第14章:「間違った花」
アケミはまだ温室にいた。
一人で。
その木製のベンチに座りながら、まるで自分の脳みそが錆びついていくようだった。
「まずはパンツを脱がされそうになって…次はセラピストみたいに話しかけられて…今度は何だ? 発情期の修道女かよ?」
彼はため息をつき、背もたれにもたれかかった。
「ユメ…彼女は違った。触れてこなかった。無理強いもしなかった。いやらしいことも言わなかった…それなのに、俺は完全にやられた。なぜだ…なぜそれが、太ももを触られるよりも怖いんだ?」
その時、温室のドアがギイと音を立てて開いた。
アケミは反射的に体を起こした。
「ユメか?」
入ってきたのは確かに女の子のシルエットだった。
だが、何かがおかしい。
太ももまでのハイソックスにローファー。
短すぎるスカート。まるで校則を嘲笑っているかのようだ。
ボタンをほとんど留めていないブラウス。想像力を刺激しすぎる。
制服の上着は、羽織っているだけで留められていない。
栗色の巻き髪。
そして、まるでカミソリのように鋭い視線。
「やっほ〜。これが例の温室ね」
その声は甘かったが、どこか危ういリズムがあった。
アケミは二度まばたきをした。
「ユメ…?」
その少女は鼻で笑った。
「ユメ? やだ〜、あの文学少女みたいなヒソヒソ声の子と一緒にしないでよ」
彼女は遠慮なく歩み寄り、ベンチに腰かけた。
近い。
いや、近すぎる。
「リカよ。特別ターゲットクラスの許可が下りたばかり。
で、その特別なターゲットって…あなたのこと」
アケミはごくりと唾を飲んだ。
「やばい、こいつ…S級の殺し屋だ」
「クラブって…あんたも、あの…?」
「うん、そのクラブ。だけど他の子たちとは違う。
私は時間なんてムダにしない。見て、感じて、動く。それだけ。
それでね…アケミ、あなたが気になるの」
「いつから?」
「廊下であなたを見かけたとき、私の胸を一度も見なかった。
それが変だったの。興味が湧いた。私は変な子が好きなのよ」
アケミは、まるでビロードをまとった蛇を見るような目で彼女を見た。
「…俺がその気じゃなかったら?」
「恥ずかしがらないで」
彼女は微笑みながら身を乗り出した。
「私はお願いしに来たんじゃない。遊びに来たの。
あなたが乗らなくてもいい。でも、後悔するわよ?」
その長くてきれいに飾られた指先が、彼の膝にそっと触れた。
アケミは身体をこわばらせた。
「また触られた…俺の顔に『性感帯』って書いてあるのか?」
「普通なら3日で男に飽きるけど…あなたは違う。
ちょっとは私に手こずらせてくれそうで、面白いの」
「俺は、何もしてほしくない」
アケミはきっぱりと言ったが、その背筋は棒のように硬直していた。
「知ってる。だからこそ燃えるのよ」
彼女はさらに近づいた。
アケミは動けなかった。
顔が数センチの距離。
ブラウスの開いた部分からは…いや、見えすぎだ。
「ねえ、どれだけの男子がこのポジションを羨むと思う?」
「俺は…今すぐ逃げたいぐらいだ」
リカは笑った。豪快に、満足げに。
「大好き、ほんとに。
『逃げたいけど逃げ方がわからない』って顔、最高に可愛い」
彼女はすっと立ち上がった。
「じゃあね、アケミ。あなたは何もしなくていい。
全部、私がやるから」
そして、出ていく前に肩越しに振り返った。
まるで低予算エロドラマの女優みたいに、でもハイランクの自信をまとっていた。
「次、ここで会うときは…もっと脱いでるかも♡」
*ガチャッ*
扉が閉まった。
アケミはまた一人になった。
また一輪、毒のある花が庭に咲いたのだ。
「俺って…トロフィー? おもちゃ? 変な性癖の対象?
このままじゃ、気づいたら腎臓抜かれてる未来が見えるぞ…」
顔を手で覆った。
「くそっ…まだ増えるのかよ…」
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