第30話 報酬と帰還



  宿を出た俺は、ゆっくりとした歩みで冒険者ギルドを目指した。


 朝日を浴びながら、少し肌寒さを感じつつ風が身体を通り過ぎていく。 

 

 一歩外へ出ると、そこには町の人達が朝の活動を開始している。


 小鳥の歌が、朝日の到来を祝福している。


 町の人たちは家の先を掃除したり、店を開店させたり、配達員が走っていたり。


 散歩に出たお年寄りが、朝の挨拶を交わし、おはようと声を掛けられる。


 俺も気分良く、おはよう。っと返事をした。


 ああ、そうか。


 俺達冒険者は、こういう人々の営みを守ったんだよなと自覚する。


 自然の風景を楽しみながら、俺は冒険者ギルドの前まで来た。


 朝の冒険者ギルドは大変な賑わいを見せていた。まあ無理も無い。


 みんな山賊団の討伐クエストを完了させて、ギルドからの報酬に期待している。


 受付は混雑していた、この町の冒険者達だけでなく、他の町や村からやって来た冒険者も報酬を受け取るので、結構待たされる筈だろう。


 酒場も賑わっている、テーブルには様々な料理やジョッキが並び、昨日の続きをしている感じだな。


 空になったジョッキにウエイトレスがエールを注ぎ、それを浴びる冒険者。


 「まだやってんのか、呆れたな。昨日からの続きをやってるみたいだな。」


 「おお~~う、ジョ~じゃねえか。こっち来て一杯付き合えよ~。」


 「バーツさん、飲みすぎですよ。」


 「あははは、昨日から呑みまくってるからねえ。あたいも旨い酒にありついてご機嫌さね。あはははははははは。」


 「ベル、大丈夫なの? そんなに飲んでさ。」


 「だーいじょーぶだって、空だって飛べるよ。あははははははははははは!」


 駄目だこの人達、ただの酔っ払いだ。


 「ほらほら、今日は山賊討伐の成功報酬を貰う日でしょ? 早く受付に行きましょう。でないと、俺達の分が無くなっちゃいますよ。」


 「おお! そいつは困る。おいベル、しゃっきりしろ。俺等も受付へ行くぞ。」


 バーツさんは復活した、酔っているとはいえ、報酬の件になれば真面目になる。


 「おっと~、そうだったねえ~、あたいも貰うよ~、勿論~、報酬を~。」


 ベルはまだ酔っている様だ、一体どれぐらいの量の酒を飲んだのか?


