18:ゲームオーバー

 なんとかヤマノケゴブリンを退治し、私達は深層へ向かう。案件だけど、別に行っちゃいけない場所とかはないみたいだから、存分に遊ばせてもらうんだけど......。


『もう少し徘徊者がいても面白そうなんだけど......』


『出すぎても難易度が跳ねあがるだけだ。そこはあいつもわかってて調整してるんだろ......。何考えてるかわからんのは相変わらずだがな』


『名月さんって、どんな人だったの?』


『俺と組んでた時は、映像の専門生でな。とにかく、取れ高とか画角にこだわる変な奴ってイメージだな。ただ、あいつのおかげで俺は大成したともいえる......』


『生駒で行方不明になった時も一緒だったの?』


『ああ。その時は、フユとのコラボでな。一緒に探索してたときに、俺がヘマして崖から落ちたんだっけな......。まあ、名月は俺のこと嫌ってただろうから、探そうともしなかっただろうけどな』


『ナツさんの捜索はニュースになってたから、探してたとは思うけど......。いや、でも何回か打ち切られてたような......』


気づくと、さきほどより天井の広い場所にたどり着いた。そこには一人、倒れている人がいるのに気づいた。


『あれ、もしかしてフユさん!?』


『フユ!』


ナツさんは自分が映ることも忘れて、フユさんの元へ駆けつけた。なんだか、その景色が胸にズキンときた。なに、この胸の痛みは......。



『おい、大丈夫か!? フユ!』


フユさんの呼吸は浅く、腕と足から血が流れている。まず止血しないと......!


『落ち着いて! まず、止血するから』


私はフユさんの傷口を持っていたタオルや、シャツを破いて止血した。その後、回復の指輪でじわじわと治していく。そのおかげか、フユさんの呼吸が安定し始めた。


「わ、わたしは......いいから。に、逃げて!」


『何言ってんだ! おい、フユを運ぶぞ!』


『う、うん!!』


そう言ってフユさんに肩を貸そうとすると、彼女はそれを振りほどき、天井を指さす。


「く、くる!!」


その瞬間、耳をつんざくような衝撃音と共に羽の生えたなにかが降下してきた。もしかして、あれが天狗!! 一瞬の出来事で避けるのが精いっぱいだったけど、あの長い鼻と赤い顔......。間違いない、天狗だ! でも、伝承の形と違う......。なんというか、ハーピーと混じってる?


『なんか、増えてない?』


天狗は初めに襲って来た1匹を皮切りに、5体ほど地上に降りてき始めてこちらを睨みつける。


『おいフユ、あいつらにちょっかい出したわけじゃねえだろうな!?』


「し、知らないわよ! 突然襲われたのよ」


嘘を付いているようには見えない。なら、何が目当てで彼女を襲ったの? いや、今は襲う機会を今か今かと待ち伏せる天狗たちをどうにかしなきゃ......。


『逃げるか?』


『いや、ハーピー型なら逃げれば逃げるほど追いかける。ここは、向こうがこちらに興味を失くすまで待つしか......』


『そんな悠長なこと言ってられっか!』


彼の大声のせいか、天狗たちはバタバタと羽をばたつかせたあと、私達の方へと襲い掛かる。その風圧は、私達を簡単に浮かすほどで、壁まで押しやられてしまう。


『ぐはぁ!!』


「みんな!」


『あいつら、近づいてくるぞ!』


天狗の風圧に負けず、私は手を伸ばそうとするも、その腕を天狗は鋭い爪を持つ足で掴む。


「つばっちゃん!」


フユさんは私に襲い掛かる天狗に対して、炎の魔法で吹き飛ばしていった。

その火炎の熱気を吸って、少し息苦しいけど助かった。


『あ、ありがとう!』


私はフユさんたちに襲い掛かろうとしていた天狗たちを鞭で追いはらった。3人で立ち向かわないと、手ごわい相手だ。大丈夫、3人なら無敵! なんとかなる! いや、なんとかしてみせる!


『3人で力を合わせないと、ここでリタイアになっちゃうよ!』


「そうね......。目的はわからないけど、討伐すればこっちのもんよね。ドーナツ、あんた、身体鈍ってないでしょうね!?」


『誰に言ってんだ! やってやる!』


そう言うと、ナツさんは剣を取り出して、独りでに天狗2体に立ち向かう。1人じゃ無理だって、言ったばかりなのに! 私はナツさんを追いかけて風の魔法の指輪を付けて天狗を追い払っていく。ただ、彼らは風属性に耐性があるようで、風で打ち消してしまう。私は雷の指輪に取り換えて、天高く飛ぶ天狗に雷を振り下ろしていく。


『3人いれば、無敵ってね!』


:うしろ、うしろ!

:これ、やばくね?


『あぶない!』


横から地面スレスレを滑空する天狗に気付いていなかった私を、ナツさんが庇いその翼についた鋭い爪で腹部をえぐられていた。天狗はその感触に笑みを浮かべてナツさんを天高く吹き飛ばす。


『ナツさん!!』


「ナツ!!」


:うわ

:グロ

:配信止まりそう


私が浮遊の魔法で、ナツさんを取り戻そうとするもそれも天狗は読んでいたようだ。天狗は私の背後を取り、足で背中を蹴ってきた。その痛みでナツさんに届くことができず、地面に落ちる。一瞬意識が飛び、黒く歪んだ。だが、次の瞬きにむくりと起きていた。私、もしかして一回死んだの? そうだ、ナツさん! あ、あそこで倒れてる......!


『ナツさん!』


私は彼の元に駆け寄る。同時に重度の傷を負ったフユさんも合流した。


「大丈夫だったのね。あなたは、この人と帰還して。今なら彼を復活できる。どうやら、ここじゃリスポーンは効かないみたい......」


『やっぱり......。じゃあ、なんとかしないとですね』


「あんた、何言って? ここは夏也と」


『大丈夫、これまで何とかなったんだから。今日もなんとかなるっしょ!』


だけど、現実は無常で。私が彼女に笑顔を向けた途端に天狗が私を襲おうとしていたようだ。それを、フユさんが防御してくれていた。いつの間にか、フユさんが血まみれになっていた。防御魔法が間に合わなかったみたいだ。

なんともならない......。 なんともなってないじゃないか......!

これ以上の失態はできない。私は3人を囲い、強制帰還用のブローチに手を置いた。瞬間、私達を光が囲んだ。

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