第二十七話 VS超級妖(2) 変わってしまった
「何故雹牙の落ちこぼれに助けを求めなければならんのだ!落ちこぼれは落ちこぼれらしく引っ込ませておけ!」
「どうせすべてあの火の鳥の力であろう!どうせならそちらを譲渡させる方が良いであろう!」
「まったくだ!我々土倉家の面汚しだ!」
土倉家邸宅にて、『土倉家代表』を名乗る3人の老人と和葉、琥珀、月夜は超級妖の対策会議をする…はずだった。
(ごちゃごちゃごちゃごちゃ…うるさいったらありゃしない。なんの生産性もないクソみたいな老害共と話に来たわけではないんだが)
3人の老人は月夜のことが気に食わないと騒ぎに騒ぎ、現状は地獄絵図だった。対策に関しての話も一切進まない。
「迷惑かけてすまない、月夜殿…」
「大丈夫だ。俺の助ける気がどんどんなくなっていくだけだからな」
和葉が失態を晒し続ける老人達に冷めた視線を送りながら、月夜に謝罪するが、月夜はそれを軽く流し、この状況が続くのであれば救援を諦めると暗に伝える。それに和葉と琥珀は苦々しい表情をし、目を合わせる。このやり取りの最中にも騒ぎ回る老人達を見て、覚悟を決めたように頷き合った。
「月夜殿、報酬はいくらでも支払う。土倉家を…助けてはくれないだろうか?」
「ぬ!?琥珀よ!貴様何勝手なことを言っておる!独断で決めることは許されぬぞ!」
「お主らこそ何を言っているんだ?土倉家は現在、所属する半数以上の陰陽師が死んだり負傷している状況だろうが。その状況で助けを求められる相手がいるのに求めないなど…馬鹿なのか?」
「なんだと…!貴様!この私を愚弄するか!」
「心の底から思ったことを言ったに過ぎん。それに、月夜殿の実力を目の当たりにした上で落ちこぼれなどどいう言葉が出るはずもない…まさか、前線に出ていない訳ではあるまいな?」
「そんなのは雑兵の仕事であろう!優秀な実力者こそ後方にいるものだ!」
「琥珀さん。もういいです。そこの老害共が無能であることはわかったので。現当主殿を連れて来い。話はそれからだ」
月夜の物言いに、老人達3人は一斉に怒り出した。
「貴様!落ちこぼれの分際で私に楯突くと言うのか!」
「その通り、落ちこぼれは口を出すな!」
「火の鳥に頼ってるだけの小童が粋がるな!」
老人達の聞くに耐えない言葉に、月夜はため息を吐くと、鋭い眼光を向けて霊力の一部を解放して威圧することで黙らせる。
「ぎゃーぎゃー騒いでる暇があったら一回でも前線に出たらどうだ?強い奴ほど前線に出るべきだと思うのは俺だけか?」
「何、を…」
「確かに強者が1対1で勝てない敵に対して雑兵を送って少しでも消耗させるという作戦もあるだろう…だが、今回ばかりは話が違う」
月夜は苛立ったような態度で言葉を繋いでいく。
「『王は龍に届かぬ』。今は亡きとある皇帝の言葉だ。簡単に言えば、圧倒的個に対して多少数を揃えた程度の雑兵が敵うわけがないということだ。これを言った本人は時間稼ぎのために圧倒的個に突撃して行ったがな」
「っ、ぬぅ…落ちこぼれが…何が言いたい!」
まだ噛みついてくる老人に対し、月夜はまだわからないのかと言わんばかりにやれやれといった態度を取ると、面倒くさそうに言葉を繋ぐ。
「低脳な老害共にもわかるよう、わかりやすく教えてやるよ。お前らに実力があるのならば、我が身可愛さに安全地帯に引き篭もり、陰陽師達の命を無駄にした大戦犯だ。さらにはこの危機的状況で助けを求める相手がいるのに前線に出てないせいでその相手の実力がわからない、その上先入観に囚われて一方的に搾取だけしようとする。それも雹牙家次男に対してな。家同士の問題に発展するぞ、このことはな」
「クソガキが…私達を馬鹿にするのも大概にしろ!」
「琥珀さん、事前に言ってた通りにやりますよ?いいですね?」
「構わん。私も許可している」
「力を示せ…フェル」
