烏丸芽衣は「最高の人生」を手に入れたい!~転生したのにチートじゃないから、せめて幸せを全力で取りに行きます~

七瀬芙蓉

プロローグ.転生



昔っから希望を謳っているものが嫌いだった。

まるで、絶望の淵にいる私を嘲笑うようだったから。

最悪の人生だった。

親からは特に虐待は受けなかった。寧ろ世間一般的な「普通」だった。

だが学校では、殴る蹴られる等のいじめを陰で受けていた。

だからだ

親も、先生さえ私を救ってはくれなかった。

まるでみんな私に対し仮面をつけているかのように、私を見るが「興味」はなかった。

そこからだったんだろう

私が「最高の人生」を望むようになったのは。


「...今日も疲れた」


暗き空。電柱には虫には数匹程。

そして静寂。良く言えば寂れている。

手に持っているのは、レジ袋に包まれたコンビニ弁当と、珈琲だけ。

空虚

そんな言葉がよく似合うだろう。


「帰ったら...うーん、あ、読み途中の小説があったな」


"私が幸せになるまで"

イヴリン・リリーという子が、幸せになるまでの物語。

そう書いていた。

気になって買ったものの、仕事が忙しくてまともに読めていなかった。


「...たまにはありかも?」


そういって、微笑みを浮かべる。

冷蔵庫にあるチューハイでも出して、この弁当を食べながらゆったりと読もう。

尤も、明日も仕事だから長くはできないけれど。


いつしか暗かった住宅街を出て、少し車通りがある道に出る。

行ったこともないラーメン屋に、やけに駐車場が広い牛丼屋。

私は信号の前に立ち、赤から青へ変化するのを待つ。


その時だった。


やけに視界が明るくなった。

轟音が聞こえる。

タンクローリーとかだろうか。


確かに歩道に居るはずなのに、鉄の何かがこちらに突っ込んでくる。

それが心で理解できた。


ダメだ


「小説、読み切りたかったなぁ」


私のその声は、掠れてきっと私以外に聞こえなかった。

「烏丸芽衣」としての人生は、ここで幕を閉じたのだった。



鳥がさえずっていた。太陽はやけに眩しくて、フランスパンの匂いがする。

意味がわからなかった。


「私は、いやどこだここ」


レンガ造りの家に、まるでフィレンツェのような景色。

明らかに日本ではない。


「まって、私は、水はどこ?!」


私は叫ぶ。

感覚で"地球ではない"どこへ来てしまったのは理解が及んだ。きっと異世界転生のようなものなんだろうと。

私は何者なのか、それすらわからなかった。きっと私のはずなのに、私じゃない。


「あった水溜まりこれで...」


私はふと水溜まりから写る私の姿を見る。


「これって...」


私は確信した。

ここは日本でも、ましてや地球でもない。


だって


「私...イヴリンじゃん...」


小説の、イヴリン・リリーに転生していたのだから。






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