pray
つ、と、
星が流れるような光が上空を過ぎるのを見た。
僕の足元で白い犬が震えていた。寄り添った熊や狸、他にも多くの動物達が、僕の足元で休んでいた。腕には雀や鳩も留まっていた。皆、不安そうにしているのがわかる。
一度跳ねた烏が、哭く。そら見ろ、自業自得だ、と。
可笑しな開発を続けるからこうなるんだ、と、まるで神の代弁をするかのように嘲笑っていた。
僕のような木々達を切り倒して、変わった材料で自分達の世界を作っていった彼らが、こういうとき自身の作り出した物に泣く。大きくて硬いもの、強くて便利なもの、崩れたり狂ったりするととても危険なもの。
でもそれだけじゃないはずだ。波や土砂は、彼らの業ではないはず。
私も、巣を作るの、と 小鳥が小さく啼いた。何も自分達が快適なようにと進み続けていたのは彼らばかりじゃあない。自業自得だなんて、言えるのかな。
つ。光が流れる。
逃げて来てしまった、と犬は泣いていた。元々真っ白だっただろう毛並みを汚して、彼がここに来たのは二日前になる。
地面が軋むのを感じて、怖くて、飼い主のところから逃げてきてしまったと、ずっと泣いていた。
彼の飼い主は幼い女の子だったらしい。今は多分、瓦礫の下だろう。
生きたいと願うのはいけないことじゃない。もしかしたら誰かを置いてきてしまったかもしれないけれど、それでも君はとりあえず生きていてくれた。
だから他は死んでしまってもよかったなんて言えるわけじゃない。もし皆生きているんだったら、それが一番幸せなこと。だけれど、一人生きていてくれるのは途方もない幸だ。
つ。光が流れる。
人間は頭がいいのに、不便ね、と猫が鳴いた。それに対して烏が、奴らは感じることをやめてしまったんだと言う。
人が考えるようになったのは本能的な感覚を感じるよりも他人を慈しみたいと思ったからなんだろう。烏の言う「感じる」と人の言う「感じる」は少し違う。
だからこそ今回のような天災は予知することが出来ないみたいだけど、それは烏が思うように愚かなことではないはず。
微妙な違いのことを知ってか知らずか、猫はどうでもよさそうな様子で前脚を地面に擦り付けた。本当に何も感じないなら私を撫でたりしなかったわ。
僕ももうずっと人々を見てきたけれど、彼らは信じることと騙すことが多すぎる。騙されると疑うことも覚えるけど、信じたほうがいいことまで疑ってしまったりもする。
怪我を負って苦しんでる人達は、何処かに閉じ込められてる人達は、「助けに来てくれる誰か」を何時まで信じることが出来るだろう。「自分を心配している人」を、何時まで信じることが出来るだろう。
つ。光が流れる。
あれは何?と栗鼠が言った。上空を、暗闇を切って流れていく光の数は徐々に増えている。
陸のずっと向こうから。時には海の向こうから。青白い光が線を作って、大きく揺れて崩れたあの場所に降り注いでいる。
白い犬からまた零れていく涙から、同じ色が弾けて飛んでいった。
鳩が呟く。この光を、人間は見ることが出来るのかな、と。
見ることが出来るなら、きっと彼らも希望が持てるだろう。
別のところにいる同じなかまが、時には海の外にいる別の話し方をする人達が、今苦しんでいる人や泣いている人のことを思ってる。死んでしまった人のことを思って息が詰まる思いで、どうか無事で、出来るだけ無事でと、あの場所の、まだ生きてくれている人達の生を願い続けている。
届かないのだろうか。見えないのだろうか。——感じていて、欲しい。こんなに多くの人々が祈っていることは、彼らに知っていて欲しい。
(どうか、思いが、届きますように)
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