第2話
とある屋敷の一室に、一人の人物が入室した。そして、其の部屋に居る屋敷の主に話し掛けた。
「忙しい所、失礼します。
「……子津が?仕事関連の事なら、特に緊急の物は無かった筈だが……」
「否、仕事関連の事では無く、美咲様関連の事らしく」
其の一言を聞いた主は、嬉々として声を弾ませた。
「
だが、そんな主を部下の一人が放った言葉によって空気が一変した。
「……美咲様は、お亡くなりになったそうです」
「……………は?今、何と言った?」
「……っ、お亡くなりになったそうです…ですが、この事はまだ一部の者しか知らぬ機密情報らしく、其れに…子津家の管轄内の事ですので、詳しい詳細はまだ入手して居ません…」
主の放つ威圧に耐えながらも、部下は淡々と語った。其の情報を聞いた主は、意外にも直ぐに威圧を鎮め、深い溜息を付いた。
「………すまん、お前に当たる事では無かったな……」
「いえ、心中お察しします」
「…だが、其の情報は本当なのか?出所は?」
「其の事に関してですが、子津家当主様より連絡を頂戴致した次第です」
主の問い掛けに、部下は姿勢を正し話を続けた。
「子津家当主様が、主様に直ぐにでも確認して欲しい事項が有るらしく…『美咲の旦那と連絡は取れるか。取れない場合、身元の安否確認、及び捜索を直ちに行った方が良い』との事です。尚、我等部下一同、直ぐに行動可能です」
「…成程……ウチの者に手ェ出した輩が居るって事かい……」
「有り体に言えば、そう言う事ですね。如何しますか?」
「そんなの、決まってる……部下総出で、あの馬鹿たれの捜索に当たれ!!必ず、連れて帰って来い!!」
「承知致しました。直ちに、捜索に当たります。主様は…子津家当主様の元に向かわれますか?」
「嗚呼…色々聞きたい事も有るしな…」
「承知致しました。子津家当主様に其の事を伝えて起きます。では、私はこれで失礼します」
「……気を付けて行ってこい……それと、あの馬鹿たれの二の舞だけは絶対避けろ。良いな?」
「了解しました。部下全員に周知して起きます」
報告を終えた部下は、主の注意勧告に頷き、部屋を後にした。そして、一人残された主は顔を両手で抑え机に項垂れた。
「……………親不孝の馬鹿野郎が……っ」
そして、一人静かに涙ぐんだ…―
―…とある屋敷から、場所を移り。
子津家の屋敷で住込みで働く一人、
「御早う御座います、親―」
「―大きい声を出すな。美和が、まだ寝て居る」
そして、部屋に到着した咲紗羅が、襖を開け早朝の挨拶を発したのだが、部屋の主である克己によって言葉を遮られた。少し不服そうな表情をした咲紗羅だったが、克己の寝間着を掴み未だ夢見心地の美和の姿を見た瞬間、目を見開いた。そして、美和の髪を優しく梳いて居る克己に小声で話掛けた。
「……えっ??美咲様の御部屋に寝かしたと、御聴きしたのですが…何時の間に、親父殿の元に??」
「……昨夜、私の元に駆けて来て『ママが居なくて寂しい』と、抱き着いて来たからな……私が美咲の代わりに、美和と一夜を過ごしたんだよ」
「…そんな事が……では、今後どうするおつもりですか?美和様が望む限り、一緒に寝食を共にすると言う事ですか?」
「……美和が、其れを望むならな……だが、其の前に……美咲を連れて帰る為に、あの子に与えた家に向かわなければならない。引越したと言う話は、美咲から聞いて居ないのでな、まだあの家に居る可能性は有る。これ以上、あの子の身に何かあれば……私は……正気で居られる自信は無い」
未だ夢見心地の美和を優しい眼差しで見詰めながら話す克己の表情は伺い知れないが、口調からは、強い憤りを感じた。其れはそうだろう。今は亡き、克己の最愛の妻が残した最愛の娘が、自身の預り知らぬ所で、最悪な状況下に置かれて居たのだから。咲紗羅も、克己と思いは同じだった。幼少期から美咲と共に過ごした身としては、姉妹であり、友で有る彼女の力になりたい、救われた恩を返したい一心で、子津家で過ごして来たのだ。其れなのに、最悪の形で美咲を失って締まった。其れ程、損失が大きかったので有る。
