第15話 レッツメイクパンクホットドッグ
こんばんは。私はエミリア・ベーカー。見習い錬金術師です。
「それではエミリア様、お手をどうぞ」
王子のお付きを名乗る腹黒っぽいお兄さんに詰め寄られている危機的状況です。そんな時にフェスタケバブの効果が切れてしまいました。
どうしましょう、冗談抜きに関わりたくないんですけど。でも断ったら断ったで面倒くさそうな気配がぷんぷんしますし──
「エマっち嫌だって」
と、困り果てていたところにジャスくんが割って入ってくれました。
「おや、どちら様でしたかね? 一体なんのご用でしょうか?」
「ちょおっと待った的な間男参上! この子、俺と踊るからシクヨロ!」
「おやおや随分と野蛮な男前ぶりですね。……また居場所をなくしたいのですか?」
腹黒近侍さんは懐から小さな杖を取り出しました。攻撃魔法の構えです。
「マ? ガチ決闘タイム? 運営から締め出し喰らうよ? ……いやそれ最高じゃん」
ジャスくんは剣に手を伸ばそうとし、そして舞踏会用の正装で帯刀していないことに気が付いたようです。
しかしそのまま武闘の構え。
「拳で戦う痛みこそ浪漫よな〜」
「愚かですね」
「罵倒助かるし」
一触即発のヒリついた空気が流れます。
もしやこれは伝統的乙女の夢、私の為に争わないでの状況なのでは。
なんて言ってられません!
舞踏会は楽しく平和に!
「こちら私の為に争わないでパンです」
「「私の為に争わないでパン!?」」
両者の口の中に新作のパンを突っ込みます。
実は、こんなこともあろうかと舞踏会に来る前にもう一つ魔道具を作って来たのでした。
以下、回想を挟みます。
***
ケバブ試食。
「素早さ最大化!?」
「失敗」
「否! 成功! 超速故もう一品!」
疲労故深夜気分。
「何効果期待?」
「未定。パン不足故パン確定」
「不足? 護身用具携帯すべき」
「舞踏会護身必要?」
「エマ可憐、必要」
麦粉、卵、乳、牛豚肉、葉、実、塩、酢、香辛料、辛子。
「オクマヤメオノヒクソサ スンウッソダイカ」
完成。
「喧嘩両成敗ホットドッグ!」
試食。踊る。
「無力化手段独特!」
「馬鹿魔道具」
「成功!」
成功故お誘い。
「いざ共に舞踏会」
「否」
一貫。
***
回想終わりです。
「……というわけです」
「待ってなんも分からんまま振り回されんの癖になりそう」
「大変失礼ながら僕にも理解可能な言語で話していただけませんか?」
さあ、効果発動タイムです。私が手を叩くと、お二人の動きが止まります。
「……」
「……」
さらにもう一度手を叩くと、あら不思議。
突然、先ほどまでの流れをぶった斬り、二人は仲良く踊りだしました。
「シャルウィダンスってこと?」
「踊る馬鹿と見る馬鹿なら前者の方がまだ賢いと?」
こちらヒップホップホットドッグ。食べた者は攻撃力が下がり、全ての魔法を封じられ、踊りの呪いがかかります。争いを収め平和をもたらす素晴らしい魔道具です。
──ただしダンスの内容は異国の不思議な踊りボンダンス。
「はぁ〜ヨイヨイのヨヨイのヨイ」
「あそれドッコラショのヨイヨイ」
独特のリズムで踊り狂い出すお二人でした。
「す、素晴らしいダンスでヤンス!」
「まあ、何ですのあの踊り!?」
「イケてるわぁ」
でもお上手です。美男子二人の珍妙な踊りは先程よりも断然抜群に会場の視線を集めていました。
それはそう。
「ナイスダンスバトルじゃんね」
「なんたる恥……」
効果が切れると腹黒近侍さんは地面に崩れ落ちました。
「こんくらいの羞恥じゃ足りない」
一方ジャスくんはへっちゃらです。
戦わずして勝負ありです。
「くっ! 次はこうはいきませんよ! 覚えておくことです!」
腹黒近侍さんのいかにもな捨て台詞に、これで一旦大丈夫そうだなと胸を撫で下ろしました。
「一件落着? 物足りんな」
ジャスくんはなかなかこういう時頼りになりますね。言わば乱世で輝くタイプです。
さあ、舞踏会はまだまだこれから。
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