第二話 静寂の裂け目 03
本校舎棟には教室がある。私たちのメインの学舎だ。他には職員室、生徒会室、保健室、図書館、パソコンルームなどがある。建物の真ん中には広い吹き抜けがあって、自然光が差し込む設計で全体的に明るい仕様になっている。
ただ普通と違うのは、玄関ホールだと思う。昇降口近くの玄関ホールには、
私は二年生だから、一階に教室がある。二年生は一番危うい学年だから、先生達が駆けつけやすい一階だそうだ。教室に向かう時って無意識に動いちゃうから、未だに一年生の二階に行きそうになるんだよね。
「おはよー」
「おはよう榊さん」
隣の席の
「……榊さん」
「どうしたの」
「何か、あったの? ……顔色悪いけど」
「
「私も白岐先輩に一票」
「無理しないほうがいいよ。
「わ、わかった……今日は、ゆっくりする」
「みんなおはよ〜」
ガラガラっと入り口の戸の音と一緒に、女子アナっぽい声が聞こえた。あ、きた。わかっていたことだけど、ううん、だからこそ――ゲンナリした。
教室の空気がピシッと固まる。あーあーまた来やがったって、みんなの背中が語り始めて、自分の席に着席していく。私の背中にも、同じ文字が刻まれていることは想像に難くない。そんな雰囲気には気づくことなく、
私は体育館で担任発表があった時のことを思い出した。みんな二列に並んで、担任は誰になるだろうってそわそわしてた。
だけど発表された瞬間――万年二年担当の薄ミルクかよって感じで、みんなの肩が一気に落ちたことは、脳裏にしっかり刻まれている。薄ミルクっていうのは、中身が薄いことと、よく白スーツを着ていることから来る、桐生先生のあだ名だ。でも桐生先生が全く役に立たないからこそ、クラスの結束が固まりそうなのは皮肉でしかないと思う。
「起立、礼」
「おはようございます」
「着席」
日直の号令で、今日も先生の空回り
*
午前中の授業が終わり、今はランチタイムだ。お昼時間は十二時三十分から始まる。みんな好きな場所で食べる感じだ。お弁当の人もいるし、学食を食べる人もいるし、購買で何か買う人もいる。
「ただいま」
私は寮の個室で呟く。部屋の入り口からはシングルベット、勉強机と本棚が見える。だけど、それだけじゃない。この縺蜜仕様の部屋には、ユニットバスと小型キッチン、小さめの洗濯乾燥機もある。そう――ここは立派なワンルーム。
私たち
……別に色は変わってないのに、なんでみんな体調悪そうって言ったんだろう? 不思議だね。
私は寮に戻って食べることも多い。他の人の焔気や縁象を感じることなく過ごすための、
今日のお昼は玄米パンに具沢山ミネストローネとヨーグルトだ。これは購買部で買ってきたもので、学校のブランドの美味しいやつ。
「おいし、ホッとするなこの味」
こんなふうに呟いても、
「ちょっと横になろうかな」
お腹が落ち着いてから、ずっと一緒にいるぬいぐるみのリリにそう言ってみる。いつから一緒だったのか思い出せないくらいの、一番の友達だ。猫とうさぎが混じったみたいな真っ白な子で、時々抱きしめて眠ることもある。
リリをずっと見つめると、
*
うーんよく寝たー
両腕を伸ばして、ふっと起き上がる。まだちょっと眠いけれど、前より
「や、やっちゃった。間に合うかな?」
次の授業は移動教室じゃないからギリギリ間に合いそうだけど、大丈夫かな? 私はしっかり施錠して、カバンも忘れずに本校舎棟へ急ぐことにした。
私は街路樹に沿って進む。小走りで急いでいると、道がコンクリートからレンガになったことに安堵して、ふっと足を緩めた。
やっと前をみる余裕ができて、視線を向けると、どこか雰囲気が緊迫していた。 物々しい雰囲気を校舎全体から感じて、思わず立ち止まってしまう。
「え、なにこれ……」
喉がつかえて、胃の辺りもなんだか……何かが詰まったとかじゃない。胃そのものが何かを吸収したみたいに重い。
何より――
こんなにひどいの、いつぶりだろう。
私がなんとか足を動かして校舎に向かおうとするけれど、足が全くそちらには動かなかった。
「どうして……何か、あるのかな?」
こういった時は、無理しちゃダメだ。
ちょっとゆっくり休憩したい。
ここからだと……どこがいいかな。
私があたりを見渡していると、ふと遠くに古びた建物が視界の片隅に入った。
そう――旧校舎だ。
「誰もいないし、いいよね?」
私の呟きに応答があるわけないけれど、それでも
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