「……承知致しました。では、何名か人員を連れて行かれますか?他に必要な物が有れば手配致します」
克己の思いに触発された咲紗羅は、力強く、然し淡々と話掛けた。其れに克己は、美和を撫でる手は止めず、静かに応えた。
「……なら、トラックを一台。あの家を引き払うかも知れないからな……家財道具の整理をしなくては、他に必要な物が有れば連絡する。尚、美咲の件に付いてだが…内密で行動する。表立って動くな。他の主家の連絡等は私が行う。片が付く迄、各々今迄通り生活しろ。他の奴等にも周知しておけ」
「承知致しました。では、そろそろ朝食の準備が整うと思われますので、支度が終わり次第、美和様と共に食卓に御越し下さい。私は、諸々の準備が有りますので、これで失礼致します」
「……嗚呼」
克己の命に従うべく、咲紗羅は準備の為部屋を退出した。そして、咲紗羅が部屋から離れた後、克己は美和を起こし始めた。
「……美和……朝だそ、そろそろ起きて食事にしよう…」
「……………っん………ごはん……?」
「……御早う、美和……嗚呼、まだ眠いのは分かるが、私も仕事が有るのでな……一緒に朝食を食べようか」
「……んー……」
眠気眼を擦りながら、何とか起き出した美和と共に、克己は布団から出た。そして、寝間着から着替えた克己は、今だ眠そうにする美和の着替えを簡単に済ませ、部屋を後にした…―
―…朝食を済ませた克己は部屋に戻り、仕事着に着替えながら、自身の後に付いて回る美和に、優しい口調で話し掛けた。
「…美和…私はこれから、美和のママに会う為屋敷を留守にするから、咲紗羅と共に御留守番をしててくれ。出来るか?」
「…………やだ……みわ……じぃじと、いっしょにいく…」
だが、克己の言葉を聞いた美和は、首を振り涙ぐみながら呟いた。其れに克己は、着替えの手を止め、美和と目線を合わせる為に屈み、尚も優しく語り掛けた。
「…美和……ママと共に過ごした家に帰りたい気持ちは分かる。だが、其れは出来無い約束だ。美和が、一人で私の所に来た理由……忘れて無いだろ?そんな危険な場所に、美和は連れて行け無い。ママだって、其れは望んで居ない筈だ。其れに、これから美和は、この屋敷で私と暮らす事になるんだ。荷物だって、整理しないといけない。其れに……ママが、美和に早く会える様に……咲紗羅と御留守番して欲しい。美和が、屋敷で待ってると分かれば、私もママも安心するんだ。良い子で……御留守番出来るな?」
「…………っ………ぅん……はやく、かえって、きてね……っ」
克己の言葉に、美和は泣きじゃくりながら頷き、首元に抱き付いた。其れに克己は、優しく髪を梳きながら、尚も話を続けた。
「…嗚呼、分かった。では、良い子で御留守番出来る美和に、御土産を買って来よう。何か欲しい物は有るか?」
「………いらない……じぃじが、いればいい…」
「……そうか…なら、美和の為にも早く帰って来ないとな」
美和の返答に、一瞬目を見開いた克己だったが、直ぐに目元を和らげ、一層優しげな口調で呟き、美和が落ち着く迄、髪を梳く手を止め無かった…―
「……では、行って来る。私が居ない間、屋敷の事は任せた」
「はい。行ってらっしゃいませ、親父殿」
使用人達に、手早く挨拶を済ませた克己は、未だ目元に涙を浮かべる美和と目線を合わせ、頭を撫でながら話掛けた。
「……美和、行って来るな」
「………ぅん…」
其れに美和は、小さく呟き頷いた。其れを見た克己は、咲紗羅に目線をやり、そして小さく頷き屋敷を後にした。
「……美和様、部屋に戻りましょうか。御菓子も飲み物も、欲しい物が有れば手配しますよ」
克己を見送った咲紗羅は、未だ克己が出掛けた玄関を見詰める美和に、戸惑い気味に話掛けた。其れに美和は、首を振り玄関に座り込んだ。
「…………ここで……まってる……」
「……えっ?否、然し……数時間も、此処で過ごす積もりですか??」
「……ぅん……まってる…」
「…………分かりました。何かあれば、近くの者に声を掛けて下さい」
