(第二部) 31.気弱な
第二部 マーク編
31.気弱な少年
朝飯を食い終わると、皆から注目を集めている美少女ハンナを従えて受付まで行った。
いつものように、リンが座っているカウンターに行く。
「おはよう、リン。今日でギルドの部屋はチェックアウトだ。」
普段の調子で俺はリンに話しかける。
「そんなことより、一体ハンナはどうなっちゃったの?大変身じゃない。」
リンが興味津々に聞いてくる。
「あー、これはな。ハンナが、正式に俺のクランメンバーになることが決まったので、お祝いに、腕によりをかけて美しく変身させてやったんだ。美少女になttろう。
ハンナがうなずく。
リンがすかさず言う。
「私にもやってよ。」
俺は首を横に振る。
「いや、無理だ。お前はクランメンバーじゃないし、今のところ、事務作業が得意なやつはメンバーとしては後回しだ。メンバー以外にはやらないよ。」
「いいじゃない、それぐらい。今までだって面倒みてあげてるじゃない。」
リンは食い下がる。
「いや、そんな安易にやるもんじゃないしな。前に言ったように、3年後になって、俺たちの関係が変わったら、考えてやってもいいぞ。」
「…考えとくわ。」
リンは不服そうに言う。
「とにかく、チェックアウトね。荷物はもう出したの?」
「いやこれから出してくるよ。」
「できたら、ちゃんと掃除して、シーツとか畳んでおいてくれると助かるわ。」
「その点は問題ないさ。ハンナはそういうところきちんとしてるからな。」
俺が答えると、
「あんたはどうなのよ? 雑用をハンナにだけ押し付けちゃだめよ。」
リンガ言う。
「まぁ、それなりにな(笑)。それより、今日は天賦の才の儀式だろ。あぶれそうなやつが来たか?}
俺は期待をもって聞く。
「今のところ1人いるわね。あそこにいる、ちょっとおどおどした感じの男の子よ。」
リンガ教えてくれる。
「なんだ、男かよ。」
俺はがっかりする。
「なにその態度。むしろ男の方が大変だと思うわよ。女の子はいざとなったら、何とかする場所があるでしょ?」
「まぁそれも人によるんだけどな。こいつが娼館なんかへ行って、他の女と競争して客を確保できると思うか?」
俺はハンナを指さしながら言う。ハンナは下を向く。
「…まぁいいわ。あの子、とりあえず声かけてあげてよ。」
俺は、ハンナを連れて、その少年のところへ行った。
背が小さく、体も細い。態度もおどおどしているし、あまり冒険者に向いているとは思えない。童顔で茶髪だ。
俺はとりあえず彼に声をかけた。
「よう、今日、冒険者登録したのかい?身の振り方は決まったのか?」
その男の子は、おどおどしながら答える。
「いえ、まだなんです。お願いはしてるんですけど。」
「お前って本当に冒険者志望なのか?あまり向いてそうにないんだが。」
俺が言うと、彼がちょっと悔しそうに答え
「僕は、本当は商家が希望なんです。いろいろ計算したり、仕入れをしたり在庫勘定をしたり、そういうことをやっていきたいと思っていました。」
「…そうなのか。いろいろありそうだな。俺はアレンだ。君は?」
「マークです。」
「冒険者志望なら、俺のパーティに仮に入れてやってもいいが、スキル次第だな。何だった?」
「…む…(ぼそっ」
「聞こえないぞ。」何だい?」
「…虫眼鏡です。」
「は?」
「虫眼鏡です。虫眼鏡を出して、大きくして見ることができるスキルです。」
「…なるほど。で、儀式の時に誰からも声がかからなかったわけだな」
「…はい。なので、まずは冒険者になって日銭を稼ぎながら、商家にあたりをつけていこうと思ったんです。でも、冒険者も声を掛けてくれません。」
「そうだったんだな。」俺は高速で頭を回転させる。 虫眼鏡か…大きくするだけだな。
でも…
「マーク、夕方まで努力してみろ。それでもダメなら、俺のパーティで2か月鍛えてやる。、ま、その後は自分で独り立ちする前提だけどな。」
「ありがとう!」
