34. 計算とひよ
それから数日間、俺たちは朝から森へ出かける。
道中で掛け算を口に出して暗謡することも忘れない。
森ではマークにも薬草採取をさせる。
その際、毎回、虫眼鏡を見ながら(鑑定)と心の中で言わせることを徹底した。
そして、何と、5日のうちにマークは掛け算の50の段まですべて暗記してしまった。
夜の訓練の時に50の段まで言い終わったマークは、やった!という達成感を露わにしながら、シャツのボタンを脱いだ。
「頑張ったね。」
ハンナが笑顔でマークを誉め、頭を撫でるる。
そしてマークとハンナで、両方とも上半身裸でマナピンポンを始める。 5日目ともなると、連続でラリーができるようになってくる。
ラリーが長くなれば、長く抱き合っていられる。
そう理解しているマークの技術は急速に向上している。
ラリーが10回続く。これはすごい進歩だ。
「よし、今日はここまで。」俺は言う。
マークは残念そうに離れる。
「あの…明日からは?」マークが聞いてくる。
「都度設定するよ。。明日は午前は草取だしな。」
俺はそう言ってにやりと笑う。
翌日は、アダムさんの畑だ。
もう更地はなくなり、いろいろな作物が伸び始めている。
だがハンナには問題ない。複数の種類が生えていても、分別して草取りができるようになっているからだ。
俺はマークに言う。
「マーク。ギンガと走って来い。体力づくりだ。 ナイフを忘れるなよ。」
マークは泣きそうになりながらうなずく。
(ギンガ、彼が追いつけるペースで走ってやってくれ。」
(うん、いいよ~。)
ギンガは走り出し、マークが慌てて後を追う。
(アレン、角なしがいるよ~)
ギンガの念話が来る。
角なしとは、普通のウサギのことだ。森にいるウサギは角があるホーンラビットだが、畑の近くにいるウサギには角はない。
(マークの前に追いだして。)
(うん、わかった~)
遠くでギンガのウォン!という声が聞こえる。
ウサギをマークの前に追い出したのだろう。
ウォンウォン!(さあ、仕留めて!)
そんな声が聞こえる
それから十数分して、マークが戻ってきた。
手には血だらけ、傷だらけのウサギを持っている。
マークも傷だらけ、血だらけだ。
「おお、マーク、狩れたな!。偉いぞ。冒険者には狩りがつきものだ。初物だな、よかったな。」俺はマークをほめる。
ただ、(こいつは本当に冒険者に向いてないな。)とマークを見て思う。角なしでさえ苦戦し傷を作るような状況じゃ、ゴブリンどころかスライムだって倒せるか怪しい。
「じゃあ、今夜…」
言いかけたところで俺はマークの話を無視して、アダムさのほうへ行く。
「アダムさん、終わったよ。」
ハンナが例によって倒れながらも仕事を終わっている。
「おお、そうか。今日も早いね!ありがとう。」
今日はギルドの指名依頼なので、サインをもらう。
「アダムさん、養鶏している人、知ってたら紹介してもらえますか?」
俺はアダムさんに聞く。
「おお、いるぞ。ジョージというのが門の近くの小屋で養鶏しとる。
アダムの知り合いだって言えば、用事を手伝てくれるじゃろう。
あ、あいつの所に行くなら、これを持っていってくれ。」
アダムさんはそう言って、トマトやピーマンなどが載っているかごを渡してくれた。
ハンナが手掛けた畑はすごく成長がよく、まだ5月なのに多くの野菜が収穫できたと言う
「ありがとうアダムさん。じゃあ、午後に行ってくる。」
俺はそう言って、二人と一匹を連れて近所の川原へ行き、例によってウサギを焼く。
今日はピーマンとナスも一緒に焼いた。
「この野菜、おいしいね。」ハンナが言う。
「たぶん、お前の魔力が影響していると思うぞ。」俺は言う。
「そうかなあ…」ハンナは懐疑的だ。
俺はマークに言う。
「マーク。おあずけ!」俺はナスとピーマンとニンジンとウサギ肉を並べる。「一つずづ(鑑定)と言いながら虫眼鏡で見ろ。一列やったら、また最初の物に戻って同じことをやれ。」
これで50回繰り返せ。ちゃんとやらないと、肉を全部食っちまうぞ。ただ、一回でも(鑑定)と念じなければ50回やり直しだからな。」
マークはうなずいて、きっちり野菜を見始めた。真面目なところは評価できる。
ハンナもそうだが、単純な作業に見えても文句を言わずにきっちりとやる、というのは長所だな。
食べ終わると、俺たちは野菜を持って養鶏をしているジョージさんのところへ行く。
「ジョージさん、俺は冒険者のアレンです。アダムさんから届ものです。」
そう言って野菜を渡すと、ジョージさんは喜んでくれた。