美和の発言に、咲紗羅は驚愕した声を出し、美和を問い質した。其れに美和は、目線を合わせる事なく、頑なに応えた。そんな美和に、咲紗羅は溜息を付き、他の使用人達を下がらせた。
「咲紗羅さん、宜しいのですか?!」
後を付いて来て居た使用人の一人が、咲紗羅と玄関に座り込む美和を交互に見ながら、驚愕した口調で話掛けた。其れに咲紗羅は、又も溜息を付き、使用人の問い掛けに答えた。
「……どうせ、言っても聞かない。頑固な所とか、親父殿に似て欲しく無かったが……矢張り血筋だな。さて、美和様が外に出無い様、監視を付けて起こう。美和様の身に何か有れば、親父殿に申し訳が立たん」
だが、咲紗羅は直ぐに仕事モードに突入し、指示を飛ばした。其れに使用人達は、身を正した。
「では、二~三人程付けますか?」
「そうだな。親父殿から連絡が来る可能性も有るからな、其方にも人員を割きたいし……其の都度対応出来る様、急ぎの仕事以外は後回しで動こうか」
「了解しました。手隙の者に、監視を頼みに行きます」
そして、直ぐに仕事に移るべく、行動を開始し出した。其れを見届けた咲紗羅は、美和に目線をやったが、自身も仕事をするべく、廊下を歩き出した…―
―…子津家屋敷から場所を移し、とある一軒家に克己は来て居た。そう……美和と、其の母で有る美咲が暮らして居た家にだ。この家は、克己が美咲の結婚祝いとして贈った物で有る。だが、仕事で多忙になる事も多々有る為、この家に来たのはほんの数回程度の頻度しか無い。だが、此処迄手入れが行き届かぬ程の草木が生い茂って居た事実に、衝撃を隠し切れ無いで居た。
(………矢張り、屋敷を出る事を反対して居ればこんな事には………否、其れは過ぎた事だ。其れ寄りも今は……―)
「―……家の中を確認するのが先か……」
克己は、自責の念に駆られた思考を振り払うかの様に掌を握り締め、合鍵で玄関の鍵を開け、家の中に足を踏み入れた…―
―…だが、其処に広がって居た光景に、克己は目を見開いた。玄関を開けて直ぐの廊下には、土足で侵入したかの様に、無数の靴跡が残り、更に血痕も僅かに散乱して居た。そして、微かにだが、血生臭い匂いも感じ、異質な空間に成り果てて居た。其の中を、克己は只無言で、足跡と血の匂いを辿るかの様に部屋に入った。そして、リビングと思しき部屋に視線をやると、見るも無惨な惨状が広がって居た。部屋一面に広がる夥しい程の血痕が、壁や扉、食卓テーブルや椅子に飛び散って居り。更に、物が散乱し争った様な痕跡も、所々に残されて居た。そして、其の部屋で、血溜まりの中に倒れ伏す娘―美咲の変わり果てた姿が鎮座して居た。顔の外傷は少なく、血痕が付着して居る事以外は、見た限り特に変化は無い様だ。だが、胸元や腹部に目線をやると、刃物の類の刺傷等の痕跡が広がって居た。そして、血痕が未だ乾き切って居ない事から、この惨状が広がってから、数時間程度しか経過して居ないのだろう。
「………美咲………迎えに来るのが、遅くなってすまないな……美和も、御前の帰りを待って居る……私と、一緒に帰ろうな」
美咲の姿を視界に納めた克己は、淡々と歩を進め、血濡れた美咲の髪を梳きながら呟いた。
そして、顔色の悪い部下数人に目線をやる事なく、淡々と指示を飛ばした。
「……この見た目のままだと、美咲を運べん。大きめの布でも良い、誰か持って来い。其れから、この家は引き払う。部屋の荷物の運び出しも、早々に行って来れ………嗚呼…この怪我も、このままでは駄目だな。彼奴に連絡して、縫合して貰おう………そう言えば、あの男の姿を見掛け無いな。彼奴なら知ってる筈……後で連絡してみるか……」
「……ぁ………何で…親父殿は、そんなにも平気な顔して居られるんですか……美咲様が亡くなったってのに……っ」
だが、克己の態度に部下の一人は怖気付き、言葉を詰まらせながらも話掛けた。其れを聞いた克己は、動きを止め、話掛けて来た部下に語気を強めながら呟いた。
「………御前には……私が、平気に見えるのか…?娘が……美咲が、何処の馬の骨かも分からん輩に、無惨にも殺されたにも関わらず…?何故、私が平気だと…?」
