第28話 レッツメイクヤツギリサンド ④
こんにちは。私はエミリア・ベーカー。見習い錬金術師です。
「もう! もう! 色々言って結局人のデートの邪魔するなんて、最悪だと思いませんか!?」
結局ジャスくんと共に広場に取り残されてしまいましたが、ただいま怒り爆発中。もうしばらくお待ちください。
「八つ当たりで俺八つ裂きする?」
荒ぶる私を見て、ジャスくんは今か今かととばっちりを期待しています。
ご提案いただいたので試作中のパンを取り出します。
「八つ切り八つ裂きパンならありますけど……」
「あんの!?」
「翠玉魔石パン(失敗)です。風の刃の魔法を放つパンなんですけど……」
こんなこともあろうかとご用意しておきましたレシピをご紹介しましょう。
まずは研磨の大爪、風船花、エメラ鉱石を混ぜ合わせて翠玉魔石を作ります。翠玉魔石にエン麦粉、ケンタウロミルク、黄金卵を入れたら、強化バター、焼きクリームを加えて、よくかき混ぜて呪文を唱えて完成です。
「ただ失敗して威力が低くて、服だけ八つ裂きにしちゃうんですよね。こんなの使い所がなくて」
「マ!? そんなん男から需要ありまくりじゃね!?」
正しい使い所が来てよかった。ジャスくんに翠玉魔石パンをあーんしてあげます。
しっかり効果発現。
「なんて辱め! 最高か!?」
ジャスくんの周囲に風が吹き、小さな風の刃がその服を引き裂きます。
「まさかのダメージパンツ加工! ダサダサでもうお婿に行けねえ!」
そう、良い感じにズボンのみをお洒落に使い古したかんじにしてくれるんですよね。
「なんで普段の行動が恥ずかしくなくてそれが恥ずかしいんですか……」
謎に恥じらい頬を染めてぎゅうっと自らの体を抱きしめるジャスくんですが、破れていない上半身を隠してもしょうがないでしょうに。
「恥じぃ……。てか普通に服見に行かん?」
「そうですね。結局あんまりお金使ってませんし、せっかくだからお高いお洋服買っちゃいましょう」
妙な流れで次の行き先が決まりました。
大通りの地図を確認し、凄腕有名裁縫師が居ると評判の高級洋裁店『ベラロマンス』へと向かいます。
「てか言ってなかったけどさ、今日の服めっちゃ可愛くね? 白ワンピゆめかわで超シャレオツ!」
「むう……。褒めてもパンしか出ませんよ」
「めっっっちゃ出るじゃん?」
なかなか気の利くお褒めの言葉をいただけたので、特別にただただ美味しいおすすめパンをいくつか分けてあげます。さっきの不埒な発言は見逃してあげましょう。
さて、お店の扉を開けると、そこに見覚えのあるお方が居ました。
「あらぁ、エマちゃんじゃないのぉ」
「あ! イザベラさん!?」
イザベラさんは舞踏会の時にドレスをくれた不思議系お姉さんです。人にお洒落な服や可愛い服を作って着せるのが好きという、裁縫師が天職のようなお方。
「この前はありがとうねぇ。あらぁ、なあにぃ、今日はデートぉ?」
「さっきまでそうだったんですけどね」
「ナイス俺ノーカウント」
「よく分からないけどサービスしちゃうわよぉ」
大変スタイルがよろしく美人で、恋多き女性なのでしょう。恋バナに興味津々。嬉しそうに店内をご案内してくださいます。
そうしていくつかのお洋服を眺めていると、ジャスくんが急にすんと真剣な表情になります。
「ガチ防具屋じゃん? ちょい俺は真面目に性能で選んで良い? 気絶魔法ガード欲しい」
「あらぁ、あなた分かる人ねぇ」
どういうことかと問えば、イザベラさんが作るお洋服は強い魔法をかけた特殊な魔法布から作られていて、防具として使うことができるとか。
たしかに、『なんとかのシャツ』みたいな防具ってありますね。
ジャスくんは吟味して『精神のタンク』『剣豪の開襟』『防速のスキニー』をご購入。
「本当に真面目なチョイスですね?」
かなり意外でした。効果は合計で防御+75、魔法防御+100、俊敏性+50、気絶魔法ガードです。服としての組み合わせもなかなかのセンスです。
「エマっち、ここにお好みで『呪われた指輪』を装備すると効果が反転。加算されていた防御力や魔法防御力がマイナスになってマジパネエ」
