ワタシが後輩女子を好きになるなんて?!全ては距離感バグった戸塚美沙のせい。
茉莉鵶
序章
第001話 後輩女子との出会いは珈琲店
三年前、四月────
ワタシの両親が若い頃、自宅の近所にある珈琲店によく通っていたようだ。現在では近所すぎるが故に、プリンやパウンドケーキをテイクアウトするだけになっている。まぁ、そんな話を聞いて育ったワタシこと
それは、正月に貰ったお年玉と、毎月貰えるお小遣いをやり繰りし、ワタシも珈琲店“コルサージュ”へと定期的に通って、常連になるという事をだった。
──ガチャッ…
──ギィィィィッ…
──カランカランッ…
「いらっしゃいませ。お姉さん、ご両親とご一緒に来られたのかな?」
その日、大胆にもワタシは中学から珈琲店へ直行してしまった。だから、制服姿に学校のカバンを背負った姿だった。
まぁ、普通に考えれば、大人な感じで趣のある内観な珈琲店に、どう見ても中学生な外見のワタシが入店すれば、遅れて両親も来ると思うだろう。
「いえ。ワタシ、一人で来ました…。」
「折角、お姉さんは一人で来てくれたのに…。それも気付けない、ダメなオジサンでゴメンね…?」
この時、ワタシの応対してくれたのが、珈琲店“コルサージュ”の店主の稲葉さんだった。この店の常連の若い女性たちからは、愛称を込めて『オジサン』と呼ばれており、店主自らもオジサンと言う程だった。
後に分かったことだが、この頃オジサンの年齢はまだ四十だったらしい。
「いいえ?お兄さんは悪くないので…。謝らないで下さいっ!!」
「お姉さん、優しいんだね?じゃあ…よければ、カウンター席へどうぞ?カバンは僕の方で預かるので。」
「あ。はい!!」
まさか、応対してくれているのが、このお店の店主さんだとは夢にも思わなかったワタシは、優しいお兄さんだなと思っていた。なので、言われるがままカバンをオジサンに手渡したワタシは、その勢いのままカウンター席に腰掛けた。
──ギシッ…ガタンッ…
「僕の名前は、
「て、店主さんなんですか?!し、失礼しました!!」
「いやいや、畏まらないでください。僕は…皆んなから、独身オジサンとか、オジサンって呼ばれてます。お姉さん、これも何かの縁です。今後とも宜しくお願いします。」
「お…お姉さんなんてぇ…。恥ずかしいので、やめて下さいよぉ…。わ、ワタシの名前は、莉央と言います…。中学三年生です。今日から…ワタシ、お…オジサンのお店に通います!!なので、莉央って呼んでください!!宜しくお願いします!!」
──パチパチパチパチパチパチパチパチ…
ワタシからのオジサンへの自己紹介を終えた。すると、この時カウンター席にいた初老の男性と、若い女性が、突然拍手を始めたのだ。
「こんな可愛い莉央ちゃんが、この店通ってくれるなんて…本当、マスターは幸せ者だよなー?」
「うん、そうだよー!!良かったねー?オジサン!!」
「おいおい…。皆んなで、僕を茶化すんじゃないぞ?それに、莉央ちゃんに失礼だろ!!」
この二人は常連さんで、大体決まった曜日の午後に来店して、カウンター席に座ることが多かった。だから、平気でオジサンのことをいじり始めるのだ。
─―パチンッ!!
「あ!そうだ、莉央ちゃん?何頼むかは、もう決まってる?」
「はい!!『大カップ』でお願いします。」
「お?『大カップ』なんて言葉…莉央ちゃん、よく知ってるね?」
──ゴトッ…!!
