仲の悪い侯爵家の夫婦

雲乃琳雨

仲の悪い侯爵家の夫婦

 マンソン侯爵家の令嬢セレスティは、長く美しい淡い金髪と、薄い紫色の瞳。

 フルーエ侯爵家の令息ミゲルは、短い刈り上げた白銀の髪と薄い水色の瞳。今は帝国騎士団に入団している。

 幼馴染の二人は、色素が薄い所が似ている美男美女で、一見おしとやかでお似合いの二人。しかし、会えばケンカばかりで非常に仲が悪かった。

 二人の父親も幼馴染で、こちらは非常に仲が良く、婚約者がいない二人をもう結婚させちゃったらいいんじゃないで話がまとまって、結婚させることになった。



 マンソン侯爵邸。父親から呼び出されて、セレスティは執務室に入った。侯爵は仕事をしていて、書類から目を離さずに話始めた。


「お前の、結婚が決まった。相手はミゲルだ」


 突然言われて、驚くセレスティ。


「待ってください。私達、とても仲が悪いんですよ。それに、ミゲルが納得するはずないです」

「これは決定事項だ。お前も22歳なんだから、さっさと身を固めなさいよ。以上」


 話が終わるとすみやかに、執事に部屋から追い出されてしまった。


(決まったってことは、親同士が決めたから、ミゲルももうのがれられないのね)

(こうなったら、離婚できるように契約結婚するしかないわ。離婚できるならミゲルも絶対協力してくれるはず!)


 ミゲルと会ったのは、5才の時だった。なんだか自分に似てると思って、最初の印象は悪くなかった。

 二人ともおっとりしていて、特にミゲルは口数が少なく、ぼーっとしていた。セレスティの方が口達者で少し活発だった。

 ミゲルが話すようになると、セレスティが木に登ったり、剣で遊ぶことを、「貴族令嬢らしくない」とミゲルから注意されるようになった。


「なんで、そんなこと言われなきゃいけないの⁉」


 セレスティは戸惑って、そのせいでケンカになる。次第に、口うるさくなったミゲルを避けるようになった。

 二人が学園に通うようになると、仕方なく見かけるようにはなる。校内にある池で、友人が落としたハンカチを棒で拾おうとした時も、どこからともなくズカズカとミゲルがやって来た。


「なんで、危ないことをするんだ!! ハンカチなんかまた買えばいいだろ!」

「大事なハンカチなんだってば……」


 友人が大事にしていたものだったので拾おうとしていただけ。

 そう言われて友人は、引いて泣きそうだった。


 舞踏会でも、ドレスのデコルテが少し開いてるだけで、


「露出が多すぎだ!」

「どこが⁉」(胸も見えてないのに。たいしてないけど)


 子供の頃のミゲルは天使だったし、成長してからも黙っていれば、令嬢みんなが憧れる貴公子だ。なのに、中身がおばさんみたいな小姑になってしまった。


(そんなんだから、あいつも婚約者がいないのかもね。お互い、いい年だし1回結婚しておくのもいいのかも)


 セレスティは片方の肘を持ち、もう片方の指の甲を顎に当てて目をつむり考えた。仕方ないと、ため息をつく。



 フルーエ侯爵家に、突然乗り込んできたセレスティは応接室に通される。片手にペンを持ち、白紙の紙をミゲルに突きつけた。


「いいこと、結婚契約書を作るなら、結婚してもいいわ。あなたもこの結婚には納得いかないでしょ」

「いいだろう」


 ミゲルは、腕を組んでふんぞり返っている。


(やはり、納得いってない感じ。話は早そうね)


 セレスティは、ルールを並べ立てた。


「家の中では夫婦関係は無し。寝室は別。お互いに干渉しない。ノーと言ったら、強要しない。1年経ったら離婚できる。あと、再婚させられないためにも、結婚式から1週間は同じ寝室で過ごすのがいいわね」

(白い結婚じゃなければ、もう結婚しろとは言われないはず。そのためにも、カモフラージュしないとね)


