょうか

「マジメ子〜見てこれかわいくない?」

「ふむ」


 私、マジメ子とギャル子さんは同じ図書委員です。

 クラスは違いますがこうして図書当番が重なった時によく話します。


「むむ」

「あははマジメ子真剣に見過ぎ〜」


 ギャル子さんと一緒に過ごす時間はとても楽しいです。

 ギャル子さんはよく笑います。

 それを見ると私の心は何だか温かくなるのです。

 きっと私たちは仲の良い友達なのでしょう。


 とある日の昼休みでした。

 食堂へ向かおうとする私は教室でお昼を過ごすギャル子さんを目にします。

 ご友人と仲睦まじく戯れておりました。


「なんかあたしバイト始めてから肩凝っちゃってさ。歳かな」

「おっじゃああーしが揉んでやろーかー?」

「頼む」

「お客さんお加減はいかがですかぁ?」

「あーそこそこ」

「グヘヘェ、こっちの方も凝ってるんと違いますかぁ?」

「あんっそこそこ…ってアホ!」


 ギャ…ギャル子さんがご友人の胸をお揉み遊ばれている!


 なるほど、スキンシップによって更なる友情を育まれておいでですね。

 友達ともなるとああいったのが普通なのでしょう。

 まさに水魚の交わり。

 ならば私も。


 次の当番の日、実行に移します。


「マジメ子〜昨日のアレ見た?」

「はい、非常に勉強になりました」

「あはは、なんのだよ」


 ギャル子さんとの当番の日、今日も楽しく過ごしています。

 ですが今日は少しだけ違います。

 何故なら、より仲を深めるための作戦があるからです!

 ここです!


「それにしてもずっと座ってると肩が凝ります。歳ですかね」

「あはは〜こう動かないとどうしてもね〜」

「はい」


 …………

 終わりでした。

 胸を揉むどころか肩揉みのフェーズに移ることすらありませんでした。

 何故でしょうか。

 揉めるだけの胸を用意してこいと言うことでしょうか。

 それとも…まさか私たちはまだそこまでの仲ではないと言うことでしょうか!?

 だとすれば衝撃の事実です。

 これは一刻も早く改善しないといけません。



 何も改善案も浮かばないまま、別の日の昼休み。

 今日も食堂の途中でギャル子さんを見かけます。

 相も変わらずご友人と仲睦まじく戯れておりました。


「あちー、なんで学校ってのはマ◯ク並みに涼しくしてくんないのかねぇ」

「……」

「なに見てんだギャル子」

「…黒か」

「どこ見てんだスケベ。ったく前閉めるか…」

「いや、パンツね」

「下もかよバカ野郎お前のも見せろ!」


 ギャ…ギャル子さんが下着をお覗き遊ばれている!


 なるほど、相手の奥底まで知ることでより理解を深め合うということですね。

 親友ともなるとああいったのが普通なのでしょう。

 まさに管鮑の交わり。

 ならば私も。


 次の当番の日、実行に移します。


「マジメ子〜今回のテストどうだった?あーし赤点ギリ回避」

「おめでとうございます。私は大体平均点前後でした」

「マジメ子意外と見た目ほどの学力無いよな」

「恐縮です」

「あはは褒めてねーぞ」


 ギャル子さんとの当番の日、本日も楽しく過ごしています。

 ですが今日は少しだけ違います。

 何故なら、より仲を深めるための作戦があるからです!

 Yシャツを第三ボタンまで開け、胸元をはだけさせて準備完了。

 ここです!


「それにしても暑いですね。図書室もサ◯ゼ並みに涼しくしてくれないでしょうか」

「……」


 …反応がありません。

 ちらりと横目でギャル子さんを見ると、

 なんと顔を私の反対方向に向け鼻を抑えているではありませんか!


「ソウ…ダネ…」


 息も絶え絶えにギャル子さんが返答をくれます。

 鼻血が出ているのでしょうか。

 いけません、明らかに熱中症の症状です。


「大変です!ギャル子さん!保健室に行きましょう!」

「ふええっ!あーしまだそこまでは心の準備が…」

「熱中症は放置すると危険です!一刻も早く処置を!」

「あ…ハイ」


 ギャル子さんを保健室に送り届け一安心です。


 それにしても。

 ハプニングもありましたがギャル子さんは私の下着に一瞥もいただけませんでした。

 何故でしょうか。

 視線を吸い寄せるだけの蠱惑的な下着を着ろと言うことでしょうか。

 それとも…私の身体には微塵も魅力が無いと言うことでしょうか!?

