レスト・メール
外並由歌
01.「おはよう」
『今晩、彼女にプロポーズしようと思う。
君にメールを送るのも、今日でおしまいにするよ。』
携帯の斜め上のデジタル時計は、朝の六時二十分を指している。日付は十月二十二日。丁度一年になることに気付くと、
ここ最近は睡眠時間が短い。単に寝付きが良くないのも確かな理由だけれど、仕事を終えた彼がメールを送ってくるその時間は、それを読むために寝られない。相手がいつ寝てしまうかもわからないから、遅い時間まで次が送られてくるのを待ってしまったりする。
それでもこの時間に起きたのは、もしかしたらいつの間にか入っていたこのメールのせいかもしれない。
(おわり…か…)
しばらく彼女はその文面を、放心したように眺めていた。メールを受信したのは五時台。件名は「おはよう」。差出人は「中田さん」。
彼はどんなときでも、やりとりの始めに件名を入れる。美都は件名を変えず返信の記号をくっつけたまま送るが、次のメールには件名は消されている。
中田はそういう人で、高校生の美都相手にも礼儀を重んじ、紳士的な振る舞いは崩さない。
それは社長の息子という生い立ちからか、現社長であるが故の風格なのかはわからない。
メール画面が突然変わって、ベルのイラストと「あさ」という素っ気ない言葉が表示され、アラームが鳴った。それに驚いたのと同時に美都の指はセンターボタンを押して、すぐに音は止む。もう一度同じボタンを押せばさっきのメールの画面に戻るけれど、美都は電源ボタンで待受に戻した。
ベッドから降りる。今日は体育祭がある。
初めてメールが来た日も体育祭だったな。考えて、窓の外を一瞥する。空は程よく晴れていて、それなりに綺麗だった。
支度の為に動き出す。中田のことは頭から追い出した。
学校までは近いからまだ時間には余裕があるが、さっさと家を出たかった。
親に挨拶をして一通りの準備を済ませると、いつもの癖で美都は携帯のサブディスプレイに目を通した。これは時間を確認する為だったのだけれど、この時間帯には珍しく受信ランプが点灯していた。
軽く首を傾げてから、二つ折になっている携帯を開く。また中田からのメールだった。
『今日は早く帰ることになりそうだ。』
「……、」
若干指を迷わせて、結局また電源ボタン。
多分今日は、この二週間で一番メールが来る日だろうとなんとなく考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。