土倉家邸宅に入るに当たって召喚を解除していたフェルを顕現させる。通常時のサイズで出したため、当然のように天井を突き破り、その大きな翼を広げてその穴を大きくする。
「さて…誰が俺の式神を欲してるんだ?」
「ひっ!し、式神だと!?ふざけるのも大概にしろ!」
老人3人はそれを見てそれぞれ行動を取った。1人は腰を抜かして怯え、1人は逃走しようとし、1人は迎撃体制を取った。そして月夜が狙った通り、迎撃しようとした老人から一瞬黒い靄が見えた。
「…見つけた。セラ!拘束!」
「《
最小サイズで月夜の服の中に隠していたセラが飛び出し、黒い靄が見えた老人を光の輪で拘束する。その瞬間、老人の身体から黒い靄が飛び出し、空気に溶けるようにして消滅した。
「チッ、逃がしたか」
「…祓魔師」
「だろうな」
琥珀がポツリと名を呼んだ祓魔師。推定凪勿陣営であり、未だに目的が見えてこない組織。こちらからの連絡は通っておらず、そのことから何かしらの敵対行動であると想定されている組織だ。祓魔師の使う術は陰陽術とは異なって特殊なものが多く、先ほど見たような一時的に意識を乗っ取る術含め、命や魂といった部分に深く関わる術が多く存在する。反面、物理的な影響を与える術は苦手としており、あっても威力は陰陽術と比べたら雲泥の差があることだろう。
「…今はそれどころじゃないってのが面倒なところだな。琥珀さん、どうやら御当主殿はおらぬ御様子。土倉家の指揮、その代理として判断してよいか?」
「…ああ、構わぬ。あの妖について、月夜殿の御意見をお聞かせ願ってもよいか?」
琥珀は月夜の言葉の意味を察し、それに合わせた。シナリオはこうだ。呼んだにも関わらず、現当主が来なかった。だから琥珀を当主代理とし、超級妖に対処すべくその対策を詰めていた、と。老人は2人は気絶してるし、1人は尻尾巻いて逃げ出している。老人達が起きるのを待ってから当主を呼びに行くのも時間の無駄であるため、勝手に話を進めることにしたのだ。
「推定だが、前に見たことがあるタイプと同じと見た」
「ほう、詳しくお聞かせ願えますかな?」
「勿論。例えるならば、あの妖は"蝶"だ」
「蝶…とな?」
「ええ。異様に速度が遅く、それでいながら周囲の存在を手当たり次第攻撃する、『幼虫』としての形態。そして現在…硬い装甲に身を包み、空へと羽ばたくための力を貯める、『蛹』としての形態。最後…これから訪れるであろう、災厄の姿。完全なる力を得て、天級に近しい最上の超級の姿として相応しい姿…文字通り、世を自分のものにしてしまうほど力を持つであろう、『成体』、"蝶"としての形態。おそらくですが、今『蛹』に手を出せば『成体』と成るのが却って早まるだけ…あまり残されていない僅かな時間で、準備を整えるべきかと」
「そう、か。了解した。具体的には何を?土倉の陰陽師を肉壁にせよとは言うまいな?」
「超級妖の影響で活性化している妖共を抑えていただきたく」
「…まさか、それだけとでも?」
「ええ、俺はそう言いました」
「倒せるのか?」
「その点についてはご心配なく。
「…?詮索はしないでおこう。我々では援護することはおそらく叶わぬ。それでも良いのか?」
「問題ありません。おまかせを」
月夜は自身に満ち溢れた獰猛な笑みを琥珀に向ける。フェルとセラの召喚を解除し、腰に透華を携え、歩いて部屋を出る。その足取りは、3年前の虚勢を張っていた頃の弱々しいものとは比べものにならないほど強く、猛々しいものだった。
月夜が退室した後、琥珀は1人で呟く。
「変わった、か。いい意味で、成長したのだな。虚勢を張り、のんとか己を強く見せようとしてた小僧であっても、変われるものなのだな」
琥珀は覚悟を決め、立ち上がって歩き出す。向かう先はただ1つ。その場所へ、確かに地を踏みしめて行くのだった。
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