第3話 人生のメイラード
夜19時。彼方はカルテットから退店してバイクに跨りエンジンを掛けた。
そして走り始めた。
加奈子。元気にしていて良かった。
それからスーパーでバイクを停めて肉と醤油だけを購入した。
またバイクに乗りそれから二十分後自宅に着いた。古びたアパートだった。彼方がかつてのカルテットに損害を出しても借金を請求されなかったおかげで今日も住むところには困らない。
家に入り手を洗ってからシャツの袖を捲る。それからフライパンを熱してスーパーの半額シールを貼られた豚肉を落とす。
五分ほど経ってからその豚肉に醤油をかけた。香ばしい匂いが漂ってくる。
これは加熱食品と発酵食品を組み合わせた「メイラード反応」という調理技術だ。
しっかり焼きで30分焼いたあと皿に盛り付けてすっかり醤油の味がついた豚肉を食べる。
だが、首をかしげる彼方。
何かがおかしいのか。望んだ味にならないのだ。
五年以上前からホテルでフレンチの厨房を任されていたときにはメイラード反応を用いた料理を作るぐらい朝飯前だった。というかそれぐらい出来ないと話にならないのだ。
つまりは料理のブランク。ペペロンチーノぐらいだったら美味い料理を出せるが本格フレンチとなると話は別だ。
そもそも彼方が三ツ星に拘る理由は――
ソファに座りテレビを点ける。すると料理番組に懐かしい顔がいた。
「淳……あいつ料理の解説をやっているのか」
フレンチとは一切関係ないオムライスを作っている。淳の横の番組進行が「すご~い」と手を叩きながら褒めている。
「素人に褒められるとかかなりの屈辱だな」
煙草に火を点け煙を吐き出す。
「次はあいつを誘ってみるか」
テレビ画面には淳の料理教室の案内が映されていた。
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