外伝 王宮の錬金術師②

 感謝祭の翌朝、秘密の部屋へ向かうと、扉の奥からケホケホと咳の音が響く。


 今日も調子は良くないらしい。


「こんにちは、レティ」

「……アマリお兄様!」


 荊棘に蝕まれ、それでも懸命に身体を起こす彼女に心が痛む。


「あ、違う違う、アマリお姉様だったわね!」

「好きに呼んで良いよ。こちらも好きに話させてもらっているし」

「じゃあアマリおにねえ様!」

「言いづらくない?」


 思っていたよりは元気そうだ。毎日青ポーションを飲んでもらうようになってから心なしか顔色は良くなった。


「ポーションは足りてる? また作るから遠慮せずに飲んでね」

「うん、ありがとう、アマリ」


 促すと、彼女はこくりとポーションをひと瓶飲み干す。青い淡い光に包まれ、少しばかり呼吸が楽になった様子だった。


「ねえねえ、アマリ、昨晩の舞踏会はどうだったの? アマリにも素敵な出会いがあった? 皆楽しんでいたかしら?」

「大盛況だったみたいだよ」

「なんで伝聞形式なのよ?」


 サボりました。ごめんなさい。


「レティ、何か欲しいものはある? なんでも買ってくるし調合するよ」

「いらないわ。それよりアタシ、アマリに話したいことがたくさんあるの──」


 柔らかな髪を櫛で解いてあげながら、彼女が溜め込んでいたお喋りを聞く。


「……アマリが来てくれるのが、私の一番のお薬だわ」


 こんなことで力になれているかは分からないけれど。投げ出すことはしたくない。

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