「ジョージさん、養鶏してるなら、ひよこがいませんか?」俺は聞いてみる。
「おお、ここ数日で生まれたのが沢山いるぞ。これから仕分けだ。」
「あの、よろしければ我々にお手伝いさせてもらえませんか?見分けかたを教えてもらえば、こっちでやります。」
「それはありがたいが、難しいぞ。」ジョージさんはちょっとためらう。
「大丈夫です。こいつが虫眼鏡を持ってますから、大きくすればわかるでしょう。
彼に見分け方を教えてください。」
「…そうか?じゃあ、こっちへおいで。」:ジョージさんは俺たちを小屋に連れて行った。
そこには、数百のひよこがピーピ-鳴いている。
ジョージさんはひよこをひょいと掴んで、マークに見せる。マークは虫眼鏡でじっくり見る。
「ここが、こうやって出っ張ってるのがオスだ。それで、ここが引っ込んでるのがメスだ。見えるかい?」
「はい、見えます。」
「じゃあこれはどっちだ?」
「…オスです、」
「そうだな。じゃあ、メスを探してみる。」
マークは何羽かひよこを掴み、その中から一羽を見せた。」
「そうだ。よし、じゃあ頼む。:」
俺は、ちょっとまごまごしているマークに言う。
「オスとメスを分けるんだ。オスはこっちの箱、メスはこっちの箱な。当然、見るときには心で(鑑定)って言いながら分けろよ。」
「わ…わかりました。」
マークはそう言って、ひよこの分類を始める。
それから俺は、ハンナにジョージさんの小さめな畑の草取りをさせる。取った草は干してニワトリの餌にするのだ。
マークの途中経過を見ると、意外に早く終わりそうだった。
そこで俺は、「マーク、ちょっと待て」と言って、仕分けたオスの箱の中から半分をメスの箱に入れ、残りを未分類の箱にぶちまけた。
呆然とするマークに俺は言う。
「このまま終われば練習不足になる。やり直せよ。」
マークは涙目でヒヨコをもう一度元の箱に戻し、分類を始めた。
「鑑定、って心の中で言うのを忘れるなよ。:俺は付け加えた・
マークは無言でうなずき、すごいスピードで仕分けを始めた。
夕方になり、マークの分類が終わった。
俺がジョージさんに終わったことを伝えるとジョージさんはちょっと疑いの目でひよこの箱を見て、中からそれぞれ10回ひよこを取り出し、正しいことを確認した。
「おお、これはありがたい。ちゃんとしてるじゃないか。」
「いいんですよ。アダムさんに頼まれたお使いのついでですから。」
俺が言うと、
「そうかい。ありがとう。じゃあ、これを土産として持って行ってくれ。」
そう言ってジョージさんは、鳥肉と卵をくれた。
俺たちは礼を言い、持ち帰る。
人のいないところで、ギンガに氷を出してもらい、卵と肉を保冷する。
その晩もマークにはマナピンポンをハンナとさせた。
マークはとても嬉しそうだった。
翌日からは、マークに計算問題をさせることにした。
4桁の数字を5つ足す足し算とかだ。
一日中これを宿の部屋でやらせたら、音をあげて、「外に一緒に行きたい。」と懇願された。
仕方ないので、翌日からは採集にも連れていくことにした。
ちなみに、お詫びの印にハンナとマナピンピンをさせた。
マークのどんな不満でもこれ一発で解消だから簡単だよな。
なお、計算はゆっくりでいいから、絶対に間違えないように三回繰り返す、ということを叩きこんだ。
そして、横でハンナにも同じことをやらせる。
ハンナの答えとマークの答えが合っているかどうかで検算するのだ。
「ハンナ、もしお前が間違えるようなら、パーティ解消も考えるからな。」
そう言ったら、マークとハンナの解答はすべて一致したのは言うまでもない。
毎日のルーティンがこんな感じになった。
朝、森までは掛け算の暗謡をし、ハンナが上薬草を採取しているとはマークも草を分類して虫眼鏡で見ている。
昼飯のあとは二人で計算の練習。
午後は狩りだったりアダムさんの草取、あるいはジョージさんのひよこ分類を続けt。
寝る前に、マークはいつもハンナとマナピンポンを続けることができた。
マークが部屋に戻った後、ハンナは俺のシャツのボタンをはずし、俺ともう一度マナピンポンをする。
最後に、こっそり部屋に入れている薬草に魔力を注ぎ、そのままベッドに倒れこむ。
こんな生活を続けて数週間。俺はひさびさにマークと二人でぐるぐるをやる。
そのときマークのステータスを確認した俺は、ピングリー商会のイーデンさんにアポイントを取った。
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