バフ効果と、デバフ効果

※内容はアントネスト編

75~76話でディエゴが作った呪いのアクセサリーについての話



 リュックないないの刑にされたディエゴの作品を前に、俺は悩んでいた。

 完全にヤバイ代物ではあれど、せっかく作ったタリスマンだ。

 それが例えデバフ効果のある危険なモノであろうとも、貴重なアイテムのような気がしてきたのである。

 凶ではなく、狂であり『持っているとやる気をなくす』デバフ効果のある、ゴミ呼ばわりしたアクセサリーという名のアイテムであるがしかし。完全に利用価値がないとは言い切れないのでは? という風に。


 ゲームのデバフ魔法に比べれば、身に着けなければ効果がないので、それほどの危険性はないような気がしてきたんだよね。

 利用するとしても、直ぐに思い付くのはせいぜい捕らえた猛獣を大人しくさせるぐらいかな?

 悪用しようと思えばできるんだろうけど、外せば効果がなくなるから危険度は低い。知らずに持たされたらわかんないけどね。


 あ、ちなみにこの世界の魔法には、バフやデバフのような種類の魔法はない。何でかは知らないけど。

 自分や他人の能力を一時的に向上させたり、逆に低下させる魔法の研究はされているらしいけど、基本的に自力で鍛えたりする以外で、能力を向上させる方法はないそうだ。

 そんな便利な魔法があれば、誰も頑張らなくなるからかもね~。


 おかしな効果があるモノは、ダンジョンのドロップアイテムぐらいなんだって。それも殆どがジョークグッズみたいなものばかりなのは、妖精の悪戯目的だから仕方がないよね。


 だけど確実にデバフ効果のあるアイテムを、ディエゴは作り出してしまったのである。

 もしかしたら、バフ効果のあるアイテムを作った俺とは逆に、ディエゴはデバフ効果のあるアイテムを生み出す才能があるのかもしれない。



「ほかにもつくってー」

「他のモノ?」

「これと、これー」


 貴重なヤンマ系のトンボ玉を差し出し、俺はディエゴが他にもデバフ効果のあるタリスマンが作れるのでは? と、考えた結果。俺の悪い癖である、好奇心が疼いてしまった。

 こうして人間は危険な兵器を作り出すのであろう。

 作れると仮定し実行したことで、その結果がどうなるかも考えずに。


「おれいはこれねー」


 そう言いながら『獺祭 その先へ』をリュックから取り出す。

 爺さんの仏壇に供えてくれと定期的に送ってこられるので、処分するのも申し訳ないお高い日本酒である。(『十四代』もあるけど、今回のお願いはそこまでではなかろう)


「……ニホンシュ、とやらか?」

「そーだよ」


 ディエゴは最近日本酒に嵌ってるんだよね。

 ギガンはウイスキーやブランデーの洋酒を好むし。

 アマンダ姉さんはカクテルである。

 カクテルって言っても、俺はそこまで種類を知らないし、作れるモノはステア(かき混ぜるだけ)に限られている。シェーカーは持ってないし。(持ってても作れる気がしない)


 晩酌をする大人組のために、夜に気紛れバーを開店した時、アマンダ姉さんになんちゃってうろ覚え『ブラッディ・マリー』を作ったらすごく気に入られちゃったのが切っ掛けである。

 他に作れるとしても『スクリュードライバー』に『モスコミュール』や『ソルティドッグ』ぐらいだね。『グラスホッパー』っていう名前のカクテルの存在を知って、カクテルに興味を持ってレシピ本を購入したんだよな~。そのレシピ本があるから、材料さえあれば作れると思うけど面倒だから簡単なカクテルしか作る気はない。

 なんせグラスがね~、タンブラーしかないんだもん。


 これらのお酒は、俺のお願い事を聞いてもらう際に差し出す、山吹色の菓子のようなものだ。

 最近は安物の赤白ワインしか出していないし。お酒を嗜む割には、みんな暴飲しないから、例のワインがなかなか減らないのだ。

 まぁみんな楽しく飲む方だから、翌日に具合が悪くなるような飲み方じゃないのは良いことだけどね。


 そんな中。ちょっと無理目のお願いをする時に限り、俺から差し出される特別なお酒なので、警戒されることもある。だが大抵誘惑に負けるのだ。

 高いだけあって、すっごく美味しいらしいよ?



「ゴミじゃなかったのか?」

「う~ん……」


 あの時はあまりの危険度に『ゴミ』って言っちゃったから、拗ねているのかな? だって自分で持ってて効果を実感したディエゴなら判ると思うけど、かなりヤバイ代物だったじゃん!

 でもあの時はそう思ったけど、今はまた考えが変わったのだと俺はディエゴに謝った。


「ごめんね」

「……」


 どこか訝しむような表情だけど、俺が心から謝っていることが判ったのか、コクリと頷いてくれた。

 ディエゴも俺も実験は好きだけど、自分がその実験対象になるのがちょっとだけ嫌なんだろうな。判るよその気持ち。俺なら拒否しちゃうもん。

 それに、確実に俺が楽しんでいるのが判っているだけに。

 獺祭に釣られながらも嫌々なのが丸判りである。

 しかし獺祭を諦められないので、作るしかないのである。

 『獺祭 その先へ』は、今まで飲んだ『獺祭』とは別格だからね~。うははははは!


 デバフ効果のあるアイテムを作りだすのも才能だよ~。

 他にもデバフ効果がある物が作れたら、大天才だからね~。



 そうして。

 ディエゴをおだてたり宥めたりしながら作らせ、出来上がったそれらアイテムは――――余りのヤバさにリュックないない案件となったのは言うまでもない。




おしまい



※いずれどこかでそれらアイテムを使うと思うので、デバフ内容は秘密だよ!

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