 だとすれば驚愕の事実です。

 これは一刻も早く改善しないといけません。



 特に改善案も浮かばないまま、また別の日の昼休み。

 またしても食堂の途中でギャル子さんを視認します。

 ご多分に漏れずご友人と仲睦まじく戯れておりました。


「ぐわっハシ落としちまった」

「あちゃー」

「あーくそ…机ごしだと取れねぇか…」

「横着すんなよケツ見えてんぞー」

「うるせぇケツでメシが掴めるか」

「オラっここがいいんだろっ」

「あんっ…いいっ…ってボケ!」


 ギャ…ギャル子さんがご友人のおいどに腰を打ちつけている!


 なるほど、ラビングをして仲間の絆を深めるということですね。

 心の友ともなるとああいったのが普通なのでしょう。

 まさに刎頸の交わり。

 ならば私も。


 次の当番の日、実行に移します。


「マジメ子〜今度の三連休どう過ごすん?」

「友達ともっと仲を深めるための計画を立てます」

「えっそうなん?そっか…うん…」

「はい」


 ギャル子さんとの当番の日、此度も楽しく過ごしています。

 ですが今日は少しだけ違います。

 何故なら、より仲を深めるための作戦があるからです!

 ライブラリーカレンダーのプラスチック板を持って準備完了。

 ここです!


「あらら、今日の日付を落としてしまいました」

「あららら」

「んー…届きそうにありませんね…」

「ちょっ」


 どうでしょうか、さあラビングを!


 ギャル子さんがガシッと腰を掴んできました。

 これは…成功ですか!?


 と、思いきやそのまま机から引きずり下ろされました。


「パ…パンツとか見えちゃうからさ…」


 まだ残暑が厳しいのかギャル子さんは顔を赤くして顔を背けています。

 何故でしょうか。

 私の細い身体は打ち付けるには心許ないと言うことでしょうか。

 それとも…私はラビングに値しない雑魚と言うことでしょうか!?

 だとすれば驚天動地の事実です。

 これは一刻も早く改善しないといけませんが、もはや八方塞がりです。


 直接行動に移しましょう。


「ギャル子さん」

「は…はいっ」

「今度の三連休空いている日はございますか?」

「…へ?」


 無事、日曜日にお会いする約束までこぎつけることが出来ました。

 劇的な進歩です。

 これで作戦に移せます。


 先日調べてみたところ、ギャル子さんが及ばれている行為は俗に”セクハラ”と言われるそうです。

 ギャル子さんは通常ハラスメントに該当する行為に及ばれることで友情の強固さを確かめている…なるほどなかなか深みのある行動です。

 現状私ではその域にまで達していない模様。

 しかしセクハラまで到達しない仲であるならば、そこまで深めれば良い。

 そしてあわよくば私からもセクハラを仕掛けます。

 今回はギャル子さんが放課後によく遊びに行かれるというモールで親睦を深める作戦です。


 当日になりました。

 行き違いがあってはいけないので待ち合わせ時刻の三十分程前から駅前に待機しています。

 このまま三十分暇を潰す予定でしたが、予定より早くギャル子さんも合流されました。

 どうやら一本分早い電車で来ていただいたようです。

 とても嬉しいです。


「マジメ子お待たせ〜結構待った?」

「はい、楽しみで寝付けなかったので昨日の夜から」

「えええ待ち過ぎじゃん!」

「冗談です」

「あはは…マジメ子の冗談わかりづらいよ〜」


 それにしても私服のギャル子さんを拝見するのは初めてです。

 制服のギャル子さんも至高ですが私服のギャル子さんもまた珠玉。

 胸が高鳴ります。


「へ…変じゃ無いかな~」

「いえ、とてもお似合いです。お綺麗です」


 拍手して称賛します。

 今日の為に生まれてきたと言っても過言ではないかもしれません。


「えへへっ、ありがと〜マジメ子もカワイイよ」

「むむっ」


 なんでしょう、心臓が強く収縮しました。

 病気でしょうか。


 その後、モール内のアパレルショップ、アクセサリーショップ、ゲームセンター等を巡り気付けばお昼になっていました。

 フードコートで一休みです。


「あーめっちゃ楽しい!」

「同感です。この瞬間は何事にも変え難いですね」

「あはは詩的~」


 和やかな雰囲気で場も温まってまいりました。

 これならセクハラに値する友達と言っても差し支えないのでは。

 どうなんでしょうか、実際に評価を頂くことにしましょう。

 ここです!


「ちなみにどうでしょうか」

「どうって?」

「セクハラする気になりましたか?」


 ギャル子さんは飲んでいた水を口で霧状に変えました。

 さながら妖精の鱗粉のようです。


「え?へっ?なに?聞き違い?夢?」

「セクハラする気になりませんでしたか?」

「あーもう夢じゃなかった!何聞いてんのマジメ子!」


 ギャル子さんは大層ご立腹のご様子です。

 大変だ、これは早急に釈明をしないといけません。


「先日ご友人とのご昼食中にギャル子さんがセクハラに及んでおられたので」

「及んでおられたので」

「私にもセクハラしないのかな、と」

「ヤバい説明してもらってもよくわかんない」

「それで、いかがでしょうか」

「ヤダ全然引かないこの子」


 まだ評価を頂けていないのでじっと待ちます。

 諦めたようにギャル子さんが口を開いてくれました。


「そういうのマジメ子にはしないから!」


 霹靂一閃、まだお認め頂けていませんでした。

 視界が歪んでいくようです。


「友達では…ないのですか?」

「友達…だけどその…」


 そのお言葉で少々持ち直しました。

 しかし…それではなぜなのでしょうか?

