回想 空井聖が出来るまで

 願えば空を飛べる物語。


 祈ればお腹いっぱいになる物語。


 両手いっぱいの希望と共に冒険する物語。


 イマジネーションがいっぱい詰まった絵本を小さい頃から読んでいた。


「あなたはお父さんに似てるから、もっともっと自由でいた方がいいわね」


 お母さんはそう言っていた。

 私は小さい頃から特に構ってもらった記憶がない。


 一人っ子で別に遊ぶ相手もいないし、一人遊びはそれなりに得意な方だった。

 それでもお母さんは気にしない。


 仕事で家にいなかったり、家にいても声をかけられた記憶があまりない。


 今振り返ってみればネグレクトとも言えるんじゃないかと思えるけど、そんなことは言わせない。


 あれはお母さんなりの教育で信頼だと思う。


 自由で、否定しない。

 私のことを信じて好きなことをやらせてくれて、いっぱい褒めてくれた。


「あなたのやることはあなたで見つけるのよ」


 そう言っていた。

 きっと自由な発想で絵本を書いていたお父さんのように、想像力豊かに育てたかったんだと思う。


 実際お母さんは遊ぼうと声を掛ければ、一緒に全力で遊んでくれたし、私はお母さんが好きだった。


 小さい頃から自分のやりたいことは自分で決める。


 自分のことは基本的に自分で決める。


 そのうちに私の中で何が大切で、何が必要か、そして何が好きかも自然と決まってきた。


「聖ちゃんは凄いね」

「聖ちゃんみたいになりたい」


 そう言われることが多かった。


 お絵描きもそれなりに上手だった。


 勉強も運動も、上手にできた方だと思う。


 目立つことは得意だった。


 自由に遊ぶだけで目立っていた。


 こうすれば目立つ。こうすれば喜ぶ。


 お母さんが何も言わない中で、自分で決めて上手く行ったことを抽出すれば自然と感覚は研ぎ澄まされた。


 なんとなくで正解が分かる……とは違うけど、自分なりに上手くやる方法は見える。

 どうすれば一番可愛く見えるか、どうすれば印象が良くなるか。


 白い砂浜の中で宝石が光ったみたいに自然と見えてくる。


 私のしたいことに対して、するべきことの最適がなんとなく閃く。


 やりたいことを自由にやった分だけ、あれをやりたいこれをやりたいといったイマジネーションも湧いた。


 そんな中で……私は欲しいものを見つけた。


 赤い糸や天の啓示なんかと言われる「運命」が欲しくなった。


 お母さんは家にいる時に、よくお父さんのことを話してくれた。


 お父さんもお母さんと出会った時の話をしてくれる。


 2人の馴れ初めはお父さんからの突然のプロポーズ。


 出版社に勤めていたお母さんと仕事で出会った時に「結婚するならこの人だ」って直感したらしい。

 そのままプロポーズして、お母さんもそれを「断ってはいけない気がした」から受けた。


 そうして今もラブラブな夫婦。


 娘は放置気味だけど、ビデオ通話だと凄い楽しそうにするし、私も自由で幸せ。


 梨々香には「寂しくないの?」って言われたこともあるけど、気にしたことはない。


 自虐くらいはしてみせても、ネグレクトなんて言わせないほどに私は幸せなの。


 とまぁそんなことは置いておいて……


 重要なのはお父さんとお母さんは運命の出会いをして、とても幸せなんだってこと。


 私もそんな2人に憧れた。


 あんな風に通じ合っていることがなによりも羨ましかった。

 私もそんな人と出会って、幸せになりたい。


 そう思った。


 好きな人は今までも出来たことがある。


 カッコいいな。優しいな。面白いな。


 小学校の頃は色んな男の子を素敵に思ったし、好きになった。

 けど運命は感じなかった。


 最初はそれでも良いのかなって思ったけど、好きになる度に「結婚はしないだろうな」って感覚が私の中で警告を発するようになった。


 その感覚は学習するAIのようにどんどん敏感で鋭くなる。


 高校に入った頃には付き合ってみて少しすれば、もう運命ではないんだと分かる。

 まだ高一だし妥協はしたくない。


 だから徹底的に振った。


 なんか良さそうなら付き合ってみて、違ければ振った。


 だって欲しかったのはただのパートナーじゃなくて、運命の人と過ごす幸せな人生だから。


 運命の人以外を好きになることなんて、意味がない。

 そんな感じで私は運命を探すように、高校生活を過ごしていた。


 そして、その時に出会った。


 陽鷹灼という、運命の女の子に。


 彼女は私のプロポーズをすぐ受けてくれた。


 それはやはり、両親と同じ運命の出会いなんだと思った。

 


 けれど、お母さんと話して気付いた。

 お父さんのプロポーズにはお母さんも「断ったらいけない気がする」って直感が働いていた。


 私からの運命じゃ足りない。


 相手からの必然性が欲しい


 灼にも、あの時に運命を感じたって……思ってて欲しい。

 

 

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