「初めてのデート、ゆっくりの時間」

日曜日の朝。蒼影学園の生徒たちが日々の忙しさから解放され、ゆったりとした時間が街に流れていた。


インクは早めに目を覚まし、窓の外を見つめていた。晴れ渡る青空に、軽やかな風がカーテンを揺らす。今日はミリアムと初めての正式なデートの日だ。


少し緊張しながらも、期待に胸を膨らませていた。


「よし、準備は万端だ」

小さくつぶやき、スマホの時計を確認する。


一方、ミリアムもまた、家族に見送られながら玄関を出た。妹が少し恥ずかしそうに手を振る。彼女はお気に入りのワンピースを着ていて、どこか特別な日だという空気を纏っていた。


待ち合わせ場所の駅前カフェには、すでにインクが来ていて、テラス席に座りながら彼女の到着を待っていた。


「先輩!」

ミリアムが現れると、インクは立ち上がり、自然な笑顔を浮かべて手を差し伸べる。


「おはよう、ミリアム。今日はよろしくな」

「おはようございます、先輩。こちらこそ、楽しみにしてました」


初めてのデートにぎこちなさもあったが、それ以上にお互いの存在が嬉しくて仕方なかった。


注文を済ませ、ふたりはカフェのテラス席でゆったりとした時間を過ごした。優しい陽射しと穏やかな風が、二人の心をほぐしていく。


「先輩は、普段どんな風に休日を過ごしてるんですか?」

ミリアムが興味津々に尋ねる。


「俺は家でゆっくりすることが多いな。ゲームしたり、本読んだり。たまに友達と出かけるけど、基本はインドア派だ」


ミリアムは笑顔で頷きながら、自分の趣味も話した。好きな音楽や映画、最近見たドラマのこと。話は途切れることなく続き、自然と距離が近づいていった。


カフェでのひとときを終えると、次はデパートへ向かった。新作の服を見たり、雑貨を選んだり。ふたりは手をつなぎ、気ままにショッピングを楽しんだ。


「これ、ミリアムに似合いそうだな」

インクが選んだスカーフを手に取り、彼女に見せる。


「ありがとうございます! 先輩のセンス、素敵ですね」

ミリアムは嬉しそうに微笑み、少し照れた様子でスカーフを受け取った。


時間が経つのも忘れるほど、二人はお互いのことを知り合い、自然な笑い声を響かせていた。


夕方が近づく頃、ふたりはデパートの屋上へ向かった。そこには小さな庭園とベンチがあり、夕陽がゆっくりと街を染めていく。


「今日はありがとう、先輩」

ミリアムが静かに言う。


「俺もだ。ゆっくり過ごせてよかった」


夕陽の光がふたりの影を長く伸ばす。まるで時間が止まったかのように、二人だけの世界がそこにあった。


「また、こんな時間を過ごそう」

インクがぽつりと言うと、ミリアムは頷いた。


「はい、ぜひ」


ふたりの歩幅は、まだゆっくりだけど、確かに重なり始めていた。


次回予告「学園の風景と新たな一歩」

新しい季節の足音とともに、蒼影学園の日常が戻ってくる。

恋人になった先輩と後輩は、学校でのささやかな会話や、部活の時間を通して少しずつ距離を縮めていく。


けれど、新たな試練や葛藤も静かに近づいていた。


「二人はこのまま歩幅を合わせ続けられるのか?」


次回は、学園の風景を背景に描く日常の中で、ふたりの関係に揺れる感情と小さな事件をお届けします。


どうぞお楽しみに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る