感情ダダ漏れの呪い状態で異世界行ったり来たり

まりも緑太郎

第1話 細かい設定を詰めてからの異世界転移

 会議室のようだ。


 俺が目を覚まして顔を上げると、"O"の字に並べられたテーブルの直線部分に座っていた。今まで机に突っ伏して寝ていたみたいだ。


 周りを見回すと、俺と同じ並びの机に突っ伏している男1人と女2人。対面側の机には……白いスーツ姿で髪の毛と肌も白い2名ずつ4人の男女。

 ぼんやりと光っているから、たぶん神様か何かなのだろう。


 会議室の大きな窓に見える景色は青い空と白い雲。その風景が早回しで流れている。

 不可思議さが一層増した。


『目が覚めましたか?』


 正面の女神? の声が頭の中に響いたので、俺は会議机に足を打ち付けながら驚いた。

 音は派手だが痛くはない。


「ええ……おはようございます……」


 と俺が答えたせいか、はたまた先程の机に打ち付けた音のせいか、同じ並びの人間3人が目を覚ました。


 3人はキョロキョロしている。

 俺の横の男は、がっしりした体格のサラリーマンで、クールビズの着こなし具合から入社1〜2年目の若手社員に見える。


 その向こうの女2人は、肩までの茶髪セミロングの女子大生と、黒くて重そうな長い髪の部屋着の女。


『私たち……皆さんの世界の動画配信サイトにハマっていまして……』

『ほら勝手に連れてこられた何人かが、残り1人になるまで協力したり殺し合ったりするヤツあるでしょう?……』

『それで気付いたんです』

『私たちなら実際に出来るんじゃない? って』


 神様4人の声が、ひと繋ぎの文章として頭の中に響く。

 突然呼び出されてデスゲームとか神様らしくもないが、俺の認識が神様なのだから神様なのだろう。


『それでラノベ好きが好きそうな、剣と魔法と魔物とモンスターの世界を用意いたしましたので』

『そこに飛んだ皆さんがどのように生きていくのかを』

『ココから観察させていただきたいなぁ』

『などなど思っているわけなんス』


 なるほど、長命の神様からすれば俺ら人間の一生なんて、動画1シリーズと変わらないのかもしれない。


 話を聞いていたもっさり部屋着女子が前のめりになっている。


「あの……みゃ、魔法も使えるようになるんですか?」


 久しぶりに口を開いたらからか、少し噛んだ。

 カワイイ……。


『はい。それについてはこれから説明します』

『皆さんに共通で与えられるのは【健康な体】【異世界言語理解】の2つです』

『それ以外に1つ、お好きな能力を希望してもらって』

『合計3つの能力を持って飛んでもらいまス』


「でも、何で私たちなんですか?」

 とは女子大生である。


『昨日の夜』

『現実世界面倒くせーとか』

『異世界に飛ばされないかなぁ〜とか』

『独り言を言いましたよネ』


 視線を斜め上にして女子大生は顔を赤くしている。

 図星だったか?


「その異世界の異世界具合ってどのくらいですか?」


 部屋着女子がメガネをクィッとあげる。

 異世界具合って何だ?


「確かに気になる。ダンジョンはあるのか? 冒険者ギルドや錬金ギルドはあるのか? 猫耳やエルフたんはいるのか? 美少女奴隷や女騎士はいるのか?」


 がっしりリーマンは鼻息が荒い。

 あんたもそっち側か……?


『私たちが作った設定を申し上げます』

『地球では動植物が死ぬと、地面の下で長い間かけて石油や石炭とか地下資源になります』

『しかし、私たちが作った世界は死んだ動植物は魔石に変わり』

『一定の割合で魔物に変わりまス』


 作った設定ってなんだ?


『そこに暮らす人間、エルフ、魔族、獣人、魚人などなどは』

『普段から魔法を使えて』

『魔石を利用した便利な道具を使えて』

『そこそこ飯も美味いでス』


「私たちは転移なの、それとも転生?」


 とは女子大生。

 あなたも乗り気なのね……。


『転移です』

『今のそのままの姿形で』

『ポンと一瞬で移動して』

『街の近くの草原で目を覚ましまス』


「それは困ります。私、部屋着だし靴さえ履いてません」

「でも、現地の服に変えられたら、俺たちのアイデンティティが無くなるぞ」

「親切で好奇心旺盛な第一異世界人との巡り会いには、そこそこの現代風の服が必要なのよ」


 なんか……みんな乗り気なんだな……。


 横に並ぶ現代人たちがごちゃごちゃと注文をつけている様子を眺めていると、去年まで付き合っていた元カノの安部ましろの事を思い出した。


 俺が新車を買おうとカーディーラーに行った時、俺の横で余計なオプションを付けようと頑張ってたんだよな……。

 買うのは俺なのに。


 正面に座る神様方も何とも言えない表情になっている。

 ラノベオタクの業の深さを舐めてはいけない。


 その後の質問で細かい設定が明らかになっていく。

 ダンジョンの魔物は魔石に変わるが、フィールドの魔物は死体で残る。魔法や魔術は後々追加で覚える方法がある。各種ギルドには加盟者にランクがある。一夫多妻、一妻多夫は有り。他種族との子作りは可能。貞操観念は低い。ミスリルやオリハルコンは少ないが有る。戦争は少ないが、紛争や反政府組織は有る。教会の力が強い国もある。人種差別はもちろんある。ドラゴンはいる。銃は無いがボウガンはある。火薬は無い。


『……申し訳ありません』

『そろそろ決めて』

『いただけ』

『ませんカ』


 質問責めで疲れの見える神様方が音をあげた。


 皆がそれぞれで自分がもらう能力を考え始めた。


 俺はもう決めている。

 いや、たぶんココにいる4人とも、何が欲しいのかずっと前から既に決めていたんだと思う。

 たぶん、決めていた能力で大丈夫なのかどうかの確認なのだ。


 俺は動画サイトのデスゲームものの動画について考えてみる。彼ら神様が見たいデスゲームって、参加者がルールの隙を突いて足掻く様が面白いんだよな。

 だから能力のチョイスの場面で理屈を捏ねれば、たぶん通りそうな気がする。

 なので


「【健康な体】【異世界言語理解】と合わせてあと一つ選べるんだろ? それって順に発表していくのか?」


 今まで黙っていた俺が発言したので、残りの3人が同時にこちらを向く。

 ちょっと血走った目をしている。

 みんな必死なんだな。


「だから、1人ずつ口頭で発表したら、後に発表する人が真似できるから有利なんじゃないか?」


 俺の提案に「確かに」「俺のを真似されたくないな」「たぶん違うでしょうけど嫌よね」と皆が言う。


「だから、【健康な体】【異世界言語理解】と合わせて3つの能力をクイズ番組の書き問題みたいに書かせてくれよ」


 隣の3人も頷く。


『それで一斉にドンというわけですね』

『面白い、それでこそ』

『我々が選んだ4人だ』

『ボードとペンを用意すル』


 手元にペンとホワイトボードが突然現れた。


 さて……、俺の悪あがきは通用するのだろうか。


 



 

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