昔──大正時代あたりの日本。その時代を舞台にしたホラーです。この時代、と申しますか戦後の2〜30年間は男と女の在り方が違い、それゆえの悲しみ、苦しみ…それらをベースにした「ホラー」もありました。例えば江戸川乱歩の「人でなしの恋」などもそうです。この物語は乱歩初期を彷彿させる筆致で始まります。今、ホラーが来ていますが、こうした和風浪漫的なホラー、如何でしょうか。お勧めします。
呪いを込めて白絹に刺繍を施す。夫の心を奪ったあの女の名を。その美しさを奪うために。七日、藤の花房を折って軒に吊るす。仕返しの咒、白膚の雨簾を成就させるために。人を呪わば穴二つ。やがて針目の隙間から、咒が零れ出す。
これは、大正時代の銀座を舞台にした和製ゴシック怪異譚。嫉妬と羨望、そして民俗的な呪いの儀式が織りなす物語です。白布に名前を刺し、黒髪を縫い込み、藤の露を滴らせる――。五感に訴えるリアルな描写で、静けさの奥に潜む毒を、ここまで緻密に描いた作品を、私は読んだことがありません。美しいものが崩れるとき、女は何を得て、何を失うのか。ぜひ、この“嫉妬と呪い”の物語を味わってください。
━呪いとは、心の奥で熟れてゆく果実のようなもの━という、最初の一文で心惹かれました。だけど、呪われますように……と願うのはどうしてだろうか。それほどまでに呪いたくて呪いたくてたまらない人がいるのだろうかそれか、願わなければ、望まなければ……この祈りは呪いとして届かざるを得なかった事なのだろうか。そんな先の展開が気になる第一話でした。続きも楽しみです。どうか、先の展開を想像しながらご覧下さい。
硬質で格調高い語り口の裏に、ねっとりと滲む執念がたまらない。「どうか、呪われますように」という願いの純度に、読者の背筋が凍る。丁寧語の仮面をまとった愛憎の手記、読むほどに毒が染み渡るよう。続きを楽しみにしています。