パンが好きすぎる見習い錬金術師、討伐依頼に挑戦

第17話 レッツメイクアツアツデニッシュ ①

 おはようございます。私はエミリア・ベーカー。見習い錬金術師です。


「ぐっつぐつ〜っと」


 様々なことがあった春の感謝祭から一夜が明け、いつも通りの朝がやってきました。気持ちの良い朝日を浴びながら、レッドリザードの鱗、ルベラ鉱石、はじける種を錬金鍋に投入します。


 ぐるぐるとかき混ぜ、バラバラになったエレメントがよく混ざりきったら呪文を唱えます。


「エホオノ モロヨ スンウッソ ダイカ!」


 完成です。


 出来上がったのは、こちら。陽の光を反射しキラキラと紅く宝石のように光る美しい魔導具。


 ちょうど良いところに起きて来たジーン先生にその品質を評価してもらいましょう。


「おはようございます、ジーン先生! 見てください!」

「朝から熱心だな、エミリア」


 自信作を手に持ち、ジーン先生に駆け寄ります。


 ああ、早く感想が聞きたい。


「紅玉魔石が出来ました!」


「パンじゃない……だと!?」


 手元の魔宝石を見せると、ジーン先生は目を見開きました。


「燃え盛る炎! 紅玉魔石です!」


 この紅玉魔石という魔道具は、魔物に投げつけると魔力を使わずに炎攻撃ができるというお得な代物です。


「風邪か!? 熱があるのか!?」

「なんですか! パン以外の魔道具作っただけでしょう!」

「そうだな!?!?」


 そのまま額に手を当てられ氷嚢と薬とゼリーとを準備されてしまいました。


 いったいなんなんですか。


「あ、そうだ。それから、魔物の討伐ってどうやるんですか? この魔導具を使えば私でも出来ます? ちょっと欲しい魔物素材があって」


 追加質問をするとジーン先生は幽霊でも見たかのようなお顔をされます。


「弟子が突然真っ当に成長している……?」

「素晴らしいことじゃないですか」

「不安になる」

「なんてストレートな」


 育っていく弟子に置いていかれるのがそんなに恐ろしいのでしょうか。


「ジーン先生も早く真人間になれると良いですね」

「減らず口は変わらずか」


 大混乱のジーン先生のため、昨晩のジャスくんとのやり取りをかいつまんで説明します。


「というわけで、この紅玉魔石を素材として攻撃パンを作ることは出来ますか?」

「いつも通りの弟子だった」


 ふむと考え込んだジーン先生でしたが、棚へと向かい、すぐに戻ってきました。


 まずはエン麦粉、ミルク、黄金卵を鍋に入れます。ここまではお馴染み。


 ここからが師匠たるジーン先生の腕の見せ所。食材に続き紅玉魔石が鍋に投入されます。


「見えている地雷のような絵面ですね」

「お前が言ったんだろう。というかお前オリハルコンパンとか作ってただろ」


 そしてさらに追加に──あ、もう嫌だ、多種多様な基礎調合剤が準備されています。


「レッドリザードの鱗、ルベラ鉱石、はじける種。これらから出来る紅玉魔石を可食の硬度にするため、固きエレメント、水のエレメント、塞ぐエレメントなどを追加し各エレメントの比率を調整する」

「というと……」

「全ての素材をエレメントに分解し、完成品のパンから逆算して不足するエレメント全てを計算し追加する」

「わあ……」


 ジーン先生の解説は相変わらず理屈派が行きすぎていっそ力技です。


 加える基礎調合剤の種類と量を決定し、なんとかレシピが出来上がります。死ぬかと思った。


「クシツャク ネウコノ イナウ スンウッソ ダイカ!」


 あとはいつも通り、魔力調整剤を加えて、余分な調術液を吹き飛ばします。


 蓋を開けるとそこには──


「パンはパンでも食べられな……嘘食べられるの!? 紅玉魔石デニッシュ!」


 攻撃アイテムのパン、新作魔道具の完成です。


「で、出来ました……! けど、どう使う魔道具なんですかこれ?」


 外見は至って普通のデニッシュパン。柔らかさを帯びる丸い形状に渦巻き模様が魅惑的です。


「魔物の口に放り込む。唾液と反応して炎が発生する」

「へえ。さっそく試食しましょう」

「聞いてたか今の説明?」

「聞いてますが?」


 半分に割ってみると、ジャムのようなものが入っており、巣状の生地が魅惑的です。


「やめろよ? 本当にやめろよ!?」

「食べられないパンとか、世界の理に反していませんかね?」

「お前オリハルコンパンとか作ってただろ」

「折を見て完食に挑戦してますけど?」

「無茶しやがる」


 しかしジーン先生、淡々としてクールに見えたのは最初だけで、少し踏み込めば相当な世話好きのド変人です。変な人だけど良い人。


 デニッシュを食べようと大きく口を開いたところで、ぐいと首根っこを掴まれて外に連れ出されました。

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