第5話 推したちと打ち合わせ⁉
「……っ」
今、Neo‐Flashと撮影してる? 私が喋ったら、Neo‐Flashも喋ってくれるの?なにそれ、スゴイ……! バックンバックンする心臓を必死になだめていると、お姉ちゃんがメモ用紙でカンペを出す。
【挨拶して!】
そんな無茶ブリ言われても!
パニックになりながら、頭の中にあるNeo‐Flashのメンバーの情報を思い出す。。
①リーダーの、ヤタカ。
基本的に冷静で、なんでもツッコんでくれる、頼りになるお兄さん。
少し釣り目(なイラスト)で、ぶっきらぼうな言葉遣いとは裏腹な優しい性格が人気だよ。メンバーカラーは赤色。イラストの髪の毛も、赤色だよ。
②縁の下の力持ち、ノア
よくお喋りする分、会話を繋いだり、次の人にバトンパスするタイミングが上手なの。黒髪に、切れ長の瞳(なイラスト)が印象的な爽やか系の顔。クールな見た目から想像つかないお喋りっていうギャップが人気だよ。メンバーカラーは青色。
③天然&あざとい担当、リムチ―。
天然な発言で、よく笑いをとっている可愛い系男子。よくヤタカにツッコミをいれられているよ。たれ目で、おっとりした(イラストの)雰囲気。たまに計算しつくした、あざとい一面も女子に人気だよ。メンバーカラーは黄色。イラストの髪の毛も、黄色だよ。
④元気&癒し担当、ステラ。
言われて初めて気づいたけど、確かにステラのイラストってお姉ちゃんに似てる。大きな瞳に、茶色のロングヘア――似てるっていうか、そのまんまだ! ヤタカとツッコミに回ることもあれば、リムチ―と一緒にボケることもある。臨機応変に立ち位置を変える賢い系女子って人気だよ。メンバーカラーはピンク。
――って! 私はお姉ちゃんみたいに賢くないから、絶対にボロがでるよ!
ムリだよ、って両手を振っても、お姉ちゃんは「Goサイン」を出してくる。うぅ……秒でバレても、知らないからね!
「こ、こ、こここ、こんばんは!………………あ、あれ?」
数秒待つも、シーンとしていて……。もしかして音声が途切れてる? 安心するやら、気が抜けるやら。ふぅ、と安堵の息を吐いていたら――
≪……っぷ≫
≪ぷぷ≫
「ん?」
聞こえてくるのは、押し殺した笑い声。待って、さっきの声ってヤタカとリムチー⁉
≪あっはっは!聞いたかよ、リムチ―!〝こんばんは〟だってよ!≫
≪聞いたよ、聞いた!え、ステラであってる?違う人を招待しちゃった?≫
「え、あ、ぅ……!」
これが、生・Neo‐Flash!! 声を聞くだけでも心臓が激しく動いて、会話なんて出来たもんじゃない。パクパクと、金魚のように口を動かす私の背中に、パシンと!お姉ちゃんが喝を入れる。
【〝なんちゃってー〟って言って!】
「んな⁉、ん、ちゃってー……!」
すると、今まで静かだったノアが一言。
≪ステラ大丈夫? 調子悪いんじゃないの?≫
スピーカーから聞こえてくる落ち着いた声に、私の耳が反応する。この声、どこかで聞いたことあるような……。今日の放課後もNeo‐Flashの動画を見ていたから、そう思うのは当たり前か。聞いたことがあるっていうか、聞いたばかりだ!
「だ、だだだ、大丈夫、だよッ」
≪……そっか。ならいいけど≫
ノアの、フッて笑った声が聞こえる。わぁ……ノアだ。本物のノアだ! 動画の時とは違う、落ち着いたトーン。ゆっくりした喋り方。なんか、すごく安心する。
すると、トントンと肩を叩かれる。そして、お姉ちゃんからカンペを渡される。
【今日って何を撮るんだっけ?】
「きょ、今日って何を撮るんだっけ?」
一言一句、間違えないように発言する。するとヤタカが「あ?」と、やや不機嫌な声色で返事をした。
≪今日は撮影じゃなくて打ち合わせって言っただろ。来週に控えたゴールデンウイークで、Neo‐Flashでお泊り合宿するって言っただろ?≫
「へ? お、お泊り合宿?」
え、聞き間違い? でも今、完全に「お泊り合宿」って言ったよね?……って。お泊り合宿ー⁉ バッと、勢い良くお姉ちゃんを見ると、もぬけの殻。えぇ!? こんな状態で私を置いて、どこか行っちゃったの!?
さては、はめたな~!
生まれた時からの付き合いだから、お姉ちゃんの考えてることは、手に取るように分かる。お姉ちゃんはお泊り合宿が嫌だから、その間だけ私に代役を任せたんだ!
