司書さんは静かに過ごしたいようです。

東井タカヒロ

始まりの図書館

ここはとある場所にある図書館。

 どの世界にもあり、どの場所にもある図書館。

 様々な外見な図書館で中は全て同じ場所へ繋ぐ図書館。

 外見からは想像出来ないほど大きく、どこまでもある図書館。

 そこの図書館にいる司書と助手の物語。

 助手と二人でいつまでもこの図書館を見守り続ける存在。

 この図書館には全ての本が揃っている。

 上から下へとなんでも揃っている。

 そんな場所で司書とその助手はどのような物語を紡ぎ、解くのだろうか。

 

 僕の名前はミス・カエル。この図書館の司書である先生の助手をしている。

 一番下で本を読んでいるのは、この図書館の管理者であり、司書の零月透さんだ。僕は先生と呼んでいる。

 先生はいつも図書館の一番下で本を読んでいる。この図書館に来る人を先生は待ち続けている。最後に来た人は50年前だろうか。

 ここでは老いることも、死ぬこともない。

 この図書館は念じるだけで読みたい本が手元に来る。読み終われば自動で元の場所へ戻る。

 円形になっていて上を見上げても天井が見えない。先生曰く本が生まれる限り永遠に続くらしい。

 この図書館は念じるだけで様々なことが出来る。浮くことも、瞬間移動でさえ出来る。

「先生も掃除手伝って下さいよ」

 先生はいつも黒い無地の本を読んでいる。タイトルさえ書いてない本だ。

 中身は見たことないが、先生は「開く度話が変わって面白いよ」と言っていた。そんな本があるのだろうか。

 こんな図書館だからあると自分の中で納得させている。僕が前にバトル漫画を読んでいた時聞いたことだ。

「先生は能力とか無いんですか?」

 先生は微笑みながら答えてくれた。

「私にも能力はあるよ」

「え!?何の能力ですか?」

「それはね、秘密」

 と、はぐらかせてしまった。

「助手君、もうすぐ客が来るよ」

「分かりました」

 先生は何故か客の来るタイミングが分かる。正直それが先生の能力だと思う。

 先生は読んでいた本を閉じると、椅子の横にある小さな丸テーブルに置いた。

「その本は戻さないんですか?」

「これはここで良いんだよ」

 そういうもんなのか。すると先生の読みどおり客さんがやってきた。

「ここは図書館であってますか」

 中年の男性だ。

「えぇ合ってますよ」

 先生は丁寧に返す。

「外見とは違い、だいぶ大きいな」

「あなたが読みたい本はなんですか?」

「罪を軽くする本はありませんか」

「罪ですか……」

 先生は少し考えた後、本を取り出した。その本の題名は『大罪人への懺悔』という本だった。ページをピラピラ捲る先生を客は呆然と眺めていた。それもそのはず、上から本が降ってきたからだ。

「罪を軽くするには……人を一人殺して下さい」

「それで罪は軽くなるんですか」

「わかりません。詳しくはこの本を"ここ"で読んで行って下さい。この図書館は持ち出し厳禁なので」

「はぁ、分かりました」

 男は渋々承諾すると座り、先生から渡された本を読み始めた。

 一通り読み終えると男は先生にお礼を言った。

「ありがとうございました」

「解決したなら何よりです」

 男は図書館を後にした。

「先生、あの本はどんな内容なんですか」

「あれは剣と魔法の国の本でね。内容は人によって変わる変容紙が使われている。だから彼が何を読んだかは彼のみぞ知る」

「先生は一人殺すと罪が軽くなるんですか」

「どうやらそうみたいだね、殺して罪が軽くなるなんてね。あの本はよく外れるし、私のは外れだね」

「よく外れるんですか」

「あぁよく外れる。本当によく外れるよ」

 後から知ったことだが、あの本に映し出せる内容は、後悔している内容と別の占いを出すものだった。先生は人を殺さない選択をしたのだろう。それをいつまでも後悔している。

 この時僕はまだ知らなかった。先生がこの後悔をずっと悩み続けているなんて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る