『神のいない街』
FK
第1話
神のいない街
第一話:祈りの届かぬ場所
雨が降るわけでもないのに、傘を差している男がいた。
真夏の夜、渋谷のスクランブル交差点――その男は、赤信号のど真ん中で立ち止まり、空を見上げていた。
誰も気にしない。
誰も止めない。
この街では、狂ったやつの一人や二人、誰にでもいる。
だが、朝倉隼人(あさくら はやと)は、その傘の男を見た瞬間、なぜか動けなくなった。
「……あれは、“傘”じゃない。」
そう呟いたときには、男の姿はもうなかった。
深夜0時を過ぎても、街は光と音に満ちていた。
ネオン、排気音、笑い声。
この街には“神様”なんていない。誰も祈らない。誰も期待しない。
必要なのは、現金とアルコールと、嘘をつくスキルだけ。
朝倉は元・探偵だった。
今は情報屋。依頼があれば、何でも調べる。
浮気、失踪、裏金、失せ物。
ただ最近、変な依頼が増えてきていた。
「空に、白い影が浮いているんです。見えませんか?」
「祈っても、返事がこないんです。」
「私の娘が、空の裂け目に飲まれたんです。」
どれも意味不明だ。薬か、妄想か。
だが、同じような話が、月に10件以上も届くようになっていた。
――空の異変。
――天使の影。
――祈りの喪失。
「神がいなくなった」と言ったのは、5日前に死んだホームレスだった。
死体のそばには、焦げた紙切れが落ちていた。
そこには、手書きでこう記されていた。
“ミカエルはもういない。
ラッパは吹かれなかった。
裁きは保留された。
だから、神はいない。”
朝倉は煙草を吸いながら、空を見上げる。
そこに“何か”がいた。
でも、名前を呼んではいけない気がした。
呼んだら、見えてしまう。
そして、見えてしまったら、もう“戻れない”。
スマホに通知が届く。
「件名:あなたにしか見えないもの、ありますか?」
送信者不明。添付ファイルなし。
朝倉は煙草を消した。
そして、ポケットの奥から一枚の写真を取り出した。
そこには――二年前に死んだはずの親友が、笑って空を指差していた。
“あの上に、まだ何かがいるんだよ。俺は見た。”
神はいない。
けれど、空にはまだ“誰か”がいた。
(To be continued)
『神のいない街』 FK @fkdragon7
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