 ギャル子さんは俯いて顔を覆ってしまいました。


「好きだから…」


 小声でしたが確実に聞き届けました。

 やはり私たちの気持ちは通じ合っていたようです。


「もちろん、私もギャル子さんが好きです」


 私が答えるとギャル子さんはバッと顔を上げました。


「やはり私たちは友達でしたね!ではご遠慮なさらず!」

「そういう好きじゃないの!」

「違うのですか?」


 皆目見当もつきません。

 ギャル子さんは顔を赤くして苦しそうしています。

 私になにか出来ることはないのでしょうか。

 やがてギャル子さんはゆっくり話し始めます。


「恋愛対象として…好きっていうか…その…」

「マジメ子に恋してるって…感じっす…」


 っす、ともう一度呟き、ギャル子さんは口を窄めて目を背けたまま動かなくなってしまいました。

 なる…ほど。

 そうか、だとしたら私はとんでもない勘違いをしていました。


「申し訳ございません!」

「申し訳ございません!?」


 ギャル子さんの顔が青ざめていきます。

 何故でしょうか。

 まだ何も説明できておりませんのに。


「私てっきりギャル子さんにまだ友達だと思われていないと考えておりました!」

「ああ…そういう…」

「それどころか私に恋心を抱いて頂けていることにすら気づいておりませんでした!」

「ちょ…改めて口に出さないで…ハズい…」

「剰えそのままギャル子さんを振り回しておりました!申し訳ございません!」

「今も結構振り回してるよ!?」


 思わず立ち上がっていたので座り直しました。


「ちなみにわからないのでお聞きしたいのですが」

「はい」

「このような私のどこをお慕い頂けているのでしょうか」

「ええー…それ聞いちゃうー…」


 ギャル子さんは非常に言い辛そうにしています。

 お願いします、ギャル子さん。

 私、知りたいです。


「ええと…素直で正直で真っ直ぐなところと…」

「はい」

「抜けてたりズレてるところあって面白いところ…」

「ええっ」

「あと笑顔がカワイイなーって思ったりとか…」

「おお」

「一緒にいると楽しいなーって思うところ…」

「ふむ」

「待ってこれ超ハズい」


 なるほど。

 私の感じていたギャル子さんに対する気持ちと類似点が多いです。

 はて…ということは…


「それは…何気ない会話だけで嬉しくなるものですか?」

「う…うん…」

「家に帰ってからもついつい相手のことを思い浮かべてしまいますか?」

「まあ…そだね」

「笑顔を見ると心が温かくなったり心臓が締め付けられたりしますか?」

「なんでそんな具体的に知ってんの!?」


 おお…

 おお、なるほど。

 どうやらこの気持ちに名前が付いたようです。


「ギャル子さん、今気づいたのですが」

「は…はい、なんでしょう」

「私、ギャル子さんに恋をしています」

「はい…はい?」

「私、ギャル子さんのことを愛しています」

「おおぅ…なる…ほど…なるほど」


 お互い何も喋らない時間が間を流れました。

 しばらくして、


「…マジ?」

「マジです」

「友達として?」

「ではなく」

「恋愛感情で?」

「好きです」

「マジか」

「マジです」

「じゃあ…付き合っ…ちゃう?」

「不束者ですが」

「じゃあ…なんだその…よろしくっ」

「よろしくお願いします」


 爽秋の候、このたび、私マジメ子とギャル子さんは、

 晴れて付き合うこととなりました。




 私、マジメ子とギャル子さんは同じ図書委員です。

 クラスは違いますがこうして図書当番が重なった時によく話します。


「ちょっダメだってマジメ子ここ学校だよ!?」

「学校で事に及ばれるカップルは多いと聞いています」

「そうかもしんないけど委員活動中!ここ図書室!」

「誰もいないから静かで良いですね。捗ります」

「何がだ!」

「グヘヘェ、ここが良いんですかぁ」

「それセクハラぁ!」


 ギャル子さんとの当番の日、今日も楽しく過ごしています。


「こんな感じでしょうか」

「バッ…ちょあっ…んんっ」


 ギャル子さんと一緒に過ごす時間はとても楽しいです。

 ギャル子さんはよく笑います。

 それを見ると私の心は何だか温かくなるのです。


 それもそのはず、

 私とギャル子さんは付き合っているのですから。

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