第九楽章
いつ使うのか分からない木材や鉄の破片をどけてゆく。木材の下からは、作りかけのからくり箱が出てきた。
「そういやこの館、からくりのモノが多いね」
「あぁ、父さんの趣味なんだ」
趣味にしては出来栄えがとてもいい。入り口に置いてあった二体のからくり人形も、等身大に近いモノだった。
「お父さん、今はどこに?」
「家出中」
「は…?」
家出?何故家出?僕が理由を聞く前に、ミアさんは話し出した。
「じいちゃんが風の民だったってこと知って、ショック受けたらしい」
「ショック…?」
「じいちゃん風の民の悪いとこばっか知ってるだろ?その悪い奴と自分は血縁だった、それにショック受けたらしい」
結構ディスられてるな…。風の民でも良い奴はいるんだけどなぁ。
「笑えるだろ?オマケに自分の子供は風の民オタク」
「ハッ、笑えるな」
鉄の破片が入った袋をどかした後、ミアさんの父が成作したと見られるからくり人形たちをどかしてゆく。
「だけど…時々寂しかったな」
「ふーん…」
「今まで信用してた人が、いきなりいなくなるんだ。…ホントにつらいんだからな?」
で、結局何が言いたいんだ?説教でも始めるつもりか?だとしたらポンチョ探しは手伝わないぞ。
「正二、あいつも今辛いと思うぞ」
「……そうですか」
「はぁ…お前、正二がどういう人間か知ってないからそんな反応が出来るのか?」
どういう人間か?そんなの一人ずつ確認していったらキリがない。
「正二さんは猫を被っている僕にだけ優しくしてくれる人です。…他の人と同じです」
「はぁ……正二はな、信用してたヤツに裏切られた過去がある」
僕もその裏切ったヤツと同じだと言いたいんだろうか。だとしたら何だ?正二さんに謝ったらいいのか?でもその後はどうするんだ…。
「正二はもちろん、裏切ったヤツも苦しんでた」
「え?」
「罪悪感や、正二と話す資格が自分にはないって苦しんでた」
裏切ろうと思っていた相手なのに?
「お前には、その裏切り者になってほしくないんだ」
「でも……もう正二さんは僕の素を知ってしまったんだ!今更猫被ったって…」
「お前、全然わかってねぇな~」
呆れたとでも言いたそうな顔でポンチョを探していくミアさんの方へ振り返る。僕が全然分かってない?
「正二は、お前の素に引いたんじゃねえ!友達だと思ってたヤツが、本当のお前じゃないことにムカついてんだよ!」
「…本当の僕?」
「あぁ」
本当の僕?そんなのある訳がない。自分が得をしたかったら、多少の我慢はしないといけない。
「本当の僕は、猫を被ってる僕だ」
「難しく考えんな。対人関係なんて、慣れるまで当たって砕けたらいいんだ」
「僕は慣れてないと言いたいの?」
村では僕を手伝ってくれる位仲の良い人がいる。どこが対人関係に慣れてないんだ?
「本音でぶつかり合える友達がいないくせに、偉そうな口たたくなよ」
「友達…」
トモダチ?集落には友達、いたっけ…?適当に話を合わせる程度の友達はいた気もするけど…。
「ミアさん、本音で語り合える友達なんて…存在するんですか?」
「ああ。俺には何人かいる」
「自分の不安とか、自分の好きな物とか…そんなことを話せるんですか?」
「話せるし、相手の本音も聞ける」
猫を被らないで話す…。猫を被らなくても、僕と親しくなる人がいる…。本当に?
「正二さんと、その本音で語り合う友達ってヤツに…なれる可能性は?」
知らぬ間に口が動く。なーんだ、結局僕は正二さんと仲良くなりたかっただけなのか……。
「お前が全力でぶつかったら100%、猫を被った瞬間0%になる」
「…分かった」
相変わらず僕の手は物置を漁ってゆく。鉄の破片に木片。からくり箱大・中・小セット。花萌黄色の…布。
「東風、どうした?」
「ポンチョあった」
「え‼」
「抜き出すの手伝って…」
ポンチョは埋もれた状態だったので、取り出すのには僕の力じゃ足りない。水月ほどの力ではないだろうが、ミアさんに手伝ってもらった方が良いだろう。
「せーのっ‼」
ミアさんの掛け声に合わせて、腕に力を入れる。あともう少しのところで、僕の肩を引っ張ていたミアさんが倒れた。もちろん、僕も道連れになった。
「いてぇ…」
「痛っ…」
下敷きになっているミアさんのため、素早く起き上がる。そして、埋もれていたポンチョの確認をする。
「あ、取れてた」
「え、嘘?!見せてくれ‼」
下敷きになっていたミアさんが飛び起き、僕が掴んでいたポンチョを奪う。目をキラキラに輝かせながら、埃の被ったポンチョを眺めていた。
「俺のポンチョ…!」
「ミアさん、良かったですね」
「ああ!東風、ありがとな。後、呼び捨てで構わないぞ」
ということで、ミアさんはミアに変更された。さん付けしてない年上の人が二人もいるなんて…なんか変な感じだ。
「さ、早く荷馬車に戻りましょう」
「そこで水月さんや正二にちゃんと本音を言えよ」
「うぅ……」
本音とかをかしこまって言ったことが無いから、怖気づいてしまう。それに、僕は気まずいのが苦手だ。
「ま、まだ最初だし失敗してもいいんじゃね?」
「…いえ、失敗は出来ない」
これ以上失敗を犯すなんて、出来ない。僕は正二さんや水月の…友達とか、仲間とかになりたいんだ。多分、これが僕の本音だと思う。
「じゃ、案内する」
「うん」
ポンチョを被ったミアの後ろ姿を眺めながら、何度も心の中で本音を言う練習をした。
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