常連のお姉さんから注文を促されるように、ワタシは両親の話ではよく聞いていた『大カップ』を注文した。するとオジサンは驚いた表情を浮かべながら、すかさずワタシに質問をしてきたのだ。
しかし、その間もオジサンは手を止めず、カウンター内にある作業台の上へ琺瑯製の白色のドリップポットを置いた。
「このお店がオープンした頃、両親が『よく通っていた』と言っており…。普段、何を頼んでいたかも聞いてまして…。」
「なるほどね…?オープンした頃、通って下さってた方たちが…。今は、莉央ちゃんのご両親になってるのか…。でも、あの頃よく来てた常連さんって…藤村さんたちとか…。」
──カチンッ…!!
輪っか状になった器具にネルフィルターが付いたものを、オジサンは先程のドリップポットに乗せるように張りながら、ワタシの名字を口にした時は、正直驚いた。確かに、両親はオープン当初からの常連だと言っていたが、オジサンの口から一番に出てくる程だとは、思わなかった。
「あ…はい!!」
「おいおい、なんだよ…。莉央ちゃんって…藤村さんちの娘さんなのかよ…?!ここ最近は、旦那さんの方が…テイクアウトしに来てくれてる程度だけどさ…?」
「実は、このお店の近くに…住んでるんです。だからかもしれません。」
「マジで!?前は、確か…バスで通って来てくれてたけどな?」
──ズザッ…コンッ…
──ズザッ…コンコンッ!!
多分、バスで両親が通ってた頃は、結婚したばかりだったから、家賃を抑えるため二キロ程離れた場所だったと聞いている。
オジサンはワタシの言葉に驚きながらも、コーヒー粉が入ったキャニスターの蓋を開け、木製の計量スプーンを使ってコーヒー粉を二杯、ネルへと盛っていた。
これが、三年前のワタシが珈琲店“コルサージュ”デビューをした、一部始終の記憶の話だ。
──ジョボッ…ジョボッ…ジョボボッ…ジョボボッ…
「あ!!そう言えば、入り口の方に座ってるあの子、中学生だった気がするよ?確か…塾の時間まで、この店に居させて頂けませんかって、お母さんから頼まれててさ?」
実はこの話には続きがあって、オジサンがコーヒー粉の盛られたネルに、電気ドリップケトルからお湯を注いで蒸らし始めた時だった。急に、オジサンが思い出したかのように、ワタシに向かって、入り口の方を指さして紹介し始めたのだ。
「えっ…?!あ、本当だ…!!」
「え…?あ、はい…。私は、
──ガタッ…ギッ…
後ろを振り返ると、そこには可愛らしい女の子が、椅子にちょこんと腰掛け座っているのが見えた。
でも、制服のカラーの部分が、ワタシの中学とはパターンが違っていた。だから、他学区だと言うことがすぐに分かったが、隣接する中学のパターンでもなかった。
「改めまして、藤村莉央です。美沙ちゃん、宜しくね?」
「あ…。わざわざすみません…。えっと、
──ギュッ…
初対面なのに、離れた席同士で挨拶するのはちょっと失礼かなと思ったワタシは、美沙の座っているテーブル席まで歩いて行った。そして、自己紹介をした後、二人で握手をしたのだ。
これが、ワタシと他校だけど後輩女子である戸塚美沙との出会いだった。
因みに、この頃のワタシ自身というと、骨格ストレートで背が百六十五センチ程あった。そして、髪型はミディアムヘアの前髪はサイドバングで、ブルベ肌のエレガントタイプな顔立ちの為、男子は勿論のこと女子からも人気があった。だから、一応彼氏はいた。まだ、中学三年だったし、手を繋ぐ程度の関係だったけど。
ついでに、美沙についていうと、背は百四十センチ程度で幼く、髪型はツインテールの前髪ぱっつんで、ブルベ肌のキュートタイプな顔立ちだったのをよく覚えている。聞けば、進学校で有名な県立賎宮高校に、美沙の母親が進学させたいようで、オジサンの店の近くにある進学塾へと、中学入学後から通うようになったらしかった。
今振り返ってみると、この頃のことがとても懐かしく感じられた。
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