「ルールを破ったら、1回5万ゴールドかそれ相応の物を相手に支払う。でどうかしら?」

「同じ意見だ。それで問題ない」

「そう。じゃあ、契約成立!」


 同じものを二つ作り、二人はガッチリと握手をして契約を締結した。



 両家では、気が変わらないうちに結婚準備が早急に行われ、式当日を迎えた。

 セレスティは、ミゲルの白いスーツ姿に見とれた。


(黙ってれば、本当に彫像のように美しいわね)


 ミゲルは、セレスティのウエディングドレス姿に頬を赤くした。

 二人は誓いのキスをして、結婚式は無事に終わる。



 フルーエ侯爵邸で夜、同じベッドに入って座る二人。


「じゃあ、お休み」

(こいつは私のこと嫌いだから、気にする必要もないし、気が楽だわ)


 セレスティは、いそいそと横になって、反対側を向いた。

 突然、腕が伸びて、ミゲルが上からのぞく。


「あの、ルールを破りたいのだが」

「はあ?」

「初夜をお願いしたい」

「……」(まさかの)


 セレスティは、悩む。


(でも、結婚したから、1回ぐらいするのはいいかも。お金ももらえるし)

「分かった。5万ゴールドだからね。後、キスは無し」

「分かった」


 二人は結局、初夜をすることになった。



 次の日の夜、結婚して2日目。二人はベッドに入る。


(今日は普通に寝れるだろう。昨日のことを思い出すと気恥ずかしい)

「あの、今日もお願いしたい」


 セレスティは、一瞬止まる。


(昨日はまあ、悪くなかったわね)


 思い出して頬を赤くする。


(またお金も入るし、いいか)「また、5万ゴールドだからね」


 ミゲルは、黙ってうなずいた。



 終わった後、二人は間をあけて上を向いていた。お金ばかりもらうのも気が引けると思ったセレスティは、


「今回は質問でいいわ」

「?」


 ミゲルの方を向いて、


「私はもちろん初めてだったけど、あなたはどうなの?」

「……ボクも君が初めてだ」

「あらそうなの!」


 慣れてるのかと思ったけど、セレスティはその答えに満足した。



 次の日の夜、結婚して3日目。二人はベッドに入って座っていた。


「あの、今日も、」

「なんで我慢できないの⁉ 1週間でしょうが!」


 セレスティは、さすがに性欲のはけ口にされるのは面白くなかった。ミゲルはしょぼんとして、体育座りをした。


「だって、好きだから」


 ミゲルは頬を赤くした。


「はあ⁉ あんたの態度のどこにその要素があったのよ」


 寝耳に水過ぎる。ミゲルは黙っている。


「だったら、なんでつっかかってきたの!」

「だって君は、いつもボクのことを笑うから」


 セレスティとは目を合わせない。


「にこやかに話してただけでしょうが!」


「ごめん。ボクが父さんに君と結婚したいってお願いしたんだ。結婚すれば何とかなると思って」

「……」


 それで、話がトントン拍子に進んだんだと理解した。


(今までのことは、なんだったの? 謎のマウント……?)


 セレスティは、頭に手を当ててため息をつく。やれやれ。ミゲルは、膝の上に乗せた手に顔を乗せて、下の方を見つめていた。


(でかい図体して、中身は子供のころのままね)


 セレスティは、ミゲルの横の髪を触る。子供の頃、泣いてるミゲルの前髪に触れて、笑顔で励ましたことがあった。それから、フルーエ侯爵邸の庭で、二人が初めて会った時のことを思い出した。


(私は初めてあなたを見た時、なんて素敵な男の子だろうと思ったのよ)

(これを言うのはまだ早いわね)


「キスもいいわよ」

「!」

「ただし、1回5万ゴールドね」

「キスは、1日まとめてにしてもらえないかな」

「いいわよ」


 二人は思う存分キスをした。


 ◇


 翌日、部屋でお茶を飲むセレスティは、窓の外を眺めて考えていた。


(これだと離婚はなさそうね。でも今までのことがあったから、私達がいい関係になるにはもう少し先の方がいい気がする)


 話すときはまだぎこちない。セレスティは、契約を今後も続けることにした。


(何があるか分からないし、お金はあった方がいいからね)


 1週間が過ぎ、約束通り寝室は別になって、ミゲルはショックを受けていた。

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