「防御−75、魔法防御−100、俊敏性−50、好感度−50、気絶できると良いですね」
安定していますね。続いて私のお買い物タイムに移ります。
「あ、このロングスカート可愛い!」
「良いじゃん? 落ち着いてっけどエマっちの可愛い系トップスに合うね?」
「こっちのブラウス、襟や袖口に刺繍が入っていて綺麗です!」
「さりげなさがポイント的な? シンプル優雅じゃんね?」
「これもこれも可愛い! どれが一番私に似合いそうですか?」
「エマっちはどれも似合うって」
「もう、褒めてもパンしか出ませんってば! もっと褒めて!」
「めっっっちゃパン出てくるけど鞄が異空間と繋がってる系?」
おかしい、ここに来てちょっと今日一番デートらしくなってきました。こんな予定ではなかったのですが。まあ良しとしましょう。
「ううん……」
ぱっと見た目で気になった服ばかりを選ぼうとしていましたが、一応説明書きの性能を読みつつ選んでみます。
「よし! これに決めました!」
最後に手元に残したのは『春風のブラウス』『精霊のフレア』『錬金術師の帽子』です。防御+30、魔法防御+50、俊敏性+50、万能耐性、素材採取数上昇です。
「ナイスチョイスじゃん!」
「えへへぇ」
「うふふ、仲良しさんねぇ。楽しんで選んでもらえて嬉しかったわぁ。また来てちょうだいよぉ」
たくさん割引をしていただき、良いお買い物をしました。
「そういえばエマちゃんって錬金術師なのよねぇ、魔法布の調合してきてくれたらぁ、もおっとおまけしちゃう」
「え!? 良いんですか!? 調合の仕方調べなきゃ……パンのドレスも夢じゃない……?」
イザベラさんもにっこにこです。
「ねえねえエマちゃん、今度アマリも引っ張ってでも連れて来てよぉ」
「あ、今日も本当はその予定だったんですよ」
そうでした。本来今日はアマリさんとデートの予定でした。アマリさんとのお洋服買いデートを脳内でふわふわと想像してみます。
何故でしょう、脳内に出現させたアマリさんは、こういうお店を見ただけでそっと後ろへ下がって行き逃げ出してしまいました。
どうしてそんな? 怖くないですよ? 逃げないで? どうしてそんなにお綺麗なお顔で素敵なのにそんなに妙に変なところで陰気なの? キラキラしたもの、怖くない!
戦闘終了。獲得経験値ゼロ。
「……ダメかも」
今日のこの良いお買い物の時間はジャスくんのおかげかもしれません。ジーン先生はアレだし。
「そんなぁ、縄つけてでも首輪付けてでも良いからぁ」
「犬耳コスですか? 絶対拝見したいです」
裾上げなどの微調整をしてもらいながら、すっかり好いていただけたようで、こんな話までされます。
「アタシ、前は王宮で働いてたからぁ、アマリには小さい頃からお洋服を作ってあげてたのよぉ」
「ええ、良いなあ!」
「良くないわよぉ! 今でも作ってあげるんだけどぉ、ほらぁ、あの子ってほとぉんど同じデザインしか着ないでしょう!?」
「うふふ、アマリさん、きっと可愛いお洋服は恥ずかしいんですよ。似合いそうなんですけどね」
「好きな男の子でも出来たら変わるかと思ったらぁ、ひどいのよぉ! 詰めに詰めたら怒ってぇ、『好きな人は服飾に全く関心のない人だから良いの!』って言うのよぉ! もおぉ困っちゃうわよねぇ!」
「詳しく聞かせてください」
何か聞き捨てならないキーワードが聞こえて来た気がします。
「詳細の情報が必要です。詳しく聞かせてください」
「え、ええとぉ」
そうしてイザベラさんから引き出した情報から、名探偵私はとある推理を立てました。
店を出る前に『透明探偵帽』を二つ購入し、ステルス効果+100です。
大通りに出ると、爽やかな風が吹いていました。
「ようし、良いお買い物もしたことですし、邪魔しに行きましょう」
「冒頭から鮮やかなブーメランじゃね?」
魔物系素材販売店、どこでしたっけね。
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