第6話 噛まれて、番に堕ちる夜
夜が深まるにつれ、ノアの体の熱は本格的な発情期へと容赦なく突き進んでいた。
肌はまるで業火に焼かれたように熱く、内側から湧き上がる熱は骨髄まで焦がすようだ。
喉は乾ききってひび割れそうで、下腹部の疼きは、満たされぬ渇望を訴え続ける。
体中の血液が沸騰し、激流となって全身を駆け巡るような感覚に、ノアは狭い寝具の上で身悶え、手足をばたつかせた。
昨日までの不快な兆候は鳴りを潜め、今はただ、本能のままに何かを求め、焦がれるΩの姿があった。
「っ、はぁ…っ…ひゅ…っ…」
喉からは掠れた喘ぎが漏れ出し、意思とは裏腹に、甘い嬌声が時折混じる。
額や首筋には、大粒の汗が真珠のように光り、シーツを濡らしていく。
理性は熱に浮かされ、かろうじて保っていた王族としての矜持も、崩れ落ちる寸前だった。
(…やだ…なんで…こんな…熱が…っ…身体が勝手に…っ…もう…どうすれば…)
羞恥と、抗いがたい本能の奔流に、ノアの心は悲鳴を上げていた。
(王子の俺が…こんな…獣の番になるなんて…っ…)
唇を強く噛み締め、耐えようとするが、下腹部の奥深くから湧き上がる熱は、そんな抵抗を嘲笑うかのように、ノアの体を蝕んでいく。
その時、部屋の扉が静かに開き、セトが無表情のまま入ってきた。
月の光を背に、その漆黒のシルエットは一層大きく見える。
金色の瞳が、闇の中で宝石のように妖しく輝き、発情に苦しむノアの姿を捉えた。
ノアは咄嗟に身を縮こまらせ、震える体で毛布を掴んだが、隠しきれるはずもなかった。
「どこへも行けないぞ、ノア。」
セトの低い声が、熱気を帯びた部屋に重く響く。その一言だけで、ノアの逃げ場のない現実を突きつけられた。
「っ…放っておいてくれ…! お前に…関係ない…!」
ノアは必死に虚勢を張るが、声は震え、言葉には力がこもらない。
セトはゆっくりとノアに近づき、その一歩ごとに、ノアの心臓は激しく鼓動を打った。
「…発情期だな。お前は今、誰の庇護もなしにこの熱に耐えることができると思っているのか。」
セトの指が、ノアの熱い頬をそっと撫でる。ひんやりとした感触が、焼け付くような肌に心地よく、ノアの体が一瞬ビクンと跳ねた。
「っ…触るな! 汚らわしい…!」
ノアはセトの手を払いのけようとするが、力が入らず、かえってセトの指に自分の熱を伝えるだけだった。
セトはそんなノアの抵抗を意に介さず、その腕を優しく、しかし決して逃がさない力で掴んだ。
「お前は俺の番になる。それはもう、決まっていることだ。」
その言葉は、有無を言わせぬ絶対的な響きを持ち、ノアの最後の抵抗心を打ち砕いた。
セトはノアを優しく抱き起こし、その体を支えるように抱きしめた。
獣人特有の、深く甘いフェロモンが、ノアの鼻腔を包み込む。
本能が危険を知らせる一方で、その甘美な香りは、ノアの奥底で眠っていたΩの 本能 を呼び覚ます。
「…暴れるな。お前が苦しいだけだ。」
セトの声は、先ほどまでの強さとは裏腹に、どこか優しさを帯びている。
その声に、ノアの強張っていた体が、ほんの少しだけ緩んだ。
セトはノアを寝具にそっと横たえると、その身を覆いかぶさるように近づいた。
熱く、荒い吐息が、ノアの肌を撫でる。
「綺麗だな、ノア…」
低い声が囁き、セトの指が、ノアの汗で張り付いた前髪をそっと梳いた。
その優しい仕草に、ノアは一瞬、自分が王子であることを忘れかけた。
セトはゆっくりと顔を近づけ、ノアの首筋に唇を這わせた。
冷たく、そして次第に熱を帯びていくセトの舌が、ノアの繊細な肌をじっくりと舐め上げる。
唾液の生温かい感触が、鳥肌を立たせ、ノアの全身を震わせた。
本能が危険を告げる一方で、ぞくぞくとした快感が背骨を駆け上がり、ノアの理性を溶かしていく。
「っ…ん…ぁ…っ…」
耐えきれずに漏れた甘い声に、セトの動きが止まる。
金色の瞳が、ノアの苦悶と快楽が入り混じった表情をじっと見つめた。
再び、セトの唇がノアの首筋に戻ってくる。
今度は、甘噛みから始まり、徐々にその力を強めていく。
鋭い犬歯が、ノアの皮膚にゆっくりと食い込み、微かな痛みが走る。
だが、その痛みと同時に、今まで感じたことのない強烈な快感が、ノアの全身を駆け巡った。
「っ…あ…う…っ…!」
痛みと快楽が混ざり合い、ノアの声は悲鳴のような、甘い喘ぎのような、何とも形容しがたいものに変わる。
本能のままに首を反らせ、セトの髪を掴んだ。
(痛い…でも…っ…身体が…熱い…っ…壊れそう…いや…っ…もっと…!)
