第7話 村尾カンナは目撃する
村尾カンナの所属するガールズバンドの名前は『ブロッコリー ストライク』という。
ボーカルギターのサチ、ドラムのキヨと高校時代に組んでいた前身のスリーピースバンドに、1学年上のシンガーソングライター志望のユキエさんを強引に引き入れて組んだバンドだった。
インディーで活動したのは2年ほど、とんとん拍子でメジャーデビューまで進み、首都圏の2000人規模のハコなら満杯に出来る程度のバンドにはなった。
作詞作曲はユキエさんがして、その後細かいアレンジをカンナとキヨが入れる形だが、大抵の曲はユキエさんが作ったバージョンのまま。それほどユキエさんの曲の完成度は高く、周囲の評価も高かった。
だが、世間的に一番目立つのはやはりボーカルのサチだった。
キュートな顔して破壊的な声で歌い上げるサチ。ギターを持たずにステージを広く使うステージングは、【ブロスク】のライブをガールズバンドのそれと思って来た客の度肝を抜いた。
順調に進んでいたバンド活動は、デビューから4年目に入る頃からギクシャクし始める。
単純にいえばバンドリーダーとボーカルの対立である。
ガールズバンドの枠から抜け出したいユキエさんと、ガールズバンドの枠の中でチヤホヤされたいサチ。
難解な歌詞と複雑なプログレッシブな曲調を好むユキエさんと、ポップな曲調に分かりやすい恋愛ソングが歌いたいサチ。
お互いに冷却期間を置きましょうって感じの周囲の大人のアドバイスで、カンナたちのバンドはアルバム制作期間という名の休みに入ったのだ。
そして現在、カンナは久しぶりに実家に帰った。だらけた生活を送ること7日目。カンナはこのままではいけないと実家に出しっ放しの炬燵を仕舞い、その布団を洗うためにコインランドリーに向かったのだった。
綺麗めの部屋着姿のすっぴんで訪れたコインランドリーは、ドラッグストアと冷凍餃子の無人販売店に挟まれていて、洗濯中の時間潰しにも困らない。
ドラッグストアをひと回りして東京の値段と比べたあと、コインランドリーを挟んで逆のとなりの【フラミンゴ餃子】を訪れる。
ガラガラとガラス戸を開けて中へ入ると、中には男の客がひとりブツブツと独り言を言いながら餃子を買い物カゴに入れている。
「そんな事よりも早く買い物を済ませて、誰にも会わずに不審に思われずに帰る事が重要。明日の朝になればこの呪いは一旦解けるんだから、さっさと買い物を済ませるぞ」
カメラの下に設置された計算台の上にカゴを置き、大きすぎる独り言を言う男。遠くから見るとおっさんだが、近付くと意外と若いのかもしれない。
しかし、呪いって何なの?
「呪いって何?」
カンナの声にわかりやすく驚く男。が、この男
「美人……。幸薄系の男運無さげ……。でも酒好きそうで、ガールズバンドならベースだな。間違いない。
って、あぁどうやってこの場を乗り切るかだな。正直に話して頭がちょっとおかしい人って事になれば許してもらえないだろうか。
よく見ると胸デカいな。あぁ彼氏いるんだろうな、バンド仲間のドラムの男と付き合ってたりするのかな。夜のリズム隊なんつって」
などと、普通の人は思っても言わないような失礼なセリフやくだらない妄想が、男の口からとめどなく溢れ出てくる。
カンナは彼の言う【呪い】に思い至った。
こいつの呪いが本当なら、『感情がそのまま口から出てくる』呪いだな、まちがいない……。
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