 「ベル、ドワーフは酒呑みってのは解ったから、酒に飲まれるなってば。」


 「なにを~、あたいは酒に溺れてないよ~。もうとっくにしらふだよ~。」


 嘘つけ! 完全に酔っ払ってるじゃねえか。


 「ほら、ベル。受付に行こう、他の人も並んでいるんだからさ。」


 「あたぼうよ~、とっとと並ぶよ~。」


 俺はベルを立たせて、倒れない様にサポートしつつ受付へ向かった。


 「へっへっへ、幾ら位の報酬を貰えるのか、楽しみだぜ。」


 「違いないですね。」


 「酒持ってこーい!」


 ベルはやかましい、やっぱり酔ってるな、こいつ。


 順番を待って、並んでいると、他の冒険者たちも酒に酔っている様子だった。


 「なんだ、別にベルだけって訳じゃなさそうだな。」


 「はっはっは、昨日から飲み明かしてたからな。俺も今酔いが覚めたところだ。」


 「俺はもうとっくに覚めてますよ、昨日の段階でぐっすり眠ったので。」


 そうこう話していると、俺達の番に回って来た。


 受付嬢から事情を訊き、山賊討伐の報告をして、ギルドカードを提示した。


 ギルドカードを見ていた受付嬢が、俺達を見て興奮していた。


 「確認しました。討伐数が振るったようですね、しかも高額賞金首のバレを討伐ですか。お疲れ様でした。では、こちらになります。」


 そう言って、受付嬢は俺達に金貨50枚を渡してきた。


 「こ、こんなに貰えるんですか?」


 「はい、通常の報酬に加え、高額賞金首の討伐ですからね。」


 こいつは凄い、かなりの金額を貰ってしまったよ。金貨50枚か、大金だ。


 報酬を受け取り、俺達は再びテーブル席に戻って来た。


 「さあ、お待ちかねの報酬山分けだ。」


 「あたいは今回活躍したよね?」


 「これで当分は生活に困らないな。」


 バーツさんがパーティーリーダーなので、報酬の山分けは三人均等に分けていた。


 一人金貨16枚だが、俺はバレを討伐した功労者として金貨2枚を余分に貰った。


 「いいんですか? 俺だけ多く貰っちゃって。」


 「いいとも、ジョーが止めを刺したのは事実だし。持って行けよ。」


 「有難く貰って行きます。」


 やったぞ! 金貨18枚も貰ってしまった、これで当分は生活に困らない。


 「で、ジョー。これからどうする?」


 「俺は、一旦村へ帰ります。報告したい事や、けじめを着けなきゃいけない事がありまして。」


 「そうか、解った。俺はまだここに居るから、用があったらまた会おうぜ。」


 「あたいはネリー姫様の為に、王都奪還に力を貸すよ。引き続き雇われだね。」


 「じゃあ、ここでお別れだね。バーツさん、ベル、色々と世話になったね。俺一人じゃ何にも出来ずにウロウロしてたと思うよ、だから、色々ありがとう。」


 「おう! 気を付けて帰れよ、カリーナちゃんによろしくな!」


 「ジョー! 帰りにモンスターにやられんじゃないよ! 何かあったらあたいに相談しに来なよ! いいね!」


 「ああ、それじゃあ二人共、またいつか!」


 俺は手を振って二人と別れ、冒険者ギルドを後にして、マーロンの町を出た。


 途中、モンスターなどの遭遇は不思議と無かった。順調に村まで辿り着いた。


 先ず、俺は村長の奥さんに報告し、山賊討伐と、仇を討った事を伝えた。


 「ご苦労様だねえ、ジョー。だけど、あんまり危ない事はしないでおくれ。」


 「はい、じゃあ、俺は親父とお袋へ報告しますんで。」


 そう言って、村長の奥さんと別れ、村の中を歩いていると、カリーナと出会う。


 「カリーナ、もう出歩いても平気か?」


 「うん、まだ気持ちの整理が出来てないけど、いつまでも塞ぎ込んでいてもね。」


 そうだよな、今回の件でカリーナは、相当心に傷を負った様だし。


 ここは温かく見守って、様子見をすれば良いと思う。


 カリーナと別れ、俺は自分の家へ戻った。


 「ただいま。」


 俺一人の声が響き、静けさが漂う家は、どこか広く感じた。


 表へ出て、親父とお袋の墓前に両手を合わせて合掌し、村の男衆の仇を討った事と、攫われた女性達を取り返した事を報告した。





 その日の夜、夢を見た。


 親父とお袋、そしてじいちゃんが居て、俺はまだ幼かった。


 食卓を囲み、夕食を食べ終わった後、じいちゃんがこんな事を言った。


 「なあジョー、お前は将来、何になりたい?」


 俺は、迷う事無くこう答える。


 「僕、じいちゃんみたいな冒険者になりたい!」






 

 ジョーの家の納屋には、宝箱が二つ置かれている。


 一つは、ジョーの祖父の冒険者道具が入った宝箱。


 そして、その隣には真新しい宝箱が置かれていた。


 その中身は、ジョーの今までの冒険で得た道具が、入っている事だろう。




 第1部  了


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TRPG風の異世界で作ったキャラに転生? モブキャラプレイヤーの冒険記 愛自 好吾(旧月見ひろっさん) @1643

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