第8話 小悪魔からの質問

「それでは、質問させていただきますね」


 葵がにっこりと微笑みながら言った。その表情は、まるで学校の先生が生徒に質問するような、とても無邪気なものだった。


 でも、俺にはわかる。その瞳の奥に、何か楽しそうな光が宿っているのを。


「……何を聞くんだ?」


「そうですね……まずは覗き見について教えてください」


「覗き見って……」


 俺は困惑した。何を答えればいいんだ?


「男の子って、どうして覗き見をしたがるんですか? 理由を教えてほしいんです」


 理由なんて……下心とエロスへの渇望しかないんだけど。当然そんなことをクラスメイトの女子に言えるわけもない。


「そ、そんなこと聞かれても……」


「佐山くんも実際にやろうとしていたわけですから、何か理由があるんですよね?」


 葵が首を傾げながら聞いてくる。その仕草がまたかわいいのなんの。だが、言えないものは言えない。


「それは、その……男なら当然というか……」


「当然?」


「い、いや、当然じゃないけど……でも、好奇心というか……」


 俺は歯切れ悪く答えるしかなかった。こんなこと、どう説明すればいいんだよ……。


「なるほど、好奇心ですか。それでは、もう少し具体的に教えてください」


 葵がさらに踏み込んできた。


「男の子って、女の子のどこを見たいんですか?」


「はぁ!?」


 俺は思わず声を上げた。そんな直球で聞いてくるのかよ!


「え、えっと……それは……」


 頭では答えに窮していたが、体は正直なもので、視線が自然と葵の豊かな膨らみに向かってしまった。


「あら、また見てますね」


 葵が楽しそうに指摘してきた。


「い、いや、俺は別に……」


「別に見てても構いませんよ」


 そう言いながら、彼女は何気ない仕草で胸の前に腕を組んだ。


 その瞬間だった。


 たわわに実った果実のようなふくらみが、ぐっと持ち上がる。細い腕に押し上げられるかたちで、バスタオルが苦しげにその曲線をなぞり、合わせ目さえ微かに歪んで見えた。


 意図してか、無意識か。どちらにせよ、男の目には刺激が強すぎる光景だった。


「やっぱり胸なんですか?」


 葵がニンマリとした笑顔を浮かべて聞いてきた。


「そ、そんなこと……」


「正直でよろしいですね」


 葵がくすくすと笑った。


 俺の反応を完全に読まれている。


「ちなみに……私の身体で、見てみたいところはありますか?」


「は!?」


 またしても俺は驚きの声をあげる。


「そ、そんなこと答えられるか!」


「あら、どうしてですか?」


 葵が首を傾げた。


「どうしてって……そんなの常識的に考えて……」


「でも、正直に答えてくれないと……」


 葵の表情が少し困ったような顔になった。


「見逃してあげられなくなっちゃいますね」


 その瞬間、俺の血の気が引いた。


「――ま、待ってくれ!」


「覗きは立派な犯罪行為ですからね。私も見逃すわけにはいかないかもしれません」


 葵が申し訳なさそうに言った。でも、その瞳の奥には、明らかに俺の反応を楽しんでいる光があることは明白だ。


「わ、わかった……」


 俺はついに観念した。


「言う……言うから……」


「本当ですか?」


 葵の表情がパッと明るくなった。


「む、胸……が見たい」


 俺は顔を真っ赤にしながら、小声でそう答えた。


「胸ですか。とても勉強になりました」


 葵がまるでその答えを待っていたと言わんばかりに、満足そうに頷いた。


「勉強って、なんのだよ……」


「他には?」


「他って……」


「せっかくですから、もう少し詳しく教えてください」


 葵が楽しそうに続けた。


「あ、脚とかも気になりますか?」


 そう言いながら、葵が少し足を見せるように、タオルの裾をそっと摘みゆっくりと、滑らかに持ち上げていく。すべるように現れたのは、白磁のような太もも。やはり湯上がりなのか、肌はほんのり桜色に染まっている。


「ぐっ……」


 俺は答えに窮した。


「お尻はどうですか?」


「お、お尻って……」


「男の子はお尻も好きだって聞いたことがあるんです」


 葵が無邪気そうに言った。でも、その表情は明らかに俺の反応を面白がっている。


「正直に答えてくださいね」


「……ああ……気になる……気になるにきまってんだろ!!」


 俺はもう抵抗する気力もなく、半ばヤケクソで答えた。


「なるほど。正直で好感が持てます」


 葵がくすくすと笑った。


 俺はもう完全に羞恥心でボロボロだった。顔は真っ赤で、汗だくになっている。


(もう勘弁してくれよ……)


 俺は心の中で叫んだ。


「ありがとうございます。とても参考になりました」


 葵が満足そうに言った。


「あ、あのさ――こ、これで約束通り見逃してくれますか?」


 俺は必死に懇願した。


「そうですねぇ……」


 葵が少し考え込むような表情を浮かべた。


「でも、私は『考えてあげる』と言っただけですからねぇ」


「え?」


「覗きは立派な犯罪ですし……」


 葵が申し訳なさそうに言った。でも、その表情には明らかに俺を焦らしている楽しさが見える。


「そ、そこをなんとか……お、お願いします!!」


 俺はプライドを完全に捨てた。額を床に擦り付ける――いわゆる土下座スタイルで懇願した。


「それでは……」


 葵が小悪魔的な笑顔を浮かべた。


「あと一つ、見逃す条件を出させてください」


「まだあるのか……」


 俺はがっくりと肩を落とした。


 一体この小悪魔は、俺に何をさせるつもりなんだ――そう思わずにはいられなかった。

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