この花咲いたら
John B. Rabitan
1
「げーッ! なにこれ!」
最初に顔をしかめたのは
「やだ、まじきしょ!」
目の前の絵画や白黒写真のパネルは、私たちには刺激が強すぎ。でも、やっぱ見てしまう。
「もう、だれ? こんなとこ来ようって言ったの」
半分ヒステリックになってる妃菜に、のんきそうな瞳を
「えーっ、だってぇ、涼しいとこ来たかったし。ここだったらエアコン効いてるって思ったから。入館料だってたった100円だし」
「たしかにさ、めっちゃ暑くってまじ死ぬって思ったけど」
私がつぶやいてると、
「それにしたってさあ……」
そのまんま純夏、怒ったような顔してパネルを見てる。 私たちは次の展示室へ、もう歩き出してるっていうのに。
「純夏ーッ、早くーッ!」
妃菜に呼ばれて、やっと純夏は私たちを追ってきた。
「ってかさ、今どき修学旅行って海外とか普通じゃない? 何が悲しくってウチの学校だけ広島かなあ。もう、信じらんない!」
「もういいから。何度も聞いたし、それ」
私が顔をのぞきこんでも、純夏はまだふてくされてる。
「まあ、今さら言ってもね」
「もぅいい、どうでも」
「なんか純夏、今朝から機嫌悪いんだから」
私がそう言ってから資料館を出ると、いきなりの猛暑。
妃菜の叫び声があがる。
「うわ、めっちゃ暑っ やっぱもうちょっと中にいよう」
「えーッ、もういいよ。あんな気持ち悪い写真のあるとこ」
「顔が溶けてて? 服が焦げてて? 全身焼けただれて……」
「ちょっと、あかリン!」
思わず私、それを遮る。
「やめよう、もうその話。ってか、これからどうする? 自由時間、まだあるでしょ」
公園の木々の中を歩きながら、みんなと相談。蝉の声がうるさい。
妃菜が言う。
「カフェで時間潰す? ほかにもう見るとこなんかないし、カフェの中なら涼しいし」
「あ、それいいかも」
妃菜の意見に、私は飛びついた。
「じゃ、決まり。でも、こんなだだっ広い公園の中に、カフェなんかないよ」
「さっき解散した原爆ドームの向こうに大通りがあって、なんか栄えてたよね」
星が言う。妃菜が続ける。
「ああ、あのへんならカフェとかあるかも」
私たちは原爆ドームの方へと、元来た道を歩き出した。
「で、午後は宮島だよね。そんで今日じゅうに倉敷なんてめっちゃハードスケジュールだよね」
私がそんなことを言っているうちに、すぐに川沿いの道に出る。
「そうそう」
妃菜が口をはさんでくる。
「広島に泊まんないんじゃ、お好み焼きも揚げもみじ饅頭も食べられないよね」
「あと
「私はかき氷がいい」
星の言葉に私が返した後、ちらりと純夏を見る。純夏は全然会話に入ってこようとしない。
道はまだ公園の中だけど、川の向こうはもう普通の町だ。一つ橋があったけれども渡らないで、そのまままっすぐ歩いた。
やがてそのまま五、六分歩くと、右の方の川の向こうに原爆ドームが見えてきた。
さっき初めて見た時、思ったより小さいって私は思った。ビルの谷間に、ちょこんと身をひそめている。
純夏は黙って、私たち三人のあとを着いて来てる。
「あッ!」
その純夏が、突然声をあげた。
「どうかした?」
まず、
「鐘!」
「鐘?」
「ちょっと黙って! 鐘! 鐘が鳴ってる!」
その時、私も感じた。たしかに鐘が鳴ってる。どっかの教会の鐘?って感じだけど、星や妃菜も驚いたようにあたりを見まわしてる。
鐘の音はどんどん大きくなっていく。耳に聞こえるというより、胸の中に直接響いてくる。
それがいつしか爆音となって、襲ってくる。
私たち四人は、立ちどまった。まわりの人には感じないみたい。みんな変な目で私たちを見て、そのまま通り過ぎていく。
「キャーッ!」
とうとう叫び声をあげて耳をふさぎ、私たちはその場にしゃがみこんだ。
意識が遠のいていくのを感じていた。
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