第8話 盗難注意の貼り紙

「『あたしぃ、隠し事出来ないタイプの人間なんでぇ』って言うサバサバ系の女の言う事は嘘だ。大抵の人間は言わなくてもいい事は言わない。だが、俺は言う。それは呪いだからだ」


 コインランドリーに連れ込まれた俺は、村尾カンナという薄幸美人に呪いの説明をさせられている。


「だから思った事はどんなにくだらない事でも口から出ちゃうし……例えばお姉さんはコインランドリーに何を洗濯しに来たのか? とか、その中に下着は含まれてないのか? とか、やっぱり女子の下着はネットに入れて洗うのか? とか……」


 話が逸れだすと、カンナは壁の張り紙を指差す。【盗難注意】


「盗難注意って何?」


「私が指差したら妄想が止まったでしょ?」


 とカンナが胸を張る。


「やっぱり巨乳だな。何カップなんだろう? どの洗濯機を調べれば良いんだ? むっ? 洗濯機の中で回る服は【収納】出来るのだろうか?」


「その【収納】って何?」


「おっと、コレは言っちゃダメなヤツだ。盗難注意、盗難注意」


 俺は壁の文字を必死に読む。


「【収納】って何?」


「くそ、この女手強い。でも美人。俺が正直に【無限収納】の事を話して、この美人に散々良いように使われたとして、その過程でちょっとぐらいはいい思いをさせて貰えるのだろうか?」


「【無限収納】って何?」


「ヤバい【収納】が【無限】な事がバレた。注意を逸らせ。盗難注意、盗難注意。って、この女、可愛い表情作ってきやがった」


 カンナは確実に面白がっている。前屈みになり、水色のパーカーのファスナーを上げたり下げたり。


「くそっ、そのダルダル襟のTシャツから鎖骨が覗くのがまたポイントが高い。盗難注意、盗難注意」


「アンタが、巨乳好きの変態なのはわかったから、とっととその呪いを受けた経緯を話なさいよ。ちょっとぐらいなら良い思いができるかもよ」


 という潤んだ瞳に負けて、俺はそもそもから話を始めた。

 神様に連れて行かれた話。好きな能力をもらえる話。俺がわがまま言ったばっかりに、思った事がダダ漏れになる呪いを受けた話。


「……つう訳で、俺は【健康な体】【転移】【無限収納】が使える。だから……カンナさん……って何気なく下の名前で読んでみたぞ。どうだ人類にとって小さな一歩だが、俺にとっては大きな一歩だ」


 カンナがまた壁の【盗難注意】を指差した。


「だから、カンナさんの洗濯物も持って帰ってあげるよ。って、ブラのサイズも調べちゃうけど……ってあぁ、口に出しちゃってる!」


「コタツ布団のサイズなら載ってるかもね」


 ちょうどブザーが鳴った大きい洗濯乾燥機からコタツ布団を取り出すと、カンナは厚手のビニールの袋に詰め込んだ。


「コレさ、あの通販で買った掃除機で中の空気を吸い出す袋なんだけど……」


 とカンナがそれを俺に差し出した。


「ねぇ、試しにコレを収納してさ、中の空気を抜いて返すって出来る?」


 受け取った俺はそれを収納する。

 一瞬で消えたカンナが大きく目を見開いた。


「では、空気を抜いた状態で……」


 と目の前に、思った以上にカチカチのコタツ布団が入ったビニール袋が出てきた。


「「本当に出来た……」」


と2人の声が合って、無人のコインランドリーに笑い声が響いた。

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