第2話



……その日、夢を見た。



 幼い頃の夢で、桜の木の下を陸康りくこうの手に引かれて、小さい自分が歩いている夢だった。


 なにかをしきりに陸康に話しかけ、彼は優しく何度も頷いてくれているのだ。

 何を問いかけたのかも、何を答えてもらったのかも、覚えていなかった。


 覚えてはいなかったが、

 目を覚ました時、

 陸康に問いかけたいことが思い浮かんだ。




『陸康どの。

 わたしは貴方の期待に応えられたのでしょうか?』




 龐統ほうとうが、静かにこちらを見下ろす姿が思い浮かんだ。


 感情の見えない表情。


 

 ――龐統。



 星をむあなたは私の死に場所を知っていましたか?


 龐統がどこかをゆっくりと指差す。


 見えない。

 何も見えない。

 暗闇だけで、何も見えない。



(私には見えないんだ、龐統。

 貴方に見えていたものが)



 穏やかに閉じたように見えても、

 この傷は何かの拍子に不意にこうして開いて、熱を帯びた。

 

 これから死ぬまで、きっと永遠に膿み続けるのだろう。



(どうにもならない)



 寄り添い、刻みつけて生きていくしかないのだ。


 何度冷静になれと言い聞かせても、

 静かに受け入れるしかないのだと思い定めても、



(この痛みだけはどうにもならない)




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