第25話 山賊団討伐作戦 ②



  冒険者ギルドでは手狭になってきたので、表の広場へ場所を移した。


 凄い数の人達が集まっている、みんな討伐隊に志願した人だろう。


 みんな強そうだ、頼もしい限りでなにより。俺も気合を入れる。


 そこへ、長椅子の上に立った二人の男女が皆を見回し、頷いていた。


 一人はエステルさんだ、もう一人は誰だろう?


 エステルさんと同じ騎士甲冑を着ているところを見ると、どうやらあの人が第一軍を指揮するのだろう。


 「みな、良く集まってくれた! 自分はラケル! 領主マーロン伯爵の息子で、騎士の叙勲を賜ったシルバーナイトだ!」


 シルバーナイトか、確か騎士の上級職だよな。あのラケルって人、只者じゃない。


 「自分が指揮を執るのは第一軍のラケル隊だ! そして、第二軍の指揮を執るのがエステル隊の指揮官、妹のエステルだ!」


 呼ばれてエステルさんが一歩前へ出た、お揃いの騎士甲冑はカッコいい。


 「細かい作戦は今は省く! どこで敵の耳と目があるか解らん! 現地に到着したら作戦を指示する! 以上、傭兵達は自分の指揮下に入ってくれ!」


 「冒険者たちよ! 私の指揮下に入って頂戴! 私達は総勢300名! 決して山賊団との戦力差に引けは取らない筈よ!」


 「では! 我等に着いて参られよ!」


 「目的は山賊団の討伐! これ以上好き勝手にさせてはなりません! 全員、奮起せよ!」



  「「「「「「「「「「 おおおおーーーーーーー!!! 」」」」」」」」」」


 拳を突き上げ、みんなは気合が入っているようだ。俺達のパーティーもこのノリに便乗し、叫んだ。


 「やってやるぜ!!」


 「目に物見せてやっからね!!」


 「俺だって!!」


 気合十分、マーロンの町が震えている様にビリビリとした空気になった。


 まず先にラケル隊が先行し、250名の傭兵や冒険者が続く。


 ラケル隊には領軍から30名作戦に参加したようだ、残りはこの街に残って待機だろう。


 続いてエステル隊が移動を開始した、俺達はエステル隊に配属された。


 本隊では無いが、少数精鋭での作戦があるのか、もしくは考えがあるという事だろう。


 山賊団のアジトへ向かう途中、モンスターが出て来たが、あっけなく退治された。


 「ここまで戦力が揃うと、魔物も怖くないですね。」


 「だが油断はするなよ、どこから山賊が待ち構えているか解らんぞ。」


 「脅かしっこ無しだよ、この人数相手に出て来るとは思えないけどね。」


 俺達が会話していると、バーツさんの知り合いのトムスさんがこちらに来て一言。


 「まあ、ラケル隊がモンスターの露払いをしてくれている。こっちは安心して目的地へ到着できるって寸法さ。」


 「確かにな、山賊共とやり合う前に消耗しちゃあ意味が無い。」


 「それに俺達、エステル隊は数が少ないですし、きっと何かの作戦があるんですよ。」


 「あたいもそう思う、エステルは兎も角、息子のラケルは優秀な騎士らしいし。」


 「へえ~~、そうなんだ? じゃあエステルさんも優秀なのかい?」


 俺の質問に答えたのは、トムスさんだった。


 「いや、聞いた話じゃエステル様はそこまで優秀ではないらしい。一応聖騎士を目指しているらしいが、さて、実力の程は解っちゃいないな。」


 ふーむ、おそらくこの戦いで功績を上げ、エステルさんは聖騎士になる為の一つの通過点と思っているのかもしれんな。


 「まあ、何はともあれ、ここまで来てしくじるなよ。バーツ。」


 「お前こそ、足元掬われるなよ。トムス。」


 トムスさんはバーツさんと同じ戦士で、バトルアックスを装備している。


 二人共斧戦士って感じだ、攻撃力が高く、打たれ強い。


 俺は刀を使う戦士だから、避けて切るタイプの戦闘スタイルだ。


 そこらへんは、ベルと同じ避けて切るタイプのシーフだな。


 ベルは手先が器用だから、解錠などで活躍できるだろう。


 山賊のお宝か、ちょっとだけ興味が沸いて来た。


 だが、考えてみて、それって村とか町から奪った戦利品じゃあとも思う。


 「なあベル、もし山賊のお宝を手に入れたら、どうする?」


 俺が聞くと、ベルは当たり前と言う様な口調で答えた。


 「そんなの換金するに決まってんじゃん。あたいだって生活かかってっからね。」


 なるほど、一理ある。


