第3話

 

 やっと終わったぁぁぁぁぁぁ!

 何この解放感!幸せ過ぎるんだが!


 「し〜のざきく〜ん♡」

 

 オワタ、名前を呼ばれた瞬間幸福感は無くなり、俺は転校生に分かるようにわざと肩を落とした。


 「か〜え〜ろ〜♡」


 「うん⋯⋯でも恥ずかしいから俺少し前歩くからね」


 「ウブだなぁ♡」

 

 え?このやり取り何?俺コイツと仲良かった?マジ意味分かんねぇ、距離感わかんねぇ⋯⋯


 転校生に分かるよう俯きブツブツ文句を言いながら帰る事にした。

 

 クラスメイトをかき分け扉を開けて、階段を急いで下りたバイバイの返事なんて一つも返さず、ただ急いで後ろには全く気を使わずに。

 

 一階に下りた瞬間袖を捕まれ階段下物置に引っ張られた⋯⋯


 突然の事で理解が追いつかない、何をされるの?え?次の瞬間転校生が抱きついてきた。


 小さい体は俺の胸にスッポリと収まっていた、長くて白い腕は首にかけられ透き通った青い瞳で俺を見つめていた。

 先に口を開いたのは俺だった⋯⋯


 「なにしてんの?」


 「抱きついてみた♡」


 「聞き方間違えたな、なんで抱きついてんだ?」


 「だってさ~一時限目?消しゴム取ろうと手が触れたら雷みたいな音と電気走ったよね?」


 あぁ、やっぱり俺だけじゃ無かったんだ?でもそれと抱きつく行為ってなんか関係あんのか?なんか沸々と怒りが込み上げてきた。


 基本思った事を言ってしまうタイプ、気を使うのが苦手だから話しをしないように距離を取っていた、でも少し我慢の限界が来て悪態をついてしまった。


 「それと抱きつくのって関係あんのか?何がしたいん?理由によっては二度と口聞かねぇよ」


 「おこんなし、だって運命とか?一目惚れの雷ズドーンかと思ったから」


 そ、それは俺も一瞬考えた事だった。


 少し冷静さを取り戻すと、恥ずかしさが込み上げてくる⋯⋯ちょ、や、ヤバイかも?早鐘を打つ心臓を無理矢理に抑え込もうとした俺に追い打ちが来た。


 「ねぇ彼女いる?こうゆうの慣れてるの?反応全くないし、いたらなんかごめんだよ⋯⋯」


 「初めてだよ冷静さを保ってた、彼女は年齢イコールでいない、だめだ話すの懈い、頭少し触るぞ?」

 

 「うん⋯⋯」


 転校生の頭を俺の心臓へ移動してみた、自分でもわかるくらい鼓動は高鳴り、物凄いスピードで脈打っているのがわかる。


 「え?ヤバっ!滅茶苦茶ドキドキしてんじゃん♡」


 「反応が薄いのは生まれつきだと思う、なんか頭の中も真っ白になってきたし⋯⋯倒れる寸前かも」

 

 「でもさぁでもさぁ〜、なんか安心しない?優しい気持ちが流れ込んでくるってかさ?なんだろうこの気持ち?てか⋯⋯なんで泣いてるの⋯⋯?」

 

 「えっ?誰が?俺?」


 焦って顔を拭ってみると、確かに濡れていた。


 でも左目からだけ?どうゆう事だろ?片目だけ涙出るとかあるんだろうか?

 

 「あ、左目からだけだからゴミ入ったのかもね?」


 ゴミが入った感じはしなかったけど?ドキドキし過ぎて気付かなかったのかな?てかそれどころじゃねぇ。


 「うんっ⋯⋯とりあえず一旦離れてから話ししようか?涙はゴミが入ったんだと思うよ。」


 と言うと転校生は後ろにピョンと飛んで離れていった。


 彼女が離れてくれた事に安堵し、俺は話を続けた。

 

 「ありがと、確かに最初は感じ無かったけど安心みたいな?優しい気持ちみたいなのが流れ込んで来た、それと一緒に懐かしさと淋しい気持ちみたいなのも伝わってきた、でもさっきも言ったけど俺こうゆうの初めてだからその感情が普通なのかすらわかんないんだよね」


 「咲也それ、てかめっちゃ話すじゃん?今日一日見てて話さない人なんだと思ってたよ!」

 

 「つっ⋯⋯そ、それってなんだよ?」


 名前呼びされ狼狽えてしまった、顔が熱くなって行くのがわかり少し俯き、バレないように視線を合わせてみる。


 「私たちさぁ⋯⋯会うの初めてじゃないよね?」


 「それは俺も少し感じてた、話したかった事ってそれの事?」


 「うんっ♡あとなんか我慢出来なかったの、なんか咲也見てたら抱きつきたくなって⋯⋯わ、私も初めてだったんだよ⋯⋯」


 顔がショートし頭から煙がプスプスと出たのが分かった、咲也呼びに突っ込む余裕すらなくなっている自分がいる、ただただ恥ずかしい。


 「めちゃくちゃ顔真赤になってるし〜ヤバ、私もハズくなってきた」


 「と、とりあえず帰りながら話ししよ?」


 「うんっ♡」


 「あ、あと〜わたしの事はちづるって呼んでね♡」

 

 「はい⋯⋯」


 確かに千鶴と同じ感情が芽生え感じてるのがわかった、だからなんだ?

 

 その感情がなんなのかすらわからない。俺は千鶴と一緒に昇降口に向かい靴を履き替え校舎をあとにした。

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