セトはノアの首筋に深く牙を突き立て、Ωの番となるための神聖な儀式を始めた。
ズキリとした痛みが走ると同時に、ノアの奥深くで何かが弾けるように熱くなった。
それまで抑え込んでいたΩとしての本能が、堰を切ったように溢れ出し、ノアの意識を飲み込んでいく。
噛まれた瞬間、ノアのΩとしての発情は、否応なく最高潮に達した。
下腹部が痙攣するように熱く収縮し、蜜のように甘い体液が溢れ出す。
セトのフェロモンと、噛みつきによる結合の証が、ノアの体を内側から変えていく。
「っ…ひ…ぁ…っ…!」
セトはノアの首筋を噛んだまま、もう片方の手でノアの太ももを優しく撫で上げた。
内腿の柔らかい皮膚を這う指の感触に、ノアの体はびくりと震え、熱い蜜がさらに溢れ出した。
セトはノアの首筋から離れると、その熱い吐息をノアの耳元に吹きかけた。
「大丈夫だ。痛かったな…だが、これでお前は完全に俺のものだ。」
その低い声は、ノアを優しく労わるようでありながら、独占欲を隠そうともしない。
セトはノアの濡れた瞳を見つめ、慈しむようにゆっくりと唇を重ねた。
それは、焦がれるような熱いキスではなく、互いの存在を確かめ合うような、深く、優しい口づけだった。
キスが終わり、セトはノアの体をゆっくりと抱き起こすと、その温かい胸にノアを優しく抱き寄せた。
獣の匂いと、セト自身の匂いが混ざり合い、ノアを安心感で包み込む。
「少し、休むか?」
セトの優しい問いかけに、ノアは小さく首を横に振った。今はただ、この温もりに包まれていたい。
セトの腕の中で、ノアの体はまだ熱を帯びているが、先ほどの激しい熱狂は嘘のように、穏やかな快感へと変わりつつあった。
セトは再びノアを寝具に横たえると、その上に身を重ねた。
優しく、ゆっくりと、ノアの熱い奥へと己を滑り込ませる。
痛みはほとんどなく、ただ温かく、満たされる感覚が、ノアの全身を包み込んだ。
「っ…ん…」
ノアはセトの首に腕を回し、その温もりにしがみつく。
セトはノアの耳元で優しく囁いた。
「気持ちいいか、ノア?」
その声は甘く、ノアの心臓をドキドキと高鳴らせる。
ノアは羞恥に顔を赤らめながらも、小さく頷いた。
セトは優しく腰を動かし始めた。
ゆっくりとした動きは、ノアの奥をじっくりと満たし、じわじわと快感の波紋を広げていく。
「あ…っ…ん…」
ノアの口からは、堪えきれない甘い喘ぎが漏れ出す。
セトはノアの反応を確かめるように、優しくキスを繰り返しながら、動きを少しずつ早くしていく。
快感は次第に強さを増し、ノアの全身を痺れさせていく。
セトの温かさが、ノアの奥深くへと浸透し、今まで感じたことのない幸福感で満たしていく。
ノアは無意識のうちに腰を浮かせ、セトの動きに合わせて己を擦り寄せ始めた。
セトはノアの積極的な反応を感じ取り、嬉しそうに微笑む。
その金色の瞳は、深い愛情と熱い欲望を宿し、ノアを蕩かすように見つめていた。
「もっと…欲しいか、ノア?」
セトの囁きに、ノアは理性などとうに手放し、ただ本能のままにセトの胸に顔を埋め、力強く頷いた。
セトは動きをさらに激しくしていく。
ノアの嬌声は甘さを増し、部屋の中に蕩けるように響き渡る。
快感の波が何度も押し寄せ、ノアの意識は白濁していく。
セトはノアの首筋を優しく舐めながら、再び低い声で囁いた。
「お前は、もう完全に俺のものだ。」
その言葉と同時に、ノアは激しい快感の奔流に身を任せ、意識を手放した。
夜が明け、ノアの体はセクシャルな痕跡によって深く刻まれていたが、その心には、激しい快感と共に、これまで感じたことのないほどの深い安堵と、セトへの信頼が芽生えていた。
セトの腕の中で、ノアは穏やかな眠りに落ちていった。
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