第3話

スペースジャーニーは馬房中で小さな茶色いうさぎたちが残していったメモを厩務員の星青年読みあげてもらっていた。

「私たちを呼ぶときは森の妖精さんをやってね。方法は」ふむふむとジャーニーはメモの内容通りに紙を用意して、愛読しているオカルト月刊誌を参考にしてひらがなの50音と「はい」と「いいえ」と木の絵を描うと口にペンを咥えた。

(馬の俺には辛い)

そう独りごちながらディクタスアイと呼ばれる怖い三白眼になりつつ苦心して書いた。

そして星青年に頼み「森のシチュー屋さん」ととれたてのきのこを使って鍋にホカホカのシチューを用意すると木の絵の位置でカレー用スプーンを咥え「森の妖精さん来てください」と唱えると、茶色い小さなうさぎたちが部屋の中に現れた。

「お招きありがとうジャーニーちゃん。スピリチュアルの才能あるね」

スピリチュアルというワードにジャーニーはきゅんと愛らしい目になった。

ジャーニーはうさぎ達にシチューをふるまうとうさぎ達は持ってきたバスケットから焼きたてのこおばしい香りのするパンを出した。

「ちょうど焼いていたの。バターもたっぷりよ」

ジャーニーは「しまった。パンを忘れてたな」と言って笑った。

「このクルミの入ったパンは美味しいな」ジャーニーは嬉しそうに言い「後で少しケッティにもあげていいかい?」とおずおずとうさぎ達に聞いた。

うさぎ達は「えーっ?ケッティがいるの?珍しい」「会いたい」と馬とロバのあいのこであるケッティに会いたがった。

(好奇心の強いうさぎ達はケッティに興味を持ったぞ。これでケッティもうさぎに会えて喜ぶな)

ジャーニーは母親と離れて山の上の温泉旅館のそばで暮らす寂しがり屋のケッティを思った。


そのころジャーニーの腹違いの弟であるフェスタは馬房で日課である占いをしていた。

フェスタはおもむろに寝藁にゴロゴロと転がりパッと起き上がり全身を振ると頭の上に一本だけ藁が残った。

その一本に精神を集中すると藁はアンテナのようにピンと立って山の方を指した。

「これはまずいぞ」

遥か上空から頭の上の藁を通じてジャーニーが虎に襲われるシーンが流れ込んでくる。

「わかった。宇宙の仲間たち、まかせろ」

フェスタは引退後はすっかり穏やかになったと言われていたが、駆けていく後ろ姿は迫力があった。


ジャーニーのいる部屋の外に山の方角から蝶が飛んでくると人目がないのを見計らって旅館の着物姿の女将の姿になった。

「ジャーニーさん、あれ?」

ジャーニーと行き違いになった女将は星青年に

「最近、山で猛獣を見かけたらしいから気をつけて」と注意を呼び掛けた。

フェスタが駆けてきて話を耳に挟むと「ジャーニーを見てくる」と言って霧積山に向かった。

「さすが世界と戦っただけはあるわ」

フェスタの迫力ある走り去る姿を女将はあっけにとられて見ていたが、星青年は「乗せてくれ!」と叫んでいた。


ジャーニーははしゃぐうさぎ達を背に乗せ山道を上がっていた。

長い山道をうさぎ達を落とさないようにスピードをゆるめて走っていたが、崖のそばに来るとふいにただならぬ視線を感じて立ち止まった。

藪の中から光る眼がのぞき姿を現すと白い虎の姿が現れた。

「チビ馬とうさぎ達か。ごちそうだな」

白い虎はジャーニーに襲い掛かると格闘になった。

ジャーニーはケガをしないようにうさぎ達を振り落とすと後足で立ち上がり応戦するがじりじりと崖に追い詰められてゆく。

うさぎ達は涙目になったままガタガタと震えて動けない。

「ジャニキを離せ!!」

そこにフェスタが土塊を巻き上げて駆けつけると白虎にすさまじい蹴りを入れた。

「フェスタやめろ」

ジャーニーは言おうとしたが、白虎は崖から落ちていった。ジャーニーとかみ合ったままで。

ヒヒーンというジャーニーの鋭いいななきとともに崖をぶつかりながら落ちていく大きな音がした。

「ジャーニーちゃーん」

うさぎ達は崖を駆け降りると大けがをしたジャーニーに半泣きになりながら取り出した小瓶の中味を振りかけていた。


「それでそんな姿になったわけ?」

山の中の温泉宿の洗い場でお湯をかけて洗ってもらいながら、ジャーニーは一息ついていた。

フェスタはどこに行ったのか姿が見えない。

「だってこうなると思わなかったんだよ」

ジャーニーの下半身から声がした。

「お前は話すな」

ジャーニーはそう言っフサフサの白い毛が生えた下半身を噛んで「痛たっ」と言って顔をしかめた。

同時に白い虎になった下半身も「痛てっ。噛むなよ」と言った。

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ジャーニーとかわいいチャーミングちゃん @sphynx

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