「……っ、申し訳有りません!!親父殿!!此奴は、まだ日が浅い新人なもんで…っ!!後で、言って聞かせますので…っ!!今は、美咲様を運び出しましょう…っ!!ほらっ!!御前等も、呆けて無いで動け…っ!!」
「「「……っ、はい!!!!」」」
克己の語気に、正気を取り戻した他の部下が、失言をした部下の一人の頭を掴み、直ぐ様頭を垂れ謝罪をした。そして、他にも同行して居た物等を連れ、運び出し等に必要な物を取りに外に向かった。一人取り残された克己は、只無言で、美咲の傍に居た…―
―…家の外に出た部下の一人は、先程失言をした部下の後頭部を土突き、激昂を浴びせた。
「…っ、この……馬鹿野郎が……っ!!!親父殿が、平気な訳有るか…っ!!!!」
「………っ!!!だって…っ!!!親父殿の、あの態度を見たらそう思うでしょう…っ!!!」
「……御前の言いたい事は分かる……だが、此処で騒いだ所で、美咲様は生き返ら無いんだよ……っ!!!」
「………っ!!!」
『生き返ら無い』
―…其の言葉に、部下は我に返った。そう、最愛の一人娘を無惨にも殺されて、一番辛いのは、彼等の主で有る克己自身の筈。だが、克己は其れを表に出そうとはしない。部下含め、人前で弱音を吐く事を良しとしなかった。否、出来無かったが正しいか。克己は幼少期から、期待と言う名の重圧に晒されて来て居た。其れ故、何時の頃からか、感情を表に出さず、常に人が良さそうな表情と言う名の仮面を貼り付けて過ごして居た。其れは、他の主家の面々に対してもそうだった。だが、其れはたった一人の女性との出会いで激変した。そう、今は亡き克己の奥方との出会いが、克己の人生を大きく変えたと言っても過言では無い。そして、美咲と言う一人娘の誕生も、克己を変えた一つと言えよう。
「……すんません、俺…失礼な事言って締まって……」
先輩部下に激昂された後輩部下は、しょぼくれた表情で謝罪をした。其の姿に、先輩部下は溜息を付き、後輩部下の頭を撫で回した。
「……謝る相手が違うだろうが…ったく……この仕事が終わったら一緒に謝りに行くぞ」
「………っ、はい!!!」
そして、車に積んだ荷物を取りに、荷台に歩を進めた。其れに後輩部下は、胸を撫で下ろして、先輩部下の後に続いた…―
―…其れから数時間後。美和と美咲が暮らして居た家から、美咲の遺体を運び出し、車内に乗せた車は、克己と共にとある場所に向かって居た。其の場所とは、十二主家の一つ『
「……極秘で受け入れて欲しいと言うから、何事かと思ったが……御前一人だけか、子津…?」
「…………当主直々に出迎えか、卯佐……」
克己の苦言に、卯佐家当主『
「…主家の当主が御越しになるのに、部下を遣わす訳が無いだろう……それで?誰を極秘に受け入れれば良いんだ?」
渚の問い掛けに、克己は無言で車内に目線を向けた。其れに渚は、何かを察し盛大に溜息を付いた。
「………身内か………?」
渚の確信を付く発言に、克己は否定も肯定もせず、只無言で車内を見詰めるだけだった。克己の其の姿に渚は、額を抑え、絞り出す様に呟いた。
「………美咲ちゃんか………呼吸は…脈は有るか……」
「…………無い………傷口からの出血が酷い……」
「……出血多量の……即死か………殺害か……?」
「……だろうな………土足で侵入した痕跡が有った…」
渚の問い掛けに、克己は淡々と返答をして居た。只、美咲から目線は外さずに。其れに渚は、平然を装いながらも動揺が抑えられずに居た。
(……落ち着け……動揺するな……子津は只…美咲ちゃんの事を話てるだけだ……っ)
そして、渚は心情を悟られまいと、長く息を吐き出し、平然を装いながら克己に視線を戻した。
「……美咲ちゃんの容態は分かった。私は、彼女の傷口を縫合すれば良いんだな?」
「………嗚呼」
「…では、美咲ちゃんを運ぶとしよう。担架を持って来たから……子津、美咲ちゃんを乗せてくれ」
担架に視線を寄越した克己は、車内から布に包んだ美咲を、割れ物を扱うかの様に優しく乗せた。そして、美咲の乗る担架を運ぶ渚と共に、病棟に歩を進めた…―
