第26話 山賊団討伐作戦 ③




  ラケル隊――――



  「進めえーーー!!! ここで敵の数を減らすぞおーーー!!!」


 「迎え撃てえーーー!! ビビるこたあねえ!! 相手は寄せ集めだあーー!!」


 本隊であるラケル隊は、同じく敵の本隊である山賊と対峙していた。


 250対250。


 両雄入り乱れて混戦になっていた、だが、ラケルの指揮の元、寄せ集めとはいえ中々に奮起していた。


 激しい激突、怒号、悲鳴、剣戟の大音量、叫び、それらが入り乱れ飛び交っていた。


 しかし、流石は山賊団というだけはある、統率の取れていない戦線にも関わらず、一進一退を繰り返している。


 お互いに消耗し、数が少しずつ減って来た頃を見計らうかのように、山賊が突如撤退し始めた。


 「そろそろだ! 引けーー! 最初の仕掛けを使うぞーー!」


 親玉のリントンの指示により、山賊達は身を翻して一目散に逃げ出した。


 「追えーー! 追撃の手を緩めるなーー!」


 逃げる山賊たちにお追いすがる様に、ラケル隊は追撃を敢行。


 だが、細い山道に差し掛かったところで、左右から丸太や岩が転がって来て、ラケル隊を襲う。


 「くっ、しまった!? 罠か!?」


 細い山道では身動きが取れず、また逃げ場も無い為、ラケル隊に多大な被害が出る。


 「くそう! みすみす敵の罠に嵌まるとは! 生き残った兵は?」


 「ざっと、150名程です。ラケル様!」


 「150か、ギリギリだな。」


 そこで山賊達はまた転身し、今度はラケル隊に襲い掛かる。


 「いけえーーー!! 踏みつぶせえーーー!! 生き残った数を根絶やしにしろおーー!!」


 山賊達が一斉に襲い掛かり、防戦を余儀なくされたラケル隊は、ここで踏ん張る。


 「踏ん張れえーーー!!! 残った敵の数、決して多くないぞおーーー!!!」


 ラケル隊は苦戦しつつも、善戦し、山賊団相手に一歩も引かず、勇敢に立ち向かっていた。



  エステル隊――――



 「ラケル隊がおっぱじめたようだ。」


 遠くの方で沢山の声が聞こえてくる、本隊が作戦を開始したようだ。


 「始まりましたね、私達も行動を開始しましょう。」


 エステルさん達遊撃隊が、坑道の反対側の出口へ向けて進軍し始めた。


 出口は全部で3つ、どれかが本命で、どれかがハズレだろう。


 こういう罠もあるって事だな、やってくれるよ山賊め。


 「どうします? どこから行きましょうか?」


 「まて、ちょっと様子を見よう。」


 そう言ってバーツさんは一人先行して、出口の前まで来て手をかざした。


 「何をやってんだろう? バーツさん。」


 俺の疑問に、トムスさんが答える。


 「ああ、バーツの奴はああやって風を読んでいるのさ。」


 「風ですか?」


 「入り口があるって事は、出口がある。当然、風の通り道もな。」


 「なるほど、そう言う事ですか。」


 手をかざし、風があるならその出口が当たりという事。


 残りの出口はトラップが仕掛けられている事だろう。


 もしくは、ただの行き止まりか。


 「ご苦労なこった、風を読めば大体解るからな。数少ないバーツの特技だよ、あれは。」


 「へえ~~。」


 人にはそれぞれ、なんらかの特技があるという事か。バーツさん然り、ベル然り。


 当然、俺にも。


 「解ったぜ、この出口から風が吹いている。ここだ。」


 3つある出口から、一つの穴に指差し、バーツさんが俺達に言う。


 「でかしたバーツ。 よしお前等、行くぞ。」


 「はい。」


 「任せな。」


 俺達のグループが先に出口に入って進み出す、その後ろからエステルさん達の隊も着いて来る。



  山賊サイド――――



 廃坑の奥、薄暗い部屋で山賊の頭目、リントンがぼやく。


 「まったく、よくもまあこれだけ兵隊を集めたもんだな、くそったれが!」


 床に転がる酒瓶を蹴飛ばし、リントンは憤慨していた。


 「もう少しやれると思ったんだがな、あいつ等まるで素人の集団じゃねえか。」


 リントンは仲間の山賊達の不甲斐なさに頭にきていた、そこへ、手下がやって来る。


 「か、頭! もう駄目でさ! 奴等とうとうこの坑道まで侵入してきやしたぜ!」


 「狼狽えるな! 奴等はただの寄せ集めだろうが! キチンと対処すりゃあ返り討ちに出来んだよ! このクズどもが!」


 「ど、どうしやしょう。頭。」


 この洞穴にはトラップが仕掛けられていた筈だが、ラケル隊の優秀なシーフの活躍により、全て解除されていた。


 「ちっ、くそったれが! こうも上手くいかねえとはな、おいバレ! お前は捕まえた女共を連れて先に脱出してろ!」


