【完結】ブサイクな私が子どもを庇って転生したらモテモテになるチート能力を手に入れたので今世は楽しんでやろうと思います

一ノ瀬和葉

第1話 意味のない人生に、最後の光

 前書き


「地味でブサイク」って言われるの、慣れてた。

 誰にも好かれず、自信もなくて、人生に期待もしなかった。


 ……それでも、あの日。

 小さな子どもをかばって事故に遭って、目が覚めたら――そこは異世界。


 そして、目の前に現れたのは、なぜかやたらノリの軽い女神様。


「あら、来たわね~! よく頑張った、つらい人生お疲れさまっ!

 なので今から、チートと美貌と人気、ドドンと全部盛って異世界送りでーす☆」


 ――いや、あなた誰⁉


 こうして始まった、人生逆転の異世界生活。

 気づけば、パン屋の店主にプロポーズされ、

 魔物はゴロゴロ喉を鳴らしながらお腹を見せ、

 街ではすれ違うたびに人々が「惚れた」「付き合って」と大行列。


 でも、ふと思ったんです。


 この人たちは、私の“なに”を見て惚れてるんだろう?

 スキル? 顔?……それって、本当の「好き」なの?


 チートで手に入る恋じゃなくて、

“私”という人間を好きになってくれる誰かに、出会いたい。


 ――そんな私が、ある日ふと出会ったのは、

 どこか懐かしい瞳をした、ひとりの青年でした。


 これは、ひとりぼっちだった私が、

 今度こそ「ほんとうの恋」を見つけるまでの物語。


 笑って、悩んで、泣いて、そして――恋をする。

 ちょっと不器用な恋の物語を、どうか見届けてください。



 本文



「またあんたか、地味な顔して目立たないように歩きなさいよ」


 朝の通学路。そんな言葉を浴びせられたのは、一度や二度じゃなかった。


 22歳、名城 美琴(なしろ みこと)。小さな頃から「ブサイク」と言われ続け、人の輪の外側を歩くのが当たり前になっていた。


 鏡に映る自分の顔は、確かに整ってはいなかった。太めの鼻、つり気味の目、小さな口元。整形したいと思ったこともあるが、その資金もなければ勇気もなかった。


 バイトと大学の往復。友達も恋人もいない、誰にも気づかれない毎日。


「こんな人生、何の意味があるのかな……」


 ポツリと漏らしたその言葉すら、誰にも届かない。まるで空気のような存在。それが美琴だった。

 その日は、いつもと同じく、静かで退屈な一日になるはずだった。


 駅前の横断歩道。信号が点滅し始め、人々が小走りになったとき――小さな影が、車道へと飛び出した。


「危ないっ!」


 反射的に体が動いた。子どもをかばい、代わりに美琴の身体が車に跳ねられた。


 衝撃。浮遊感。そして、真っ白な光。


 目を開けると、そこは暗く、静かな空間だった。


「……死んだんだ、私」


 諦めにも似た納得とともに、足元に柔らかな光が差した。


「ようこそ、美琴」


 声のする方を見ると、そこには人とは思えぬ美しさを湛えた存在が立っていた。透き通る髪と瞳、性別を超越したような神秘の存在。


「私は“記録者”と呼ばれる存在。君の人生を、最初から最後まで見ていたよ」


「……全部? 黒歴史とかも……?」


「うん。中学二年のときに書いてた“闇の契約ノート”も、全部ね」


「やめてぇぇぇぇぇっ‼」


 私は地面(っぽい場所)に転がって叫んだ。


「あと、風呂場で自作の歌を歌ってた件も記録済みだよ。“孤独に咲く、影の華”とか……いい歌詞だったね」


「やめてえええええええええええ‼‼‼」


 記録者(という名の女神)は真顔でうなずいた。


「君の人生、確かに報われなかった。でも私は見ていた。日々を諦めず、泣きながら生きる君を」


「ちょっと感動してきた……ありがとう」


「だから報酬として、君には“絶世の美貌”と“魅了スキル”を与える」


「えっ、そんなすごいの?」


「うん、君の顔を見るだけで、村人が正気を失うレベル」


「バグじゃんそれ」


「ただし一つだけ注意して」


「え、何?」


「動物にも効くから、犬とか馬がめちゃくちゃ寄ってくる。あと、魔物にもたまに効く」


「モテるってそういう……!?」


「魔物が腹見せてスリスリしてくるけど、それは友情。たぶん友情。知らんけど」


「神ぃぃぃぃぃぃ‼」


 記録者は笑った。


「じゃあ、次の世界でがんばってね。爆モテ人生、いってらっしゃーい!」


「軽っ‼」



 目を開けると、そこはまるで中世ヨーロッパを思わせる異世界の街並み。自分の姿を水面に映すと、思わず息を呑んだ。


 ――誰だ、これ。


 大きな瞳に、すっと通った鼻筋、ふっくらした唇。黄金のような髪が風に揺れ、まるで物語の中のヒロインのような容姿になっていた。


「これが……私?」


 頬をつねってみても、夢ではなかった。


 そのとき、近くを通った男性が、こちらを見た瞬間、鼻血を出して倒れた。


「……これ、ヤバくない!?」


 美琴の新たな人生が、ド派手に幕を開けた。


 転生した街は、王国でも有数の商業都市〈グランセリオ〉。人々がにぎやかに行き交い、香ばしいパンの匂いと馬車の音が混じる活気ある街だった。


「とりあえず、宿探さなきゃ……」


 そう呟いて歩き出した瞬間、周囲の視線がビシビシと刺さった。


「美しい……! まさか天女……?」「あの方にパンを贈りたい!」


「俺の人生、今この瞬間に意味を得た!!」


 美琴が一歩歩くたびに、悲鳴のような賞賛が飛び交い、人々が次々と花束や贈り物を押し付けてくる。


「えっ、ちょ、重っ、バラは痛い! なぜバラ⁉」


 宿屋に着くまでにパン、野菜、手編みのマフラー、木彫りの天使像まで手に抱えさせられ、完全に不審者状態だった。


「こんにちは……泊まりたいんですけど」


 受付の青年がこちらを見た瞬間、全身がフリーズ。


「こ……こちらはお姫様専用の最上階スイートでございます‼」


「いや、普通の部屋でいいんだけど⁉」


「いえ、絶対にダメです‼」


 強制的に連れて行かれたのは、王族でも泊まらなそうなふかふかのベッドと果物山盛りの部屋だった。


「ちょっと買い物だけ行こう……普通の顔して歩けばいいよね」


 だが、普通に歩いても事態は収まらなかった。


 八百屋の親父は「このカブ、魂ごと持ってってくれ」と泣き崩れ、肉屋では「これは私の命の肉です‼」と叫ばれる始末。


 パン屋の少年が「結婚してください‼」とパンを差し出してきたときには、さすがに美琴も困惑した。


「え、婚約パンって何!?」


 帰り道では、村の神官に呼び止められた。


「お美しい方……運命が導きました。この私と、今ここで神の前で契りを……‼」


「やめて!? 神前式はちょっと早い‼」


 そして宿へ戻る途中――草むらからスライムが飛び出してきた。


「ぬる……」


「うわっ!?」


 しかし、スライムは美琴を見るやいなや、ぷるぷる震えて地面にぺたんと伏せた。


「……服の裾を舐めないでくれる!?」


 さらに、丘の上から飛んできた小型のドラゴンが、美琴に頬をスリスリしてきた。


「うん、これ絶対友情じゃない」


 とりあえず、ドラゴンは宿屋の倉庫に預けた。宿屋の人間は涙を流して「こんな尊いお方にドラゴン……」とひれ伏した。


(これ……生きてくの大変かも)


 そんな予感が、美琴の中で現実味を帯びていった。


 ――第1話 完


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


 次の話もお楽しみください。


 一ノ瀬和葉



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