第33話 レッツメイクケンジャノサンド ②
こんにちは。私はエミリア・ベーカー。見習い錬金術師です。
「そういえば、アマリさんて賢者のパンに何を願うつもりなんでしょうか……」
「知らん」
根本的な疑問を抱いてしまい、気になって気になってパンしか喉を通りません。
答えに最も近そうなジーン先生に尋ねてみるも、残念すぎる短い答えが返ってきました。
「すごく困ってることとか、昔からの目標とか、複雑な因縁とか、ご存知ないですか?」
「知らん」
知らんらしいです。
「心に深い傷を負った暗い過去とか、どうしても手に入れたい物があるとかは?」
「知らん」
知らんのかい。
「誕生日は? 座右の銘は? 猫派? 犬派?」
「ひとつも知らん」
逆に何なら知ってるの?
「あの、何のために幼馴染やってるんですか?」
「知らんものは知らん」
「少しは聞きましょうよ」
師を敬う目の光が私から完全に消えていると、不満げに「あいつは秘密主義なんだ」とジーン先生が溜息をつきました。
「言いたくないことは聞いても躱される。嘘は下手だが隠し事は上手い。何かを隠してることしか知らん」
困りましたね。
試作のビッグメロンパンを口に放り込みながら、ふと思いついた疑問を投げかけてみます。
「じゃあジーン先生だったら賢者のパンに何をお願いしますか?」
「俺が? そうだな……」
多少はヒントになるかもしれません。思案するジーン先生にも脳で糖分を消費するぶんのパンを勧めます。
「……なんか、代償もなく願い事叶えるとか怖いから、作ったのを無かったことにしてほしい、だな」
「なんて夢のない小心者」
大人になると忘れてしまうのでしょうか、夢のある話のこと。それとも元々の性格の問題なのでしょうか。
「そう言うお前はどうなんだ」
「うーん、パンで世界征服とかですかね。んー、でも、自力でやりたいからなぁ……」
「さらりとトチ狂った願望を言うな」
言われてみるとたしかに、考えるのは難しいかもしれません。
「じゃあジーン先生は作りたいとは思わないんですね、賢者の石」
「いや、伝説の魔道具として好奇心で見てみたい作ってみたい気持ちはあるが……。使うのは怖い」
「あ、アマリさんもそれとか?」
仮説その一が出来上がりました。
***
続いて、街角インタビューの時間に参りましょう。
先程の特殊事例でなく、普通の皆様の発想を参考にさせていただきましょう。
そこのあなた、もし賢者のパンが手に入り願い事が叶うなら何を願いますか?
「ん? 俺? えー、俺なら……」
一人目、ジャスくん。
「エマっちのハートをください♡ かな?」
「嘘くさい縁結びの観光スポットレベルのショボいお願い事のために使うんですか? 伝説の魔道具を?」
「くぅ〜、これこれ!」
何やら一人満足していました。
続いて二人目。
「ワクワクドキドキ胸いっぱいの冒険がしたいでヤンスね。でも、自力で叶えるでヤンスよ」
「そういうかんじになりますよね」
第一王子ライアン殿下、とても親しみやすいご回答。
続いて三人目。
「衣装の力で世界中の皆を幸せに! かしらぁ。でも、自力で叶えたいわねぇ」
「そうなりますよね」
裁縫師ベラさんも、同様のご回答。
続いて四人目。
「第二王子リオット殿下の素晴らしさを全人類に分からせる、ですねぇ。フフフ、無論、そんな胡散臭い石に頼らずとも自力で成し遂げますがねぇ」
「そうですか、頑張ってください」
腹黒さん。お名前なんでしたっけ? ガルシアさんとかだっけ?
続いて五人目。
『魔道具で世界征服だね! まあ自力で成し遂げつつあるがね!』
「つつあるんだ……」
ジーン先生の師匠、シェリーさん。魔法のお手紙でご回答。
「結局、見当もつきませんね」
***
帰宅して、ジーン先生に報告します。
「サンプリングバイアスがかかりそうな奴しか出てきてないんだが」
「こうなったら、こうするしかありません」
そうして続いてのご提案。作戦を紙に書き、広げて見せます。
「乙女の秘密を聞き出すならこれ! 次回、レッツパジャマパーティー作戦です!!」
様々な立場として日々に疲れるアマリさん、お腹いっぱいのパンを食べさせて、お湯に浸からせて、ふわふわの毛布で包んだら、イチコロで本音を聞き出せる、はずなのです。
「やりたいだけだろ」
そうです。
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