あのちゃんと愉快な冒険

パンチ☆太郎

第1話 コンビニで出会った魔法使い

東京の片隅、渋谷の雑踏に埋もれた小さなコンビニの前で、あのちゃんは立ち止まった。

青い髪、つぶらな瞳、どこかこの世のものじゃない雰囲気をまとった彼女は、今日もゆるいパーカーを羽織って、カレーパンを手にしていた。


「なんか、ちょっと……世界って、だるいよね」


ため息まじりに空を見上げた瞬間、彼女の視界に、奇妙な老人が映り込んだ。

三角帽子をかぶり、マントを羽織り、しかもコンビニのレジ袋をぶら下げている。

中身は――ティッシュとからあげクン(チーズ味)。


「あの、君だよ君」

その老人が、あのちゃんを指差した。


「え、わたし? あー……チラシとかいらないっす」


「違う違う、君にしか見えない“歪み”が、この街に溢れているんだ」


「えっ、なにそれ。そういう設定?」


まるでテレビの企画のドッキリのようだった。だがその瞬間、空間の端が――ピリ、と裂けた。

黒い霧が漏れ出し、通りの風景がぐにゃりと歪んでいく。サラリーマンが突如としてトカゲの姿に変わり、コンビニの看板が「セブンイレブン」から「セブンイレヴィン」に変わっていた。


「世界の継ぎ目が壊れかけている。君には、それを繋ぎ止める力がある」


「え? わたし、今日バラエティの収録あるんだけど……っていうか、普通に無理」


「だが君には、“空気を読まない力”がある。それは現代における最強の魔力だ」


「いや、普通に読んでないだけ……てか、何その言い草」


だが、否応なく世界は変わり始めていた。

老人は、懐から取り出した黒いキャンディをあのちゃんに渡した。


「それを舐めると、別の世界への扉が開く。冒険は、今始まるのだ」


しぶしぶ飴を口に含むと、あのちゃんの視界が反転した。


気づけば、そこは空に浮かぶ列車の中だった。

窓の外には、泳ぐクラゲの群れ、そして飛行するトースター。向かいの座席には、喋るフクロウが新聞を読んでいた。


「……なんなんこれ」


あのちゃんのぼやきは、まるで効果音のように響く。

だが、確かに世界は変わりつつあった。そして彼女は、誰にも真似できない“愉快な冒険”の主役になろうとしていた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る