 「え? リントンの兄貴はどうすんだよ?」


 「俺は最後の仕掛けを準備してから脱出する、心配すんな。直ぐに追い付くからよ。」


 「けどよ。」


 「いいから行け! 奴隷商人をちゃんと護衛しながら行けよ! わかったな!」


 「わ、わかったぜ。兄貴。」


 リントンはそう言って、奴隷商人の方を向き、嘆息した。


 「と、言う訳なんで、あんたは先に脱出しといてくれや。な。」


 「それは良いが、巻き込まれるのはまっぴらごめんだ。女の品定めは移動と同時にやるからな。」


 「へいへい、解りましたよ。で、金は?」


 「そんなものは、脱出が出来た後で幾らでも払う。先ずワシを安全に脱出させてくれよな。」


 「解ってますって、こっちにはバレが居ますからね。更にアインも居ます。そうそう負ける事はありませんぜ。安心してくだせえ。」


 「ふん、口だけなら何とでも言える。頼みましたぞリントン殿。」


 そう言いながら、奴隷商人と共にバレは脱出に向かうのだった。


 坑道の奥、鉄格子が嵌まっている牢部屋の中に、数人の捕らえられた女性が居た。


 「何か外の方が騒がしいみたい、何かあったのかしら?」


 ジョーの幼馴染、カリーナは牢部屋の扉付近に移動し、外の音を聞いた。


 「もしかして、私達を助けに来たのかも。」


 このセリフに、他の女性たちも声を殺しつつ歓声を上げ、助けが来るのを待っていた。


 しかし、やって来たのは山賊の大男、バレと奴隷商人だった。


 「おいお前等! ここを出ろ!」


 言いつつ、牢部屋の扉の錠を開け放つ。


 「何があったんですか?」


 勇気を出して大男に質問したカリーナは、しかしアイアンクローをされて連れ出された。


 「喋るな! いいからここを出るぞ! 急げ!」


 横暴なバレのやり口に、他の女性達は恐怖し、言う事を聞くしかないと悟った。


 次々と牢部屋から出て来る女性達、そこへ、バレ達が予想だにしなかった者達が現れる。


 「そこで何やってんの?」


 その場に不釣り合いな、やる気の無い声、それは、ジョーの声だった。


 声に振り向き、バレは怒りの表情で相手を見る。


 「て、てめーら!? いつの間にここへ!? いや、どうやってここまで!?」


 「そんなの教える訳ねーだろが。」


 バーツが言い、他のメンバー達が合流して、状況は一変する。


 「もう逃げられんぞ! 山賊共! 覚悟しろよ!」


 「捕らわれた女性達は返してもらう!」


 「それと、あんた等が溜め込んだお宝も頂戴するよ!」


 「どうやらここが当たりみたいだな、やるしかないか!」


 カリーナを見て、ジョーは安堵し、負けられない戦いにヒリつくのだった。



  ラケル隊――――



 シーフ達の活躍で、無事に坑道の奥まで辿り着いたラケル隊。


 そこで、大広間の様な天井の高い空間に出て来た。


 その広間の中央には、山賊達の娯楽で使われていたであろう闘技場があった。


 その闘技場の真ん中に、二人の男の姿がある。


 一人は山賊の頭目、リントン。


 そして、もう一人は。


 「ラケル様! 山賊の頭目を発見しました。」


 「よし! 頭目を倒せばこの作戦は終わりだ! 後は残った残党を追撃し、各個撃破していけば完了だ!」


 「ん? 待って下さいラケル様、頭目の隣に見慣れない男が立っています。」


 ラケルがその男を見た瞬間、戦慄が走り、妙な汗が出てくるのを感じたのだった。


 「あの男は、ま、まさか!?」


 リントンの隣に立っている男は、腰に真紅のキルブレードを提げ、どこか異国風の出で立ちをしていた。


 「へっへっへ、もうお前等は終わりだよ。アイン! 後は頼むぞ!」


 そう言って、リントンは後ろへと下がる。


 ラケルは戦慄する、その男の正体を知っているかのように。


 「ま、間違いない。アインだ。凄腕の剣士、アインだ。」


 「え!? アインって、あの真紅の雷光の異名を持つ凄腕の剣士アインですか!?」


 「皆は下がれ、アインは私が相手をする。」


 「無茶ですラケル様! 相手はあのアインですよ!」


 「だが、私だって騎士の端くれ、シルバーナイトなのだ。引けは取らん。」


 「し、しかし。」


 「もし私が倒れても、作戦は継続せよ。良いな。」


 「は、はい。だけど勝って下さいよラケル様。貴方はここで倒れる訳には行かない人ですからね。」


 「ははは、上手くやるさ。」


 こうして、ジョー対バレ、ラケル対アインの戦いの火蓋が切って落とされた。

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