マークは明らかにほっとしている。
「ただし、条件がある。」
「何でしょうか。」
「紙に、『本日スキルを得ました。商家志望の孤児です。」って書け。
それを持って商業ギフトで立ってろ。
誰かが声を掛けてくるはずだ。来なければ、ある程度年齢が上の人のところに行って、お願いしてみろ。」
「え…でも、儀式の場所では何人かに断られたよ。」
「そんなもの、気にするな。お前の人生がかかってる。で、断られた相手の名前と商家の名前を聞いて、書き留めろ。」
「え?断った人のこと何かどうでもいいんじゃないんですか?」
「いや、お前がちゃんと話しかけたかどうかの確認だよ。真面目にやらないやつをパーティに入れるつもりはないからな。」
「…わかりました。今日ギフトを得たっていう紙を書いて、商業ギルドに行ってきます。」
マークは出かけて行った。
俺とハンナはギルドの部屋を片付けてチェックアウトする。
「アレン、どこに泊まるの?」
リンが聞いてくる。
「予定通り、銀の月亭だよ。ま、ギルドにはよく来るから。寂しければ泊まりに来いよ。」
俺は笑って言う。
「何言ってるのよ。あんたにはハンナがいるでしょ。」
「お前が泊まりにくるなら、ハンナは一晩追い出すよ。」
「ホント、相変わらずクズね。」
「照れるなあ。そんなに誉めるなよ。」
俺たちは予定通り「銀の月亭」に着く。
一か月二人と一匹分の宿賃を前払いし、部屋に入る。
ギフトの部屋よりも大きい。ベッドが部屋の両端に置かれている。
「ベッドが遠いですね。」ハンナはなぜか残念そうだった。
俺は昨日の究極魔法で消耗しているので、朝から寝ることにした。ギンガは残念そうだが、付き合って寝ることにしたようだ。
「私も休んでます。」ハンナが言う。
なぜかもじもじと俺を見てくる。
「どうした。」
「あの、私のファーストキ…」
「言ったろ。昨夜のは治療みたいなもんだし、何があってもノーカンだ。忘れろ。」
「…はい。」
ハンナは寂しそうにベッドに入るが、やはり疲れていたのだろう。すぐに眠ってしまった。
俺も眠っていたようで、気づいたら夕方だった。
俺、ハンナ、ギンガはギルドに行く。
きょろきょろしていたマークが俺たちを見つけ、駆け寄ってくる。
「どうだった?雇ってもらえそうか?」
「…いえ。だめでした。みんなスキルを聞くと、無理だって言って去ってしまうんです。」
「断った人たちのリストは作ったか。」俺は確認する。
「はい、これです。」 マークはリストを見せる。25人か。 意外に根性あったな、こいつは。
「マーク。」俺は呼びかける。
「はい!」
「お前を、俺たちのパーティの仮メンバーとする。
最長2か月、スキルを含め鍛えてやるよ。」
「あ、ありがとうございます。」
俺はマークをまっすぐ見ながら言う。
「見習い期間には、とりあえず衣食住は保証してやる。小遣いはなしで稼いだ分
は全部パーティのものだ。それでいいか? ちなみに、基本的に2か月で卒業だ。だから毎日時間を無駄にするな。 できるか?」
「…大丈夫です。」マークはきっぱり答える。 なぜか、朝よりたくましく感じる。
「よし、じゃあこれから歓迎の飯だ。あと、宿は『銀の月亭』で他の冒険者たちと泊まれ。宿代は出してやるから。ギルドより高い宿だからな。」
「はい、ありがとうございます。」
俺は受付のリンに、マークをパーティに入れて鍛えること、銀の月亭に泊まらせることを伝える。
「しっかり鍛えてあげてね。生きていけるように。」リンが言う。
「任せとけ。」俺は答える。
こうして、マークがパーティに仮に加わった。
*************************************************
おかげさまで第二部開始です。
男なので短めになる予定です(笑)。
数日後との交信予定です。
今後もご愛顧のほどお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます