第12話 レッツメイクヤタイノケバブ ④

 こんにちは。私はエミリア・ベーカー。見習い錬金術師です。


「全部滅びれば良いのに」

「闇堕ちするな」


 ついに本日は春の感謝祭当日です。


 ブレストフォード西錬金所は広場近くの露店にて新作魔道具を絶賛販売中ですが、なかなか売れ行きが良くありません。


「あらダーリン、告白クッキーですって♡」

「ハッハッハ、君からの情熱的な告白はもうお腹いっぱいだよ♡」


 しかも私はアマリさんに舞踏会のお誘いをフラれたというのに道行くお客様はカップルばかりで、そりゃあ目だって死にます。


「焼畑農業?」(末永く爆発してください)

「闇堕ち語を使うな」


 そろそろ春の感謝祭廃止推進委員会会長を名乗っても許されることでしょう。


「荒れ果てた麦畑もまた美しくないですかね?」(どうしてこんなに売れないんですかね?)

「その喋り方をやめろ」


 特殊な話法で素朴な疑問をぶつけてみますが、ジーン先生は素っ気ない返答です。


「売れないパンはただのパンです?」(何か案はありませんか?)

「俺に集客のコツとか分かるわけがないだろう」

「置かれた場所で咲けてる?」(接客業辞めたら?)


 まったく頼りにならない師匠です。自分で考えるしかないようで。


 ふと、並べた魔道具、もとい、パンを眺めて考えてみます。もしや──


「やむを得ぬ収斂進化ですけど!?」(パン屋さんと思われてます!?)

「だろうな」


 脳内に稲妻が走ります。衝撃的事実でした。しかしこの師匠平然と特殊話法についてきますね。なんで。


「それじゃあ、まずは誤解を解くところからじゃないですか!」


 慌てて魔道具アピールを開始します。


「こちらブレストフォード西錬金所です! こちらのパン、普通のパンではなく、なんと魔道具! フェアリー粉蒸しパン! 魔力と体力の回復効果のある一品です!」


 声を上げ、お客様を呼び込み作戦です。ちょうど目の前に居た小さなお子様に試食を提供してみます。


「いかがですか?」

「紫ポーションで良くね?」


 購入に至らず。この良さは子供には分からないようです。気にせず通りがかったご婦人に次の一品。


「ドラゴンベーグル! 攻撃力をアップする一品です! いかがですか?」

「龍の秘薬じゃダメなのかしら?」


 購入に至らず。奥様には必要のない品でした。はい次。はい次。いかつい鍛冶屋のおじ様に次の一品。


「オリハルコンパン!! めっちゃ硬い!!」

「は!? すっげー!! 嬢ちゃんこれオリハルコンじゃねーか!! 使わせてもらうぜ!!」


 いかつい鍛冶屋のおじ様、お買い上げありがとうございます。


 結果売り上げ。オリハルコンパン十二個、ドラゴンベーグル三個、フェアリー粉蒸しパン二個、ワイトライス粉パン一個、デカデカナン一個。


「うーん、魔道具にオリジナリティが足りないんですかね」

「ある意味オリジナリティはあるんだけどな」


 悔しい結果です。しかしここからどう次回に繋げていくかが大事なのでしょう。


「まあ使い慣れた既存の魔道具の方が人気なのは仕方のないことだ」


 デカデカナンを食べながらジーン先生が慰めなのか愚痴なのか分からないことを言います。


「参考書の元になったばあさんの代がすごすぎたんだ。あれぞまさしく万能の魔女で、どんな魔導具でも作ってのけた」


 そういえば、元はこの錬金所はジーン先生の師匠がやっていたお店だそうです。以前はあんなことを言っていましたが、ジーン先生が冒険者をやらずこの店を続けている本当の理由はそれなのかもしれません。


「望まれる魔道具とは何か。『人々が自覚さえしていない欲求や困難を解決してこその魔道具』だと教えられたが。俺はどうにもそういうのが下手でな」

「作りたい魔道具ではなく、望まれる魔道具、ですか」


 世知辛い世の中です。商売の難しさを考えさせられる結果となりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る