第七楽章

 「死んだのか?」


「いやぁ……そんな訳…」


運が悪い。なんでこんなにすぐ。


「何があったんだ?もう全部話せ!」


「…全部?」


僕が全部知っていると思っているんだろうか。そんな訳ないのに。


「お願いだ。全部話してくれ」


机に頭がぶつかる程にまで頭を下げられちゃぁ、簡単に断れないな。ん?待てよ……話す代わりに何か要求するのも悪くないか。


「僕が知ってる範囲で良いなら」


「ホントか?!」


「ただし…一つ条件があります」


会話の流れをこっちのモノにして、話題の主導権を握る。そうすれば、自分が話しやすい話題へ移せられる気がする。


「条件…なんだ?なんでも言ってみろ」


「本の著者である祖父さんに、協力を頼みたいんです」


「祖父?協力?」


ゆっくりと頷く。目は相手と合わせた状態で、真剣そうな表情で。


「もしかして水月さんも協力を祖父に頼むことが…目的?」


「あ、はい」


「協力って、何をするんだ?」


「それはこの条件を吞んでから話します」


「なぬ?!」


薫風さんを生き返らすためです~、なんて信じてもらえないだろう。僕でさえもまだ信じ切れてない。人材を集め、笛を吹くだけで人が生き返るなんて…あり得ない。


「…分かった。でもこれは祖父が決めることだから、自分には説得を頑張ることしか出来ないからな!」


「それだけで十分です。ありがとうございます!」


ミアさんがさっきやって見せた礼を真似たら、額に小さいたんこぶが出来たのは秘密だ。うぅ…ヒリヒリする。アームが運んだ、コップについた水で額を覚ますしか処置は出来なかった。


「さ、話してくれ」


「…はい」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ん——、やっぱりそうだったか……」


「やっぱり…?」


「笛で風を操る民族…小さい頃じいちゃんに教えてもらった。んで、そっから興味を持ち始めて調べまくって…今に至る」


「へぇ~…」


正直、驚いた。興味を持った、という理由だけでここまで熱心になれるなんて。僕なんか、笛に興味を持てないまま嫌々練習していた。


「とりあえず、僕が知ってることは全部話したから。水月さ…水月のところに案内してよ」


「ちょっと待ってくれ!」


「…何ですか?」


早く水月のところに行って、祖父さんの勧誘に参加したいんだが。あんた、ミアさんもさっさと説得してくれ。


「その——、ずっと憧れてたんだ。……ポンチョに」


「はぁ…?」


何を言い出すんだ?


「お願いだ!一回だけで良いからポンチョ貸してくれ‼着たいんだ‼」


胸ぐらではなく、今度は両肩を掴まれた。フッ、水月に比べりゃぁ力が弱いな。


「良いけども、丁寧にな!」


「よっしゃー!」


ガッツポーズをとるミアさんの嬉しそうな顔を横目に、ポンチョを渡す。


「その服は…麻か?」


「うん」


「……冬、さぞかし寒いんだろうな」


悪かったな、麻布の服で。でも、夏は涼しく過ごせるんだからな!裾はほころびてるけど、気心地は最高だかんな‼


「おぉ……」


「初めての風の民ポンチョはどんな感じ?」


「…感動の一言だな」


腕を広げながら部屋内を走ったり、その場で高くジャンプしたり……暴れていた。


「そろそろ返してくれよ」


「待って待って、フード被ってから」


慣れない手つきでフードを深くかぶったかと思えば、片手でフードをとった。何度もそんな訳の分からぬことで遊んでいるミアさんの気持ちは……表現不可。


「いやぁ~、ちょっと見といてくれ」


「?」


目をミアさんの方へ向ける。僕が見ていることを確認した後、ミアさんはもう一度深くフードを被った。


「俺の名は、風の民のミアであーる!」


そう言って、フードをはずした。……理解不能。


「どうだ?結構それっぽいだろ」


いや、それっぽいの”それ”ってなんだよ‼心の中で全力で叫んだ。


「ほい、返すわ」


「うん……」


返されたポンチョをしばらく抱えながら、ソファアに腰かける。ポンチョを被ろうと思った瞬間、ドアが勢いよく開いた。僕の目が捉えたのは、ミアさんそっくりの眼鏡に、灰色のエプロン。後、滝のように伸びている髭。


「うにぃ?!」


「どへぃ‼」


各々独特な声を漏らしながら、誰かを特定するために思考する。あ、あの人は‼


「……誰?」


「俺の祖父だよ」


あぁ、ミアさんの祖父か。いきなり見覚えのないお爺さんがドアを勢いよく開けたから、パニック状態起こりかけたよ…。


「ミア、お前にやってほしいことがある」


「お、おぉ…。どうしたんだよ、そんなにかしこまって」


「まずはこれを…」


そう言ってエプロンのポケットに入っていた細長い木製の箱を取り出した。大切に保管されているのか、綺麗な状態だった。


「これを受け取れ」


「あ—、はい……開けてもいい?」


「もちろん」


嬉しそうな、どこか不安そうな顔をしている。多分、複雑な感情なのだろう。ミアさんの手が箱のふたを、そっと持ち上げた。


「……何故これが、ここに?」


「ウソだろ?!なんでここにあんだ?!」


あ、思いのほか大きい声が出てしまった。皆の注目が集まると思ったが、皆の目はドアの方へ注目していた。


「足音…?」


二人分の足音がどんどん近づいてくる。まだなんか来るの?


「んあ?こっちゃんここに居たんか?」


「東風!……と祖父さん見つけた!」


正二さんと水月でした。なんか、さっきからみんな慌ただしいなぁ。


「祖父さん、話の途中で急に居なくなるから焦りましたよ…」


「ホンマにそーだべ」


なるほど、祖父さんは話の途中でこっちに来たわけか。しかも、コレを持って。


「じいちゃん、なんでまだあんだけ恨んでた風の民の笛を…持ってんだ?」


ミアさんのその一言が、騒がしかったこの部屋に静寂を呼び込んだ。

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