第29話 市街地へ下る石段

 俺たちは、小高い丘の上の館から街まで石段を降りている。


「昼間に見ると、本当に森の中にある街なんだな」


 周囲を囲んだ木の柵の向こう側には鬱蒼とした樹々と、川の周辺にちょっとした草原地帯見える。


「でも、大森林から溢れる魔物と周辺の少数民族の貴重な資源のお陰で、中央から離れていてもこれだけ栄えていられるんだけどね」

「確かに……建物は高いし、人も多いな」


 と俺が話す横で、カンナは手元のメモに視線を落としている。

 先ほどの集団から頼まれた買い物リストである。


「足下の石段は高さも不揃いで歩きにくいのに、転けずに器用なもんだな」

「ふふ、私は剣術lv3らしいからね」


 嬉しそうにカンナがイヒヒと笑う。

 彼女も俺と同じく、昨夜寝ているタイミングで鑑定をされたようだ。


「小さい頃から剣道をやっていて良かったわ」


 lv3となると、中堅として認められるほどの腕前なんだそうだ。


「中学で辞めたくせに……こうなれば魔剣に取り込まれて、自我を無くしてしまえばいい……ぶはははは」


 と無意味に笑う魔王な俺の尻にカンナが蹴りを入れたので、思わず階段で転びそうになる。




「ところで、鑑定用のアイテムの都合は付きそうなのか?」


 俺はエルマに尋ねる。

 鑑定アイテムを手に入れさせたうえで、エルマに現代日本の品々を粉化させて魔法のアイテムを作り、それで日本円を稼ぐ計画なのだ。

 だが、口の軽い俺の知らないところで商談が進んでいたので、計画の進捗状況は知る術が無かった。


「当然。例の図鑑を街の商業ギルドに寄贈した見返りに、鑑定モノクルをもらえる事になったわ」


「モノクル?」とカンナから疑問が漏れた。

「片眼用のメガネだな。モノクルのモノはモノレールのモノ」


「あぁ、わかりやすいけど言い方がなんかムカつくわ」

「俺のせいかもしれんが、カンナも心の声が漏れる呪いに掛かっちゃったのかもな……」


 バカバカしい話をしながら、俺たちは市街地まで降りていく。


 下った先の広場には、珍しい形の野菜や奇妙な色の果物が並んだ屋台が建っている。黒ずんだ串焼きを焼くケモ耳のオオカミ男もいた。


「獣人そのものよりも、耳や尻尾の細かい動きがリアルでなんか感動……」


 俺の心の声にカンナも深く頷く。


 すると横を歩いていたらエルマから一言。


「当たり前の事に驚いている2人を見たら、あっちの世界で私もそんな顔してたのかなぁって、ちょっと恥ずかしくなってくるね」


「むむむ、エルマちゃんも心の声が漏れる呪いに掛かったのかな?」


 異世界の言葉が飛び交う広場に、俺たちの笑い声が響いた。

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感情ダダ漏れの呪い状態で異世界行ったり来たり まりも緑太郎 @marimo375

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