≪電車で一時間くらいの、リゾートだっけ~?≫
≪リゾートっていうかコテージ? 親戚の別荘を借りることができた≫
≪へぇ、テンション上がりそう。楽しみだね≫
クスクスと、ノアの笑い声が聞こえる。ずっと聞いていたい笑い声……じゃなくて! 私も何か発言しないと!
「えっと、ごめん。それって、何日の話……だっけ?」
ステラの言い方を真似して……。あぁ~、感情も頭も、全部が忙しい!
≪ステラ、マジで何も聞いてねーじゃん。この前ちょろっと話したろ。5月3日~5日の2泊3日だぞ≫
≪もちろん予定あけてるよね~?≫
≪学校も何もないし、私用がない限りは大丈夫だと思うけど≫
その後に「そういやテストが近いな」とか「テスト明けいつだっけ?」とか。学校の話題へ移る。テスト期間って、学校によって違うよね? でも、三人とも違和感なく話してるってことは……
「え、もしかして皆、同じ学校?」
≪は?≫
≪ちょいちょーい。もう半年の付き合いだよー?今さらすぎるって~≫
「え? えぇ?」
私が一人ワタワタしていると、ノアが口を開く。
≪ステラも含め、四人同じ学校だよ。改まってどうしたの?≫
えぇ~!?
知らなかった! 私、今までNeo‐Flashの皆と同じ学校に通っていたの!? 毎日通ってる学校に、Neo‐Flashがいるの!? うそ、信じられないー!
四人とも面識があるのか、「この前ヤタカみたよ」等と会話が弾んでいる。も、もしかして私も会ったことあるのかな!? 会ったことなくても、すれ違ってるとか!
……ハッ!また一人の世界に入ってた!
ステラを演じないとヤバい!と思った時は、どうやら合宿の話に戻っていたらしい。しかも話をよく聞くと、パソコンを通して顔を見たことはあるけど、実際に会うのは全員、合宿が初めてなんだとか。
≪まぁ四人揃って行動しても目立つと思うし、現地集合でいいか≫
≪なんだかんだ、イラストと似てるもんね~俺ら≫
≪異議なし。ステラは?≫
「い、異議、なし!」
ノアに話を振られ、急いで口を合わせる。……でも、ちょっと待って。異議なしって言ったけど……。合宿ってことは、男子三人女子一人のメンバーでお泊りするってこと!?
異議、ありまくりです……!
もちろん大声で言えることじゃないので、心の中に閉まっておいた。その後――合宿で何をするかとか、誰が何の撮影機材を持って行くかを話し合って、お開きになった。画面右上にヤタカ、リムチ―の順で「退出しました」とメッセージが届く。
だけど、ノアだけはいつまで経っても退出しなくて……。私は私で退出の仕方が分からないから身動きできず、二人きりになってしまう。えっと……何か話した方がいい? でも、二人きりで話とか出来ないよ。だって相手は推しだよ!?むりむり、無理だって!
すると「ステラ」と、ノアの声。
≪右下に〝退出ボタン〟があるから押してね≫
「ありがとう、どうすればいいか分からなかったから助か……あ」
いや、Neo‐Flashのステラともあろう人が「どうすればいいか分からなかった」はないよね。危ない……身バレだめ、絶対!
「わ、わかってるよー。ちょっと考え事してたら、退出するの忘れてて。でも、ありがとうね。そろそろ出ようかな」
≪……ねぇステラ。もしかして〝あの事〟で悩んでる?≫
「え?」
あの事? って、どの事? なんて答えればいいか分からなくて固まっていると、ノアは「いいや」と。笑った声が、かすかに響く。
≪また話そう。おやすみ、ステラ≫
「お、おやすみ」
右上に「ノアが退出しました」とメッセージが出る。ルームに一人きりになり、やっと息をすることが出来た。
「ハ~。バレてない……よね?」
気付けば、全身汗だく。お化粧もしちゃったし、もう一度お風呂に入らないと。自室に戻って、新しい下着を用意する。その時ノアの声が、もう一度、頭を流れた。
『もしかして、あの事で悩んでる?』
あの事って、なんだろう。お姉ちゃん、何か悩みがあるのかな? もしそうなら……お姉ちゃんの悩み事を、どうしてノアは知ってるんだろう? 他の二人は、お姉ちゃんを気遣う素振りとか全然なかったし。もしやお姉ちゃんが〝ノアだけ〟に相談した?
「……いや、何を必死に考えてるんだか。やめやめ」
頭をコツンと叩き、正気に戻る。そして姿を消したお姉ちゃんに「終わったよ」と、大量の汗マークの絵文字と共に、業務終了メッセージを送った。
次の日。「推しの打ち合わせに同席した」事実に、興奮してなかなか寝られなかった私は……寝不足でフラフラする足に力を入れながら、教室に到着した。
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