第24話 カバーソングブーム

「最前線から退いて、その後もヒット曲やタイアップに恵まれなかった歌手がいて、その歌手がもう一発ヒットしようと手をつけるのが【カバーアルバム】なのだよ」


 翌朝のロメインさんの屋敷、正確にはゴルドブーム伯爵家クレー別邸の食堂で、俺たちは朝食を食べている。

 ゴルドブーム伯爵はロメインさんの父、エルマの祖父にあたる。


 別邸といっても貴族の家だ。天井は高く部屋は広い。

 窓枠や、階段の手すりには細かくて上品な装飾が施されていて、メイドや執事が何人か待機していた。


「’00年代の後半に始まったカバーソングブームは、その後も形を変えながら続いていく」

「男性ミュージシャンが女性の曲を歌ったアルバムを出したり、逆に大勢の歌手で往年のスターのトリュビュートアルバムを出したり、外国人に演歌歌わせたり、演歌歌手がJポップ歌ったりな」


 つい数分前に俺に「何故レパートリーが古い曲ばかりなのか?」を聞いたカンナは朝食を頬張って、適当な相槌を打っている。

 昨日の夜、『カブトムシ』を皆に賞賛をされまくったカンナちゃんは、この質問をするタイミングを逃して今になったそうだ。

 良い歌詞だもんな『カブトムシ』


「それでな……俺が大学に通ってた頃、歌の上手い素人が名曲のカバーを動画サイトにアップするのが流行りはじめたんだ」

「軽音サークルに所属していた俺の当時の彼女……ってもつい先日交際11年目にして振られたんですけど」

「俺の職場が倒産したからって……振られましてもねー、どう思うよエルマちゃん。って言葉通じないか……」


 長いテーブルの少し離れた場所で朝食を食べるエルマに声をかけるが、エルマは微笑んで首を傾げるだけである。


「元カノの事はいいから、話を戻して」


 カンナの忠告で俺は我に返る。


「それでね、彼女が言ったんだよ『毎月2曲、動画を撮ろう』って……」

「それからの大学生活は、勉強とバイトと自分のバンド活動と彼女の動画向けのギターと……といった具合に忙しかったんだよ」

「彼女の就活が忙しくなるまでの数年間、惚れた弱みにつけ込まれ、没になった曲も含めて100曲以上の曲を練習させられました……」




「最後、何故に敬語になったの?」とエルマが笑ってツッコミを入れてくる。


「そりゃあ、辛かったけど楽しかったからな。遠くを見つめる目で話す時は敬語なんですよ……って何故、エルマちゃんが日本語喋ってんだ?」


 俺の声にニヤリと笑うエルマ。


「今朝早く、日本語の【翻訳の指輪】を作ったからね」


 芸能人の結婚会見みたいに指輪を見せるエルマとその父のロメインさん。


「俺を驚かせようとしたのかよ。意外とお茶目だな……」

「……って、さっきの元カノの話も聞いてたの?」

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