第3章

選択の時エリカは如雨露を受け取り、じっと見つめた。

「もし断ったら?」

「庭は消える。そして、ここに宿る無数の愛しい記憶も、永遠に失われる」


温室を見回すと、本当に多くの時計があった。

恋人たちの初めてのキス、親子の再会、友情の証、別れの涙...人生の輝かしい瞬間が、時計という形で保存されている。



「どうして祖母は、私にこのことを話してくれなかったの?」


「彼女は君に、普通の人生を歩んでほしかったのだ。しかし、最期に気付いたのだよ。君こそが、この使命を受け継ぐべき人だと」


庭師は、祖母の柱時計を指差した。

文字盤には新しい映像が浮かんでいる。

病床の祖母が、エリカの写真を握りしめている場面だった。

「『エリカなら、きっと正しい選択をしてくれる』...それが彼女の最後の言葉だった」

エリカの目に涙がにじんだ。

都市の喧騒の中で忙しく働く日々。

確かに充実していたが、どこか空虚感もあった。

本当に大切なものを見失っていたのかもしれない。

「私が庭師になったら...人々の大切な時間を守れるのですね?」


「そうだ。そして君自身も、本当の時の価値を知ることになる」


エリカは静かに頷いた。


「やります」

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