第22章 「月の下の影と受け継がれた罪」
午後6時10分。
夜が深い青のヴェールで空を包み込んでいた。街灯が静かにまたたき、まるで動かないホタルのようだった。涼しい風が商店街の路地を吹き抜ける。
アケミはポケットに手を入れて歩いていた。アリサは少し後ろからついてきて、腕を軽く揺らしていた。
「タクシーに乗る?」と彼が聞いた。
「ううん。歩きたいの。今夜はきれいだし…もう少し一緒にいたいから。」
彼は横目で彼女を見た。ドレスにローヒールを履いているにもかかわらず、アリサは軽やかに歩いていた。まるで優雅さが彼女にとって当たり前のように。
「…これが全部本当だったら…?いや、ダメだ。惑わされるな。バカになるな。」
二人は黙って数ブロック歩いた。そして彼女が静けさを破った。
「ねぇ…誰にも話したことないこと、言ってもいい?」
彼は横目で見た。
「誘惑の手段じゃなければ。」
「今回は違うよ。」
「なら、どうぞ。」
彼女は息を吸い込んだ。まるで心の奥底に長くしまっていた何かを出すように。
「失恋クラブ…私が作ったんじゃないの。」
アケミは一瞬立ち止まった。
「え?」
「お姉ちゃんだよ。6歳年上。彼女が創設者だったの。彼女のあだ名は“10人の彼氏の女王”。どの彼氏も3日も持たなかった。学校中がその話で持ちきりだった。」
「…それ、ちょっと異常だな。」
「うん、そうかも。でもね、同時に魅力的だった。誰もが彼女に注目して、誰もが彼女を好きになった。先生でさえ、彼女に見つめられると緊張してた。私は彼女に憧れてた。そして、憎んでた。」
アケミは再び歩き始めた。
「それで…その道を継ぐことにしたのか?」
「彼女に頼まれたの。卒業前に言われたんだ。“このクラブを続けて。もっと大きくして。伝統にして。男たちに教えてやるの、女の子の気持ちをもてあそぶとどうなるかって…。だって私たちだって、遊べるんだから。”」
「恋の復讐、ってわけか。」
「そんな感じ。でももっと洗練された形で。最初は5人だった。今はネットワークに22人以上。どんどん増えてる。楽しむためにやる子もいれば、プライドのための子もいる。そして私は…期待に応えるため。」
アケミは顔をしかめた。
「じゃあ、これも全部…君の興味も…その遺産の一部ってことか?」
彼女は彼を見つめた。風が彼女のポニーテールを揺らし、はちみつ色の瞳が珍しく正直な光を放っていた。
「最初はね。」
彼は返事をしなかった。
「でも、あなたと出会って…型にハマらなかった。笑顔にも、スタイルにも、駆け引きにも反応しない。無視されたの。…それが、私のルールを壊した。」
アケミはじっと見つめた。
「今はどうなんだ?」
彼女は彼の前で立ち止まった。
「今は…遊びなしで、あなたに何かを感じさせたいって思ってる。」
沈黙が二人を包んだ。風と遠くの交通の音だけが響いていた。
「もし感じなかったら、どうする?」と彼が聞いた。
「そのときは、ちゃんと負けを認める。そして去る。でも、もし…私を脅威じゃなくて、違う存在として見てくれたら…そのときは教えて。嘘なしで、仮面もなしで。」
アケミは目を伏せた。心臓は激しく打っていたが、顔には出ていなかった。
「…なんで今の言葉、こんなに正直に感じるんだろう?」
「もう少しだけ、一緒にいてくれる?」と彼女が言った。「この夜が終わるまで、あなたといたい。」
彼はうなずいた。
そして、二人は歩き続けた。異なる影が、同じ月の下で交差していく。
一方は、冷たく慎重に。
もう一方は、情熱的で挑戦的に。
その距離は、少しずつ…確実に近づいていた。
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