第15章:「ゲームの核心」
夜が訪れていた。
町の外れ、木々と丘の間に、少し古びた建物がひっそりと佇んでいる。看板も窓もないその場所は、今では「失恋クラブ」の本部として生まれ変わっていた。
中に入ると、高級感のあるソファ、大型モニター、芸術的な絵画が並ぶ。
そしてその奥、大きなホールの中心には、柔らかな照明に照らされた円卓が一つ置かれていた。
そこへ、一人、また一人と少女たちが現れる。
学年も、雰囲気も、話し方も、香水の香りも違う。
だが、全員が美しく。
全員が危険で。
そして、全員がここに集まる理由は一つ——
「男の心を弄び、壊すことをゲームとして楽しむため」。
その中心にすでに立っていたのはアリサだった。
金髪、グラマラスな体つき、黒のドレスがその魅力を際立たせていた。
蜂蜜色の瞳が冷たく光る。
「遅いわね」と、誰にも目を合わせずに言った。
「フィールドレポートで忙しかったのよ」とリカが笑いながら言った。「温室でね」
周りの何人かがリカを冷たい視線で見た。
「聞いたわよ」と3年B組の一人が小声で言った。「あいつに許可なく仕掛けたんでしょ?」
リカは肩をすくめて、まるで気にしていない様子だった。
「彼、一人だったのよ。体は熱くて、心は迷ってる。あの状況で我慢する方が無理ってもんよ」
アリサはゆっくりと立ち上がった。
円卓を一歩一歩、静かに、しかし緊張感を孕んだ足取りで回り始めた。
「戦術委員会の承認なしに勝手な行動をしたってこと?」
「アリサ、毎回あなたの許可待ってたら、誰かに先を越されちゃうわよ」
「たとえば……ユメのこと?」
その名前が出た瞬間、空気が凍った。
「彼女はもうクラブの一員じゃない」と別の少女が眉をひそめた。「追放者よ」
「裏切り者」と別の声が重なる。「一番のルールを破った——恋に落ちた」
アリサはリカの背後で立ち止まった。
「でも、その彼女が……あんたより先に明輝(アケミ)と接触したのよね?」
リカは唇を噛み、爪でテーブルをトントンと叩いた。
「ちょっと自撮りに夢中になってただけよ。もう同じミスはしない」
アリサは彼女の耳元にそっと囁くように言った。
「リカ、あなたはこの勝負を堂々と受けた。彼を落とせなければ……クラブでの地位、すべて失うことになる。覚えてる?」
「ええ、よく覚えてるわ」リカは不敵に微笑んだ。「でも大丈夫。あと2、3回接触できれば十分よ。
あの真面目でナイーブな子、簡単に落ちるわ」
周囲の少女たちが息を呑む。
「ミウはどうするの?」1年A組の少女が声を上げる。「彼女が最初に接触したわよね?」
皆の視線が部屋の隅に集まる。
脚を組み、イチゴを舐めながらふざけた笑みを浮かべるミウ。
「私はちゃんと役目を果たしたわ。家に連れて行って、じらして、ギリギリまで追い詰めて……で、逃がしてあげた。
教師より自制心ある男なんて、久しぶりに見たかも」
アリサは深く息を吐くと、円卓の中央へ戻った。
「ここまでで、誰一人として彼の心を折ることができていない。そして今、ゲームに参加していない裏切り者が……彼に接近している」
「彼女は本気で恋愛しないって言ってたけど、ウソかしら?」
「いいえ。本気だと思う。だからこそ危険なのよ」
沈黙が満ちる。
アリサは続ける。
「アケミは普通の男子じゃない。彼は欲望にも、同情にも動かされない。
彼が反応するのは——論理と、恐れよ。
だからこそ、彼を攻略する意味がある」
「それで? 次の作戦は?」リカが問う。
「新しいルールを作るわ」アリサの声が一段と強くなる。「今日から、アケミとの接触はすべて報告義務。勝手な行動は禁止」
「もし偶然二人きりになったら?」誰かが悪戯っぽく言う。
「そのときは……クラブから除名よ」
少女は小さく震えた。
「ユメのことは?」
アリサはホールの奥にあるタッチスクリーンに近づき、何度か画面を操作する。
そこには、温室で明輝と話すユメの姿が映し出された。
「監視対象にするわ」
「彼女を排除するつもり?」
アリサは首を傾けて微笑む。
「必要ないわ。ああいう子は、勝手に壊れていく。痛いところを突くだけで十分」
彼女の瞳が鋭く輝いた。
「アケミは逃げられない。そして、落ちるときは——私の腕の中よ。リーダーの座は、誰にも渡さない」
沈黙。
その中で、ただ一人——リカだけが、意味深な笑みを浮かべていた。
「ふふ……見せてもらおうじゃない」
照明が落ち、部屋は再び静寂に包まれる。
会議は終わった。
そしてこのゲームは——新たなステージへと進んだ。
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