 しばらく山道を歩いていると、遠くの方に廃坑が見えて来た。


 俺達はここで一旦立ち止まり、ラケル隊もエステル隊も移動を止める。


 「よし、到着した。ここが山賊団のアジト、廃坑後を改造した要塞だ。みな、気を引き締めて事に当たってくれ。」


 「エステル隊、聞いて頂戴。私達は山道をぐるりと回り込み、本隊が突入した後、逃げ出す山賊を塞ぐ為、別の出口に陣を貼ります。」


 なるほど、ラケル隊が敵を引きつけ、その間にエステル隊が裏から侵入し内部かく乱。


 上手い作戦だと思う、確かにラケルさんは優秀だ。


 逃げられるかもしれない出口を押さえる事で、打ち漏らしを無くし、壊滅させる。


 確かに、これをやられたら一溜りも無い。


 加えてこちらの戦力は山賊の戦力とほぼ拮抗している、個人の戦闘力さえ高ければ負ける事は無さそうだ。


 「事前の情報によると、坑道内はトラップが仕掛けられている事が解っている。シーフのみなさんは先行し、罠を解除して貰いたい。」


 ラケルさんの指示で、シーフ達が先行しトラップを解除する。その護衛として数人の戦士が同行し、進む。


 「では、作戦開始!」


 その言葉を皮切りに、みんなが一斉に動き出し、各グループで行動を開始した。


 「よし、俺達も動こう。」


 「あたいの事、ちゃんと守ってよ。」


 「解ってる、ベルは俺達で守る。」


 「行こう皆。」


 「「「「 おう! 」」」」


 俺達のグループは俺とバーツさん、トムスさんとベルの四人パーティーで構成されている。


 六人パーティーではないので、あまり無茶な事は出来ない。


 坑道内もどうなっているのか、見た訳ではないので、おっかなびっくり進むしかない。


 俺達エステル隊は山道を回り込み、様子を窺いながら進む。


 木の陰から突然山賊が飛び出す可能性も考慮して、道の真ん中を進む。


 左右を警戒しつつ、油断無く歩き、耳を澄まして気配を感じ取る。


 「動物の気配はあるが、山賊の気配は無さそうだ。」


 「なあジョー。お前ってさ、なんでそんなスカウト寄りの特技を持ってんだ?」


 さて、どう説明したものか。


 キャラクターシートがどうのこうの、とかってのは無しだ。


 多分理解出来ないだろうし、もしかしたら秘密にした方が良いのかもしれない。


 余計な事は言わず、解らないと答えよう。本当はサブジョブだけなんだし。


 「何ででしょうね? 僕にもよく解らないんですよ。ただ、気配が解るとしか。」


 「ふーん、そういうもんか。」


 良かった、これで納得してくれたみたいだ。


 ベルを見ると、俺をジーっと見て薄目を開いて何か言いたそうだ。


 「ベル、集中して。」


 「してるけど、ねえ、ジョーって時々戦士以上の事をやってのける場合があるよね?」


 「何言ってんのベル、俺はただの戦士だよ。それ以上でもそれ以下でもありませんが。」


 「ふーーん、まあ良いけどね。あたいは気にしない主義だし。」


 ふう~~、助かった。仲間から疑問を持たれると、中々やり辛いんだよな。


 俺が日本からの転生者だという事は、秘密だな。


 いずれは話す事かもしれないけど、それは今じゃない。


 当分は先の事だ、今は考えなくても良い。兎に角先に進もう。


 しばらく歩いて進んでいたところ、真新しい出入口を発見した。


 「これだな、山賊共が掘った出口ってのは。」


 「見張りとか居ませんね、何かの罠でしょうか?」


 「まだ解らん、しばらくの間、様子見してから突入しようと思う。」


 「ジョー、エステルさんに報告してきてくれ。」


 「はい。」


 俺はみんなと一旦別れ、指揮を執っているエステルさんの居るところへと急ぐ。


 すると、他にも坑道の別の出口を発見したらしく、冒険者が数人エステルさんに報告して来た。


 「おそらく、出口は一つだけではないのでしょう。解りました、みなさんはここで待機、追って指示を出します。」


 「「「 はい。 」」」


 俺も報告し、エステルさんの指示を皆に伝える為に戻った。


 「なんだろう、嫌な予感がしないでもないけど、余裕は無さそうだ。」


 何故だか解らないが、時間が無いような、そんな気がした。

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