―…凡そ数時間後。美咲の縫合を終えた渚が、汗を拭いながら術室を後にし、克己の居る待合室に向かった。
「……子津……無事に縫合は終了した。損傷箇所が酷くて時間は掛かったが……」
「………そうか……手間を取らせて締まったな…」
途中、自販機で購入した缶珈琲を、心非ずな克己に渡しがてら話掛けた。
「…否、私はこれが仕事だからな……其れ寄りも、葬儀の方は何処で行う予定だ?美咲ちゃんに、線香を上げに行きたいのだが……」
「………其れ何だが………」
だが、間を開けて発した克己の言葉に、渚は目を見開いた。
「……美咲の葬儀に、誰も呼ぶ気は無い。身内だけで済ませる」
「…………は?…………其れは……理由が有るのか……?」
「……美咲を殺した奴が………主家の中に居ると、私は踏んでる……」
「……馬鹿な事言うなっ!!美咲ちゃんが、誰かに恨まれる様な子だとでも言いたいのかっ!!!!」
『殺人犯は主家に居る』
克己が発した主家の存亡に関わる言葉に、渚は憤怒を顕にした。だが、そんな渚に臆する事無く、克己は尚も言葉を続けた。
「……正確には………子津家に……だろう……子津家先代当主の方々及び、血縁者が、次々と早死する理由が他に有るとするならば……子津家滅亡が妥当だろう」
「………子津家を……潰す………??……そんな話が、有ってたまるか……っ!!何故、子津家が潰れ無ければならないんだ……っ!!!!」
憶測の域に過ぎ無い発言に、渚は混乱する思考を抑えられずに怒号を上げた。だが、子津家先代当主及び、其れに連なる縁者が『謎の死』を告ているのも事実である。克己は、今迄其の事に対する真意を図り兼ねて居た。
「……では……何故私の家系だけ、代替えが頻繁に起こる…?何故、他の主家は狙われない…?……この事実を、どう説明するつもりだ…?」
「………そ……其れは……っ」
克己の問い掛けに、渚は言葉を詰まらせた。渚自身、この事実に少なからず、思う所が有ったからだ。だが、事実を認めたく無くて、目を背けて居た。認めてしまえば、幾年にも渡る主家の関係性に、亀裂が入る恐れが有ったからだ。だが、子津家が滅亡した後の事を考えると、事実を明らかにする時が来たのかも知れない。何せ、子津家が居たからこそ、主家の統率が取れて居たのだから…―
―…子津家除く他主家の当主面々の顔触れは、一癖も二癖も有る曲者揃いしか居ないのだ。其の上、我が強く、まともに会話が成立した試しが無い。そんな当主面々の手綱が握れる者等、子津家当主しか居ないのだ。当主面々は、何故だか子津家にだけ信頼を起き、忠誠を誓って居る。だが、子津家以外の主家に対しては、忠誠等無いに等しい程、当たりが強い。まるで、子津家以外、眼中に無いとでも言う様に…―
―…だが、とある一家は他の主家にすら関心すら無いが、子津家にだけ敵対心が強い。其の一家とは『
『……今……私が取るべき最適解は……』
数時間にも感じた数分間の熟考の末、渚は意を決した様に、克己の前に膝を付き忠誠の姿勢を取った。そんな渚の姿に、克己は何も言わず無言で視線を向けた。
「……子津、私はまだ……自分が取るべき最適解が分から無い……だが、これだけは確かに言える事が有る。当主権限で我等卯佐家は、子津家を裏切る事は無い!!生涯に渡り、子津家に忠誠を誓う事を此処に宣言する!!故に、子津家滅亡を阻止する為の協力を、我等は惜しまない!!」
「…………部下の相談無しに、そんな事を決めて良いのか……?」
「……構わん。反感の有る奴等は黙らせれば良いだけだ。其れに……他の主家の面々も同じ事を言うと思う……まぁ、戌飼家と巳塚家は知らないがな……」
渚の言葉に、克己は思う事が有るのか、渋い顔になった。だが、直ぐに表情を正し渚に向き合った。
「……其れが卯佐家の誠意なら、我等子津家は受け入れよう」
「……っ!!我が身が尽きる迄、御供しよう!!」
こうして、子津家と卯佐家の結束は、更に強固な物になった…―
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